マトリクス組織は、複数の目的を同時に達成することを目指す組織形態です。従来の組織形態では得られない利点がある形態として注目が高まり、採用する企業も増えています。
しかしその一方で、
「マトリクス組織って具体的にどんな組織だろう」
「メリットやデメリットを押さえておきたい」
このように考える方も多くいるかもしれません。
そこでこの記事では、マトリクス組織の概念や、メリット・デメリット、企業事例について紹介します。企業の具体的な取り組みや成果も解説するので、採用や運営イメージの参考にしてください。
1. マトリクス組織とは?
マトリクス組織とは、職能別や事業部別、エリア別など異なる組織構造を掛け合わせ、それぞれの利点を同時に実現し目的達成を目指す組織形態です。具体的には「職能別組織(営業)」と「事業部別組織(関東エリア)」を掛け合わせ、関東エリアの特性を踏まえ地域に根付いた営業の実現を目指します。
マトリクス組織は1960年代に米国航空宇宙産業で生まれました。アポロ計画に取り組む企業がプロジェクトごとにマネージャーを配置し、従来の職能別組織に対しプロジェクトチームが横断的に関わる、新たな編成を生み出したことが始まりです。現代では、マトリクス組織は従来のピラミッド型組織とは異なり迅速で柔軟な対応が可能な新たな組織形態として注目度が高まっています。ピラミッド型組織では、上層部から下層部への指令の遅れやスピード感に欠ける対応がデメリットとして挙げられていました。しかしマトリクス組織では、2つの組織構造を掛け合わせによって2人のリーダーによる指令や確認が行われるため、迅速で柔軟な対応が可能です。そのためグローバル化や事業の多角化など、大規模な成長を目指す企業にとって特に適している組織形態でしょう。
マトリクス組織とは異なる2種類の組織形態
マトリクス組織とは異なる他の組織形態として、機能型組織とプロジェクト組織があります。機能型組織とは、組織の上層部である経営陣の下に、開発・企画・製造・営業と職能別に部門が存在する組織形態です。プロジェクトに対し各部門から人材を割り当てる仕組みは、国内において最もスタンダードな組織形態でしょう。機能型組織の特徴として、各部門での高い専門性の習得を目指した人材育成に適切であるという点があります。専門性の高いリーダーによる教育体制や、コミュニケーションが取りやすい環境によって、プロフェッショナルを目指す人材の育成に適した組織形態です。その一方で部門同士の連携や情報共有が不十分になりやすく、プロジェクトの進捗が遅れる可能性や、プロジェクトの責任者が曖昧になる場合もあります。
プロジェクト組織とは、プロジェクト単位で部門を分ける組織形態です。プロジェクトごとにリーダーが任命され全体を統率するため、各プロジェクトの独立性が強くなります。高い独立性という特徴によって、開発や営業といった異なる職務を担う担当者同士でも交流が図りやすくチームとして一体感を持ったプロジェクトの進行が可能です。しかし、独立性が強すぎてしまうとプロジェクト間の連携が取りにくく、それぞれで似たような取り組みが重複する可能性があるなどのデメリットも考えられます。
2. マトリクス組織の種類
マトリクス組織には特性によって以下3種類に分けられます。
- バランス型
- ストロング型
- ウィーク型
1つずつ特徴を紹介します。
バランス型
バランス型は、プロジェクトにおけるマネージャーをプロジェクトチーム内から選出する形態です。プロジェクトに直接関わる人物が責任者となるため、的確な指示や統率を図ることが可能です。しかしメンバーにとってはプロジェクトと部門の双方にマネージャーが存在することとなります。そのためそれぞれの指示に応えようと混乱を招く可能性や、双方の板挟みとなってしまう可能性が考えられるでしょう。
ストロング型
ストロング型は、マネジメントを専門に行うマネージャーをプロジェクトに配置する形態です。高い専門性を持つ人材が責任者となるため、プロジェクトの進行において柔軟な対応やスムーズな進捗に期待できるでしょう。プロジェクトマネージャーには部門マネージャーよりも強い権限が与えられるため、メンバーは明確な指示に従いやすい特徴があります。その一方で、マネージャーを任せられる高い専門性を持った人材や部門の設立が必要です。そのため採用を検討する際には設立や運用で発生するコストを考慮しましょう。
