この記事では、企業の人事担当者や経営者の皆様へ向けて、カスタマーハラスメント(カスハラ)の基本知識や法的対策について解説します。従業員を守り、適切な職場環境を維持するための参考として、ぜひ最後までお読みください。
カスタマーハラスメントの基本概念
カスタマーハラスメントとは、顧客による従業員への不当な言動や過剰な要求を指し、近年企業にとって深刻な問題となっています。
厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、以下のように説明されています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業関係が害されるもの
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策マニュアル」P7
また、2020年に行われた労働者調査によると、企業調査においてハラスメントについて相談があった企業の割合を見ると、パワハラ、セクハラに続いてカスタマーハラスメントが高く、過去3年間の相談件数の推移ではカスタマーハラスメントのみ「件数が増加している」の割合のほうが「減少している」より高いという結果が出ています。
カスタマーハラスメントの概念を理解し、適切な対策を講じることが、従業員の働く環境を守る上で重要です。
カスタマーハラスメントと正当なクレームの違い
カスタマーハラスメントは、クレームとは異なり、顧客の不満や要求が社会通念上不相当なものであり、労働者の就業環境が害されるレベルにまで達している状況を指します。
正当なクレームが商品やサービスに対する具体的な改善を求めるのに対し、カスタマーハラスメントは従業員に対する人格否定や暴言、身体的な脅迫など悪質な内容を含むこともあります。
この違いを理解することは、企業が適切な対応策を立てる上で不可欠です。
カスタマーハラスメントの具体例
カスタマーハラスメントには、
- 従業員個人への攻撃、要求
- 差別的な言動
- 性的な言動
- 土下座の要求
- 身体的・精神的な攻撃
などの要求内容の妥当性に関わらず不相当とされる可能性が高いものや、
- 商品交換や金銭保証の要求
- 謝罪の要求
など、要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるものがあります。
例えば、
- 従業員に対して殴る、蹴るなどの暴力をふるう
- 店頭で長時間にわたり大声でクレームを言う
- 些細なミスにもかかわらず、自宅(自社)に来て謝罪するよう要求する
- SNSで拡散すると言って不当に返金を要求する
などが挙げられます。
これらの具体例を把握することで、企業は対策を講じやすくなるでしょう
カスタマーハラスメントが増加する社会的背景
カスタマーハラスメントが増加している背景には、SNSが普及したことにより顧客がかんたんに情報を拡散できるようになり、発言力が大きくなったことによる影響があります。
発言力が増したことにより顧客は自分の権利を主張することが当然と考えるようになり、企業側もSNSなどインターネット上で風評被害を受けることを恐れています。そのため、カスタマーハラスメントに相当する行為が近年増加していると考えられています。
社会全体でカスタマーハラスメントに対する認識を高め、企業が積極的に対策を講じることが求められています。
カスタマーハラスメントに関連する法律と企業の義務
企業には、従業員をカスタマーハラスメントから守るために、法律に基づいた義務を負っています。
カスタマーハラスメントにおいては、
- 労働契約法(安全配慮義務)、
- 労働施策総合推進法と厚生労働省指針
などの法令が関連しているほか、さらにカスハラ行為者の民法・刑法・軽犯罪法における責任が含まれます。これらの法律は、従業員の安全と健康を確保し、カスハラによる損害から企業を守るためのものです。
労働契約法(安全配慮義務)
労働契約法第五条により、雇用主は従業員の安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をする義務があります。これには、カスタマーハラスメントを含む職場のハラスメントから従業員を守ることも含まれています。
例えば、顧客からの不当なクレームや暴言に対して、企業は安全配慮義務に基づき、従業員を守ることが求められます。もし対策を行わなかったり十分でなく、従業員が精神的・身体的健康を損なうことがあると、従業員から損害賠償を請求される場合もあります。
【参考】労働契約法 第五条
労働施策総合推進法と厚生労働省指針
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では、パワーハラスメント防止策の策定や実施が企業に義務づけられており、正式名称を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」といいます。
2022年4月にはこれまでも大企業で適用されているパワーハラスメントの防止義務が、中小企業にも適用されました。
また、この法律に基づき、厚生労働省は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を策定しています。
この指針は、主にパワハラについての指針ではあるものの、「顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容」など、カスタマーハラスメント対策の取り組みについても言及されています。
【出典】厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
カスハラ行為者の民法・刑法における責任
カスタマーハラスメントを行った顧客は、民法上の不法行為責任を負うことがあります。これにより、被害を受けた従業員や企業は損害賠償を請求することができます。
また、カスハラ行為が暴力や脅迫にあたる場合は、刑法に基づく刑事責任を問われることもあります。企業は、こうした法的責任を顧客に認識させることで、カスハラを未然に防ぐ効果が期待できます。
カスタマーハラスメント対策の実践方法
カスタマーハラスメント対策を実践することは、従業員の働く環境を守り、企業の信頼性を高めるために不可欠です。
社内教育と予防策の重要性
