レジリエンスは、心理学や経営学で用いられる言葉です。
レジリエンスは、常に変化しつつある現代において、必要なスキルとしてビジネスの場で注目されています。
この記事では、ビジネスにおいて注目されている理由やレジリエンスを高める方法について説明します。
レジリエンスとは
近年、ビジネスの場で注目されているレジリエンスとは、英語で「回復力」や「復元力」、「弾性力」という意味を持ちます。ここでは、心理学での意味やビジネスでの意味についてそれぞれ見ていきます。
レジリエンスの心理学的意味
レジリエンス(Resilience)とは、ストレス(Stress)と共に元々は物理学で使われていた用語です。物理学においての意味ですが、ストレスは「物体の外から加えられた力によって物体が歪むこと」を意味し、レジリエンスは「物体の外から加えられた力で歪んだ物体がもとの形に戻る復元力や弾力性」を意味します。ゴムボールを想像してみてください。ゴムボールを「指で押すと凹む」、これがストレスです。「指を離すと元に戻る」、これがレジリエンスとなります。
1950年代から心理学の分野において使われるようになりました。心理学においては、「困難な状況から立ち直る力」、つまり「精神的回復力」と言う意味で使われています。「折れない心」や「打たれ強さ」、「心のしなやかさ」とも言えるでしょう。
レジリエンスのビジネスでの意味
それでは、ビジネスにおいてはどんな意味で使われているのでしょうか。
ビジネスにおけるレジリエンスには、従業員個人のレジリエンスと組織全体のレジリエンスの二つのレジリエンスがあります。
組織全体のレジリエンスは、災害やコロナウイルス感染症のパンデミックといった不測の事態に対する復旧力や、社会情勢や市場の変動などのビジネスを取り巻く環境の変化に対応できる組織の柔軟性を意味します。
従業員個人のレジリエンスは、個人のストレスや問題への対応力を意味します。
レジリエンスと似ている用語
レジリエンスと似ている用語に「ストレス耐性」と「ハーディネス」があります。意味を勘違いしやすいため、これらの用語を使用する際には注意が必要です。
ストレス耐性との違い
ストレス耐性とは、その人が「ストレスに耐えられる程度」を表す言葉です。
ストレス耐性は「どのくらいのストレスに耐えることができるか」という「耐える力」について注目しており、レジリエンスは「ストレスからの回復力」について注目している点で異なります。
ハーディネスとの違い
ハーディネスとは、「高ストレス下でも健康を害しにくい人々に共通する性格特性」のことです。
つまり、ハーディネスは「ストレスに対する防御力」のことであり、簡単に言うと「ストレスの影響を受けやすいかどうか」を指します。
ハーディネスはストレスを受けている瞬間のことに注目しており、レジリエンスは「ストレスから回復する力」のことですので、ストレスを受けた後のことについて注目している点で異なります。
レジリエンスが注目されるようになったきっかけ
本来、物理学や心理学の世界で使われてきたレジリエンスですが、ビジネスにおいても注目されるようになったのは2013年の世界経済フォーラム(ダボス会議)がきっかけです。
グローバル化によって、経済危機やアメリカ同時多発テロ、大規模自然災害、サイバー攻撃などの影響が世界中に及ぶことになりました。このような危機に直面しても世界経済が成長し続けるためには、レジリエンスが必要不可欠であると考えられるようになったのです。
また、東日本大震災後の国づくりや新型コロナウイルス感染症の拡大の際にもレジリエンスという言葉が使われるようになり、レジリエンスという言葉をよく聞くようになったと思います。
レジリエンスはビジネスにおいてなぜ重要なのか
ビジネスにおいて、レジリエンスはなぜ重要なのでしょうか。その理由として、企業と従業員の二つの観点から考えることになります。
大きく変化し続ける環境に企業が対応していく必要がある
まずは、企業の観点から説明します。
現代のビジネスを取り巻く状況を考えてみてください。
環境問題、自然災害、新型コロナウイルスによる影響、ウクライナ情勢、為替の変動など、ビジネスを取り巻く状況は予想ができないような目まぐるしい変化が続いています。このような困難な状況で企業が成長を続けるには、既存の価値観にこだわるのではなく、柔軟に対応して乗り越えていく力、つまりレジリエンスが必要とされるのです。
従業員のメンタルヘルス
次に従業員の観点から説明します。
近年、「健康経営」が重要視されています。この「健康経営」の観点から、従業員のメンタルヘルス対策としてレジリエンスが必要となるのです。
従業員のレジリエンスが高まると、ストレス下においても柔軟に対応することができるようになります。そのため、従業員の心身の健康を守り、ストレスでのうつ病の発症や辞職を防ぐことができるようになるのです。
レジリエンス能力を構成する要素
レジリエンスに関する書籍を執筆するカレン・ライビッチ博士は、レジリエンスを構成する8つの要素を提唱しています。
- 自己認識
- 自制心
