衛生要因とは、仕事への満足度に関わる要因であり、「二要因理論」にて唱えられている概念です。
二要因理論では「衛生要因」と「動機付け要因」によって仕事への満足度が構成され、企業は社員が抱える2つの要因と向き合うことで、従業員満足度の向上に近づきます。しかし、具体的にどうすれば良いのか、いまいち意味がよくわからない、と頭を抱えている方も多いかもしれません。
本記事では、衛生要因の意味合いや、もう一方の要因である動機付け要因との関係性について、わかりやすく解説します。社員のモチベーションを上げる具体的な方法についても解説するので、社員の満足度向上に取り組む方はぜひ参考にしてください。
衛生要因とは|ハーズバーグの二要因理論
衛生要因とは、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグによって提唱された「動機付け・衛生理論」における要因の1つです。動機付け・衛生理論は「二要因理論」とも呼ばれ、モチベーション理論に関わるものです。
二要因理論において、仕事への満足度は「動機付け要因」と「衛生要因」の2つの要因の関係性によって成り立つとされています。
動機付け要因とは仕事に対する満足に関わる要因であり、衛生要因とは不満に関わる要因です。ハーズバーグによると、動機付け要因が満たされると満足感は得られるが不満は取り除かれる訳ではなく、また衛生要因を満たすだけでは、不満は解消されるが満足感が得られないと提唱しています。そのため、「動機付け要因」と「衛生要因」の両方が満たされることでモチベーションが保たれ、仕事への満足度は向上されると考えられています。
ハーズバーグは1950年代に200人のエンジニアと経理担当事務員を対象とし、仕事における2つの質問を行い、二要因理論を導き出しました。具体的には、「仕事でどんなことに幸福や満足を感じたか」また「どんなことに不幸、不満を感じたか」と尋ねています。その結果、人には2種類の欲求があり、それぞれ異なる作用が働くことで人間の行動に影響を及ぼしていることが判明したのです。
現代では社員のモチベーションを高める手法に、二要因理論が活用されています。
例えば、社員自らが自由に福利厚生を選択できる「カフェテリア・プラン」や、自身の都合に合わせて労働時間を配置できる「フレックスタイム制」などが挙げられます。社員が抱える2つの要因に働きかけられる制度や仕組みは、社員の満足度を向上させ働く意欲を高める効果に期待できます。このように二要因理論を上手に活用すべく、「衛生要因」と「動機付け要因」2つの要因についてさらに理解を深めましょう。
衛生要因
衛生要因とは、仕事に対する不満に関わるものであり、具体的には以下の要素が挙げられます。
- 給与
- 労働条件
- 福利厚生
- 経営方針
- 人事労務体制
- 職場の人間関係
これらの要素は整っていない状態であると社員が不満を感じる、衛生要因と言えます。
心理学者のマズローが唱える「欲求5段階説」に当てはめると、「生理的欲求」「安全・安定欲求」、そして「社会的欲求」の一部の欲求を満たすものです。しかし衛生要因は、整備したからといって社員が感じる満足となるわけではありません。あくまでも不満が解消されるだけであり、満足感が得られている状態ではないのです。そのため社員の満足度向上を目指す上では、二要因理論におけるもう一方の要因である「動機付け要因」にも取り組みましょう。
動機付け要因
動機付け要因とは、仕事に対する満足に関わるものであり、具体的には以下の要素が挙げられます。
- 達成すること
- 承認されること
- 業務そのもの
- 昇進昇格
- 責任
これらの要素が満たされることで、社員は仕事への満足感を得られます。
心理学者のマズローが唱える「欲求5段階説」に当てはめると、「自己実現欲求」「自尊欲求」、そして「社会的欲求」の一部の欲求を満たすものです。
ただし注意したい点として、要素が満たされていないことによって不満が生まれるというわけではありません。もし他に不満を抱えていれば、その不満が残ったままの状況となります。そのため、動機付け要因だけを満たすのでは社員の満足度向上とはならず、衛生要因とともに取り組むことが大切です。
衛生要因と動機付け要因の関係