カスタマーハラスメントを未然に防ぐためには、社内教育と予防策が重要です。
従業員に対する定期的な研修を通じて、カスタマーハラスメントの定義や事例、対処法を理解させることで、問題発生時の迅速かつ適切な対応が可能になります。
研修では、ロールプレイやケーススタディを取り入れることで、実践的なスキルを身につけさせることが効果的です。このような取り組みにより、従業員が自信を持って対応できるようになり、職場の安全性が向上します。
対応マニュアルの策定と共有
カスタマーハラスメントへの対応を統一するためには、対応マニュアルの策定と共有が必要です。
マニュアルには、具体的な対応手順やエスカレーションの流れ、連絡先などを明記し、全従業員が容易にアクセスできるようにします。また、マニュアルは定期的に見直しを行い、最新の法律や社会情勢に合わせて更新することが大切です。
従業員がマニュアルを適切に活用することで、一貫した対応が可能となり、顧客からの信頼を損なうことなく、問題を解決に導けます。
従業員サポート体制と相談窓口の設置
従業員がカスタマーハラスメントに遭遇した際に、迅速にサポートを受けられる体制を整えることが重要です。
相談窓口を設置し、専門の担当者が従業員の話を聞き、必要に応じて法的アドバイスや心理的サポートを提供します。この体制があることで、従業員は安心して働ける環境が保たれ、問題があった場合にも早期に対処することができます。
相談窓口は、匿名での相談が可能なシステムを導入することで、より気軽に利用できるようになります。
カスタマーハラスメント対策事例
カスタマーハラスメントに対する企業の取り組みは、国内外で多様な事例が見られます。近年では、カスタマーハラスメントについての対応を明文化している企業も現れました。これらの対策は、従業員の安全と健康を守るために不可欠であり、顧客との良好な関係を維持するためにも重要です。
freee株式会社の事例
クラウド会計ソフトなどを提供するfreee株式会社では、従業員やパートナー企業が安心して顧客と接することができるよう、2023年2月に「カスタマーハラスメントに対するfreeeの考え方」を発表しました。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策マニュアル」に定められている内容に加え、「顧客や取引先からの暴力や悪質なクレームなどの著しい迷惑行為」と見なした場合は、サービスやサポートの提供を行わない可能性があるとしています。
対外向けに発表したリリース以外にも、社内向けにカスタマーハラスメントガイドラインを作成しており、実際の対応履歴とともに社内に共有しているそうです。
【参考】freee株式会社「カスタマーハラスメントに対するfreeeの考え方」
【参考】カスタマーハラスメントに対するfreeeの考え方ができるまで
任天堂株式会社の事例
おもちゃやゲームの開発・製造・販売を行う任天堂では、「弊社製品の修理サービス規程/保証規程」を更新し、「カスタマーハラスメントについて」という項目を追加しました。
社会通念上相当な範囲を超える行為があった場合、交換または修理をお断りする場合があると明記されています。
【参考】弊社製品の修理サービス規程/保証規程(2022年10月19日更新版)
まとめ:カスタマーハラスメント対策を実践し、安心な職場環境を築こう
カスタマーハラスメントは、従業員が安心して働ける環境を損なう深刻な問題です。
本記事では、企業の人事や経営者が知るべきカスタマーハラスメントの定義、具体的な事例、法的な側面、そして効果的な対策方法について解説しました。これらの情報を基に、従業員を守り、健全な職場環境を維持するための取り組みを進めることが重要です。
組織改善ツール「ラフールサーベイ」
社員がメンタル不調や低エンゲージメントに陥っている時、実はその原因にカスタマーハラスメントがあるかもしれません。
ラフールネス指数による可視化
従来の組織サーベイやストレスチェックでは社員が高ストレスや低エンゲージメントであることはわかっても、その要因が何なのかわからないという課題がありました。
ラフールサーベイではラフールネス指数(組織・個人の“健康度合い”を独自に算出した指数)により働く社員の健全さを把握することができます。
ラフールネス指数は具体的に「総合」「個人」「職場」の3つに対して他社比較と時系列比較を行い、社内の従業員の健康とメンタルの状態を可視化させることができます。
直感的に課題がわかる分析結果
ラフールネス指数の強みは課題を数字で可視化させることです。
ラフールサーベイでは部署や男女別にデータ分析が可能で各都市ごとにデータを比較することができます。
普段社員を観察しているだけでは中々見えづらい、社員の内面的なストレスまで把握できるようになります。
154項目の質問項目で多角的に調査
厚生労働省が推奨している質問票の質問数は57項目です。一方で、ラフールサーベイでは154項目の質問があります。
従来のストレスチェックでは把握できなかった「受験者の性格」「衛生要因(給与・福利厚生)」「エンゲージメント(エンプロイー・ワーク)」などを追加しています。多角的な調査により、より詳細な状況を把握することが可能です。
19の質問項目に絞り、組織の状態を定点チェック
経営者や人事の方の中には、「できるだけ簡潔にストレスチェックを行いたい」と考えている人もいることでしょう。ラフールサーベイでは「ショートサーベイ」と呼ばれる、19の質問項目に厳選したメンタルチェックもあります。
質問が少ない代わりに毎月行えるので、月ごとに対策を考えたい企業に有効です。
部署/男女/職種/テレワーク別に良い点や課題点を一望化
ラフールサーベイでは、部署や男女、職種別にデータ分析をすることが可能です。他部署・男女・職種での比較ができるだけでなく、危険ゾーンとなる箇所を直感的に一目で確認することができます。
適切な対策案を分析レポート化
質問の回答を終えると、分析を行い組織の生産性や離職リスクが直感的なグラフで可視化されます。可視化されたグラフに基づいて、「次にどんな対策を打つべきなのか?」をロジカルに検討していくことができます。
カスタマーハラスメントから社員を守り、組織の改善につなげていくためにはラフールサーベイを利用することでまず組織と個人の状態を可視化してみるところからはじめてはいかがでしょうか。