- 精神的敏速性
- 楽観性
- 自己効力感
- つながり
- 生物学的要素(遺伝子)
- ポジティブな社会制度(家族、コミュニティー、組織など)
8つのうち1〜6つ目は、後天的に身につけられる要素として提唱されており、それぞれについて詳しく解説します。
1. 自己認識
自己認識とは、自己の思考、感情、長所・短所、価値観、行動などを客観的に見ることです。逆境や困難な状況に直面したときに、まずは自分の状況を客観的に分析することが回復への第一歩となります。ストレスに対して自分がどう感じているのか、どんな考えを持っているのかを冷静に分析する必要があります。
2. 自制心
自制心とは、自らの気持ちや言動を抑え、律することを指します。予測していないトラブルが起きた時に、衝動的に行動することなく、冷静に自己認識を行い、そして、自分の思考や感情をコントロールすることが重要です。感情的になることなく、落ち着いて行動しましょう。
3. 精神的敏速性
精神的敏速性とは、物事を多角的に捉え全体像を把握することを指します。物事や出来事に対し、部分的に捉えているだけでは適切な対処はできません。客観的に捉える意識によって物事の本質を見極められ、柔軟な対処が可能です。
4. 楽観性
楽観性とは、物事に対し前向きな感情やプラス思考を抱くことです。具体的に言うと、「もっと良いものになる」と捉えることや、「これは成長できる機会だ」と未来への希望を抱くような思考のことです。楽観性はストレスに対し、恐れる気持ちを打ち消す強さを持ちます。
5. 自己効力感
自己効力感とは、自分ならできるという自信を持つことです。どんな状況下でも自らの可能性を信じられると、困難に立ち向かう勇気が持てます。そのため、自己効力感が強いことによって行動力が高まります。
6. つながり
つながりとは、他者との関わり合いや関係を指します。ストレス環境下にある場合、相談できる友人や家族がいると、困難を乗り越えやすくなり、また、他者からの支えが精神的な安心へともつながる普段から他者との関係性を構築していることで、つながりは深めることが可能です。
レジリエンスが高い人の特徴
レジリエンスが高い人の特徴として、次の5点があります。
柔軟性の高い思考力がある
どんな状況下でも柔軟性のある思考ができます。例えば、誰しもがネガティブになってしまうような場面でも、プラスの要素を見出し、前向きに捉えられます。物事を部分的に捉えるのではなく、全体で捉えられるため、成長の機会を見つけ出しやすい特性があるのです。
感情をコントロールできる
その場の状況や周囲の意見に流されることなく、自らの思考や感情をコントロールできます。多くの人の場合、何かトラブルが起きた際には感情的になってしまいがちです。しかし、レジリエンスが高い人は自身の気持ちや感情を律することができるため、適切な感情のコントロールができます。
自尊感情が養われている
レジリエンスが高い人には、自らの思考を尊重できる、自尊感情が備わっています。自己認識能力が養われているため、自らの価値観や思考を認め受け入れることができます。そのためストレスに対しても落ち込みすぎず、大切にしている価値観や信念を振り返り、適切な対応を取れるのです。
常に挑戦し続けられる
自らに適度な自信を持っていることから、常にチャレンジ精神で物事に取り組みます。どんな状況下でも「自分ならやっていける」と前向きに捉えられるため、言動に挑戦心が現れるのです。自らの成長を実感できる人や、意欲的に物事に取り組める人は、レジリエンスが高い特性が見受けられます。
楽観的
ストレスがあったとしても、「これを乗り越えたら成長できる」とポジティブに捉えられます。困難な課題に対しても前向きに考えられるため、不安な気持ちで動き出せないようなことはありません。ストレスに打ち勝てる、強い気持ちや思考が言動に現れています。
レジリエンスを高める方法
レジリエンスは構成する要素によって後天的に伸ばすことが可能です。レジリエンスを構成する要素を意識して行うことがレジリエンスを高めることにつながります。
成功体験を積み重ねる
レジリエンスの構成要素に自己効力感があります。これを高めるには、成功体験を積み重ねて自信をつけ、「自分はできる」と自分を信じる習慣をつけることが大事です。小さな成功体験でも十分効果が得られます。
自尊感情を高める
自尊感情とは「自分には価値がある」と自分で思うことを言います。自尊感情が低いと自信が持てなくなり、失敗を恐れるようになってしまいます。自尊感情を高めるためには、自分で自分を褒める習慣をつけましょう。これも自己効力感を高めるのに役立ちます。
思考パターン変える
「私にはできない」「どうせ自分なんて」というネガティブな思考を持っている人はレジリエンスが低くなる傾向があります。自分の思考の癖を分析・把握し、思考を意識的に変えていくことが大切です。自己認識や自制心、自己効力感を高めるのに役立ちます。
周囲とのつながりを大事にする
周囲に相談したり、助けてもらったりすることもレジリエンスを高めます。自分では気づかない思考の歪みに気づくと共に、逆境から立ち直る活力をもらえたり、サポートが得られたりします。