仕事への満足度は「動機付け要因」と「衛生要因」の2つの要因の関係性によって成り立つとされています。では、それぞれの要因の有無によって生まれる状況にはどのような違いがあるのか、4つに分類し確認してみましょう。
動機付け要因が満たされている | 動機付け要因が満たされていない | |
衛生要因が満たされている | ①不満がなく意欲もある | ②不満はないが意欲もない |
衛生要因が満たされていない | ③不満はあるが意欲はある | ④不満があり意欲もない |
4つに分類された状態を詳しく紹介します。
①不満がなく意欲もある…仕事に対する不満が解消されておりモチベーションも高い
②不満はないが意欲もない…仕事に不満はないがやる気は起きていない
③不満はあるが意欲はある…仕事に不満はあるものの、高いモチベーションで取り組めている
社員の満足度を考えると、2つの要因が満たされている①が最も理想的な状態です。
そのほかでは仕事上で何かしらの問題を抱えていることが伺え、業務を思うように取り組めていない状態です。特に④は最もモチベーションが低い状態であり、経営者の立場としては一番避けたい状態でしょう。
このような違いから、社員がモチベーションを保った状態を管理するためには「動機付け要因」と「衛生要因」の2つの要因に対する、適切なアプローチが必要であることが伺えます。そのため具体的な取り組みを行う際には、社員が抱える不平不満を解消し、意欲を引き出せる制度や仕組み作りを実施することが求められます。
では、具体的にどんなことを解消すべきか内容を確認していきましょう。
衛生要因の具体的な項目
衛生要因には労働条件や環境などの要素がありますが、具体化すると以下のような項目が挙げられます。
- 適切な就労時間
- 柔軟な働き方
- 職場の雰囲気
- 社内のコミュニケーション
- 休暇の取得しやすさ
- メンタルヘルス対応
- ワークライフバランス
他にも、実際に社員から不満や不平の声を聞いたことのある項目があれば、適宜記録しておくと対応しやすくなるでしょう。
衛生要因を満たすメリット
衛生要因を満たすことは、社員の不平不満の解消となり離職防止につながります。社員は会社に対し不満を感じてしまうと、「他の会社はどうなんだろう」と転職を視野に入れる可能性が高まります。不満を解消できている職場であれば、社員は安心して働き続けられるため、転職を考える可能性を抑えることが可能です。
一方で「業務の達成感」や「自らの責任で課題に取り組む」といった動機付け要因の不足は、離職の直接的な理由にはなりにくいです。人は動機付け要因の不足を感じると、働く環境に目を向けやすくなり、労働条件や職場環境に不満を感じやすく、結果的に衛生要因が満たされていない状態となるのです。そのため、離職を防ぐためには衛生要因を満たすことが求められます。具体的には、適切な昇給制度の設定や、ワークライフバランスの充実として福利厚生の整備など、自社の現状に合わせた適切な対応が必要です。
また衛生要因の1つである「職場の人間関係」は、早急な改善や単純な対応では解消されにくい問題です。そのため社内の衛生要因に人間関係が挙げられる場合には、迅速に対応に取り組み中長期的な改善を目指しましょう。離職理由には職場の人間関係は挙げられやすいことから、多くの企業で対応が必要な可能性があります。日頃から社員の心理状態を客観的に図ることや、職場での適切なコミュニケーションを心がけましょう。
衛生要因と動機づけ要因を可視化する方法
自社における衛生要因と動機付け要因それぞれの存在が明確に把握できず、対応に悩む場面も多いかもしれません。2つの要因はビジネスの現場で確認しやすく、把握できるとそれぞれへの対応も可能となります。
例えばミーティングの場を通して、2つの要因が具体的にどんな状況として存在しているのかを把握してみましょう。衛生要因は、社員の不満であるためモチベーションが低下している状況の把握で可視化できます。例えば、「ミーティング中、メンバーとコミュニケーションを取らない」、「机の上が散らかったままの状態である」などの状況が挙げられます。このような意欲の低下が見られる状態が続いている場合には、何らかの衛生要因が満たされていない可能性があります。