ウィーク型
ウィーク型は、プロジェクトにマネージャーを配置しない形態です。メンバーは個々の判断で行動し成果を目指した取り組みを行います。迅速な行動が可能となるため、臨機応変な対応が必要なプロジェクトや、スピード感を持って取り組むべきプロジェクトでは適切な形態でしょう。しかし、責任者が不在であるためチームとしての統一感が生まれにくいデメリットがあります。その結果、思うような成果が得られにくい可能性や、プロジェクトの進捗が遅れる場合が考えられるでしょう。
3. マトリクス組織によるデメリット事例
マトリクス組織によって考えられるデメリット事例が以下2つです。
- 組織内の対立
- リソース配分のミス
それぞれ理由を含め解説するので、あらかじめ確認しておきましょう。
組織内の対立
1つ目は、2つの権限による対立の発生です。2つの組織を掛け合わせる構造を持つマトリクス組織は、プロジェクトと部門で2人のマネージャーが存在し、場合によっては対立や権力争いを引き起こす可能性があります。このような事態を防ぐために、マネージャー同士で定期的にミーティングの機会を設け継続的に意思疎通を図る環境の整備が必要です。共通認識である企業方針や目標を確認し、組織全体として求められている成果に応じた業務を話し合い同意します。プロジェクトの進捗に応じて継続的に認識を合わせることで対立は起こりにくく、双方の利点を活かしたプロジェクト進行に期待できるでしょう。
リソース配分のミス
2つ目は、リソース配分の調整が困難な点です。企業が持つリソースとしてヒト・モノ・カネが挙げられますが、これらはすべて有限です。そのためプロジェクトの発足に応じて配分の調整が必要であり、過不足があっては企業経営に影響する可能性もあるでしょう。マトリクス組織は組織内の対立が起こりやすい点から、リソースを取り合うような配分のミスが発生する可能性があります。対策としては、責任者同士で組織の目標に応じた適切な配分に合意することや、経営陣などのトップ権力の決定に従うといった対応が挙げれます。組織の目標と有限であるリソースを照らし合わせ、適切な配分を決定できる環境を整えましょう。
4. マトリクス組織の成功事例と得られるメリット
マトリクス組織によって成功事例を収めた企業として以下3社を紹介します。
- 株式会社村田製鉄所「環境変化に対する対応力の強化」
- 花王株式会社「幅広い交流の推進でプロジェクトの早期進行を実現」
- トヨタ自動車株式会社「独自の組織形態によるグローバル展開」
それぞれの事例を詳しく解説するので、導入の参考にしてください。
村田製鉄所「環境変化に対する対応力の強化」
製品種類の増加によって商品経営を推進する目的でマトリクス組織を導入したのが、株式会社村田製鉄所です。具体的には、製品ごとに開発・製造・営業部門を設置し、全社的視点を持った管理スタッフによる調整を行います。このような体制によって各製品の経営戦略の確実な達成と、変化しやすい市場ニーズへの対応力強化に取り組みました。その結果、製品が増加しつつも業務効率を維持し着実な経営戦略の達成が実現されました。生産規模が拡大していく中でも、変化するニーズを掴み実現できる環境を整えたことによって大企業へと成長を遂げたことが伺えます。
花王株式会社「幅広い交流の推進でプロジェクトの早期進行を実現」
花王株式会社ではマトリクス組織の導入でプロジェクトの早期進行を実現しています。例えば、研究開発部門とブランド事業部門と異なる領域を掛け合わせ共同での課題解決を推進しています。この推進は主体的な働き方を重んじる組織風土が背景となっており、領域を越えた交流によって気づきの習得や自発的な行動を促す仕組み作りが可能です。さらに各専門分野の強みを集結させることで、速やかに研究を進めスピード感を持って商品開発が実現できるという効果が得られています。
トヨタ自動車株式会社「独自の組織形態によるグローバル展開」