レジリエンスの効果
レジリエンスが高まると、さまざまなメリットがあります。
- 業務への集中力アップ
- 本来の能力を十分に発揮できる
- 本質を捉えた課題解決
- 周囲のメンバーとの協業
- 中長期的な成長を見据えた活動
いずれも業務の成果や結果につながります。
レジリエンスを高める方法:「心理的安全性」視点での職場づくり
心理的安全性の視点を持った職場作りは、レジリエンス向上につながります。心理的安全性とは、社員一人ひとりが自らの意思を自由に発言できるような、安心して働ける職場の雰囲気を指します。周囲に怯えて発言ができない環境では、レジリエンスは向上されません。社員個々が主体的に行動できる環境は、強いチームや組織の形成につながります。
心理的安全性の高い職場には、次の4点の特徴があります。
- 会議では誰でも自由に発言している
- ミスや失敗があった時にすぐメンバーや上司に報告がある
- 不明点や困ったことはメンバーに気軽に相談できる
- チーム内で活発に情報共有が行われている
このような心理的安全性の高い職場作りに欠かせない取り組みを紹介します。
失敗できる環境を整える
メンバーが失敗しても前向きに捉える環境を整えましょう。
チーム全体で「失敗は成長の機会」と捉えている雰囲気があれば、社員個々が意欲的な行動を起こせます。そのためには、まずリーダーが「失敗はチャンスだ」と推進し、自身の行動で示していくことが大切です。
例えば、リーダー自身の挑戦による失敗談を共有することや、メンバーのミスに対しともに解決策を検討すること、ミスしたメンバーを責めないことなどが挙げられます。
情報共有・意見交換をする
活発な情報共有はチームにコミュニケーションを増やし、和やかで安心できる職場作りが可能です。
メンバーによっては自ら意見を述べるのが苦手な場合や、恐れ多いと感じてしまう場合もあるかもしれません。そのため、先輩メンバーやリーダーが自ら積極的に情報共有を行い、誰でも気軽に発言できる場を設定すると良いでしょう。
例えば、ささいなことでも発言できるチャットグループの作成は、直接話をする必要がないため、誰でも気さくに発言できる雰囲気作りのきっかけとなるでしょう。
レジリエンス研修について
近年増加しているレジリエンス研修は、社員個々の思考傾向のクセや対処法への学びを中心に行われる研修です。具体的には、状況に応じて感情を適切にコントロールする方法や、自尊感情や自己効力感を高める方法について育成されます。
注意点として、実施の際には以下の3点を留意しましょう
- 講師の評判やレベルの確認
- カスタマイズできる研修内容の選定
- 実施後の効果判定が可能
効果的な研修によって社員個々のレジリエンスを高められると、企業のレジリエンス向上にもつながります。
社員のメンタル状態の可視化に役立つツール ラフールサーベイ
「ラフールサーベイ」は、社員のメンタル状態を可視化することのできるツールです。従来の社内アンケートなどでは見えにくい心の状態などを可視化することで、社員が安心して働ける環境づくりのお手伝いをします。
社員が安心して働ける環境づくりは、企業の成長・拡大のための土台となります。まずは、社員一人一人にとって居心地の良い職場を整え、人材の定着と組織改善に繋げましょう。
ラフールネス指数による可視化
組織と個人の”健康度合い”から算出した独自のラフールネス指数を用いて、これまで数値として表せなかった企業の”健康度合い”を可視化できます。また、他社比較や時系列比較が可能であるため、全体における企業の位置や変化を把握することも可能。独自の指数によって”健康度合い”を見える化することで、効率良く目指すべき姿を捉えることができるでしょう。
直感的に課題がわかる分析結果
分析結果はグラフや数値で確認できます。データは部署や男女別に表示できるため、細分化された項目とのクロス分析も可能。一目でリスクを把握できることから、課題を特定する手間も省けるでしょう。
課題解決の一助となる自動対策リコメンド
分析結果はグラフや数値だけでなく、対策案としてフィードバックコメントが表示されます。良い点や悪い点を抽出した対策コメントは、見えてきた課題を特定する手助けになるでしょう。
154項目の質問項目で多角的に調査
従業員が答える質問項目は全部で154項目。厚生労働省が推奨する57項目に加え、独自に約87項目のアンケートを盛り込んでいます。独自の項目は18万人以上のメンタルヘルスデータをベースに専門家の知見を取り入れているため、多角的な調査結果を生み出します。そのため従来のストレスチェックでは見つけられなかったリスクや課題の抽出に寄与します。
まとめ
レジリエンスは、ストレスの多い現代において必要不可欠なものです。今後ますます必要となってくるでしょう。
どんな状況下でも、従業員が元気に働き、企業は成果を出し続けられるように、レジリエンスを高めることが大切です。
この機会に自分のレジリエンスについて、考えてみるのはいかがでしょうか。