トヨタ自動車株式会社は開発において、車両と職域(設計・調達・物流)の2軸を掛け合わせたマトリクス組織を導入しています。特徴的なのは、この2軸に対し委員会による横断的な活動が運営されている点です。この運営に至った背景としては、グローバル展開を目指す企業経営の中でコスト削減を図り原価低減を実現する必要があったためです。具体的な委員会活動として、良い部品が多く使用されるよう標準化部品の推奨や、それぞれの優れた知恵や技術の共有などが横断的に行われました。その結果、開発におけるリソースを最大限活用した取り組みが実現され、委員会活動がすべての設計領域を巻き込んだ展開を生み出しました。
5. 社員の精神状態の可視化に役立つツール
ラフールサーベイは、「社員の状況の把握・分析」や「職場/チームの状況に応じた改善策提案」をしてくれる、社員の精神状態の把握に最適なサーベイツールです。急な組織形態の変化は社員にとってストレスとなる可能性があります。社員への負担と組織としてのメリットのバランスを見ることが重要です。
ラフールサーベイは、従来の社内アンケートなどでは見えにくい心の状態などを可視化することで、社員が安心して働ける環境づくりのお手伝いをします。
社員が安心して働ける環境づくりは、企業の成長・拡大のための土台となります。まずは、社員一人一人にとって居心地の良い職場を整え、人材の定着と組織改善に繋げましょう。
ラフールネス指数による可視化
組織と個人の”健康度合い”から算出した独自のラフールネス指数を用いて、これまで数値として表せなかった企業の”健康度合い”を可視化できます。また、他社比較や時系列比較が可能であるため、全体における企業の位置や変化を把握することも可能。独自の指数によって”健康度合い”を見える化することで、効率良く目指すべき姿を捉えることができるでしょう。
直感的に課題がわかる分析結果
分析結果はグラフや数値で確認できます。データは部署や男女別に表示できるため、細分化された項目とのクロス分析も可能。一目でリスクを把握できることから、課題を特定する手間も省けるでしょう。
課題解決の一助となる自動対策リコメンド
分析結果はグラフや数値だけでなく、対策案としてフィードバックコメントが表示されます。良い点や悪い点を抽出した対策コメントは、見えてきた課題を特定する手助けになるでしょう。
154項目の質問項目で多角的に調査
従業員が答える質問項目は全部で154項目。厚生労働省が推奨する57項目に加え、独自に約87項目のアンケートを盛り込んでいます。独自の項目は18万人以上のメンタルヘルスデータをベースに専門家の知見を取り入れているため、多角的な調査結果を生み出します。そのため従来のストレスチェックでは見つけられなかったリスクや課題の抽出に寄与します。
19の質問項目に絞り、組織の状態を定点チェック
スマートフォンで回答ができるアプリ版では、特に状態変容として現れやすい19の質問項目を抽出。質問に対しチャットスタンプ風に回答でき、従業員にとっても使いやすい仕組みです。こちらは月に1回の実施を推奨しており、組織の状態をこまめにチェックできます。
適切な対策案を分析レポート化
調査結果は細かに分析された上で適切な対策案を提示します。今ある課題だけでなく、この先考えられるリスクも可視化できるため、長期的な対策を立てることも可能。課題やリスクの特定から対策案まで一貫してサポートできるため、効率良く課題解決に近づくことができます。
部署/男女/職種/テレワーク別に良い点や課題点を一望化
集められたデータは以下の4つの観点別に分析が可能です。
- 部署
- 男女
- 職種
- テレワーク
対象を絞って分析することで、どこでどんな対策を打つべきか的確に判断できるでしょう。また直感的にわかりやすいデータにより一目で課題を確認でき、手間をかけずに対策を立てられます。
6. まとめ
今回はマトリクス組織について、概要やメリット・デメリット、企業事例を中心に紹介しました。マトリクス組織は従来の組織形態と比べ複雑であるため、社員が担う負担も大きくなるかもしれません。そのためマトリクス組織を効果的な活用には、社員の負担と組織のメリットとのバランスの取れた運用が重要です。その点も踏まえ、この機会に新たな組織形態としてマトリクス組織の採用を検討してみましょう。