反対に動機付け要因は、モチベーションの上昇が伺える状況の把握で可視化につながります。例えば、「自らの意思を積極的に伝えている」、「前向きな姿勢で参加している」などの状況が挙げられます。発言や姿勢に意欲や責任が感じられると、動機付け要因が満たされていることが確認できます。
二要因を満たしてモチベーションを向上させる方法
「衛生要因」と「動機付け要因」を満たし社員のモチベーションを上げる、具体的な7つの方法がこちらです。
- 人事評価制度を見直す
- 人間関係の改善に努める
- 会社の目標や計画を周知する
- 表彰を行うなどして仕事の成果を称える
- 積極的に従業員の意見を聞く
- 人材育成に注力する
- 個人のライフスタイルを尊重する
1つずつ詳しい内容を確認しておきましょう。
人事評価制度を見直す
適切な人事評価制度は、納得できる評価によって会社から認められている実感を持てます。もし評価内容に不公平性を感じると、「どうせ頑張っても意味がない」と考えやすくなり、業務へのモチベーションは上がりません。明確な評価項目を整え、努力や成果に見合った報酬を得られると、社員の納得性は高まります。その結果、動機付け要因が満たされモチベーションを維持して働き続けられるでしょう。
人間関係の改善に努める
職場の人間関係が良好であると、社員同士の協力体制が整うなど業務に励みやすい雰囲気作りが可能です。気軽に業務の相談やプライベートの話ができるような職場であれば、自然と信頼関係も構築され安心して働き続けられます。具体的な施策としては、相談窓口の設置や社員への匿名アンケートなどを実施すると不満や不安要素が明確となり、問題解決に取り組みやすくなります。人間関係の問題は、離職理由として挙がりやすいほど社員にとっては悩ましいものであるため、さまざまな方法を組み合わせ明確な改善を目指しましょう。
会社の目標や計画を周知する
経営方針や理念と併せて、具体的な中長期計画を現場に共有すると経営層と社員が同じベクトルを向いて業務に励む体制が整います。経営のトップが現場社員に対し、数値やデータで「あなたたちの業務が会社の成長につながる」ということを共有できると、社員は自らが担う業務の価値や重要性を感じられます。その結果、企業としての大きな目標に向かう意欲や、やりがいを生み出すでしょう。社員が自らの業務そのものにやる気を感じられると、モチベーションの維持につながるのです。
表彰を行うなどして仕事の成果を称える
職場全体で個々の成果を称賛できる環境は、社員のモチベーション向上に効果的です。給与や報酬などの金銭的な評価制度だけでなく、メンバー同士で認め合える環境や上司から称えてもらえる非金銭的な評価を受けられると、社員は大きな充足感を得られます。近年ではさまざまな企業で、職場内で日頃の感謝の気持ちを気軽に伝え合う仕組みが取り入れられています。自社の雰囲気や風土に適した仕組みを取り入れられると、社員の高いモチベーションを維持しやすくなるでしょう。
積極的に従業員の意見を聞く
社員が抱えている素直な気持ちを上司などの他者が受け入れる体制があると、社員の不満や希望を明確に捉えられます。日々職場で仕事に向き合う社員には、業務を通して何かしらの意見や感情が生まれているものです。例えば「休暇が取得しにくくて辛い」、「新しい職務を経験してみたい」などさまざまな内容が考えられます。そのため社員の素直な意見を受け入れる環境が整っていれば、社員が持っている衛生要因や動機付け要因の可視化につながるのです。可視化によって取り組むべき施策が明確になるため、社員のモチベーションを高めることにつながります。
人材育成に注力する
職務や役職に応じた適切な人材育成によって、効果的に動機づけ要因を満たせます。例えば、部下に対する有効なマネジメントの実現を目的とした、管理職を対象とする研修をおこないます。管理職にとっては自身に不足していたスキルの自覚や、新たな気づきを得られる機会となり、次の目標を明確に設定できるでしょう。その結果、業務自体へのやりがいを感じやすくなり、動機づけ要因を満たすことが可能です。
個人のライフスタイルを尊重する
個々の事情を考慮した柔軟な働き方の導入は、社員への尊重として衛生要因を満たすことが可能です。柔軟な働き方の具体例には、フレックスタイム制度やテレワークへの対応などが挙げられます。従来の労働条件や就労体制では育児や介護など、個々の事情によっては不満が生まれやすく、柔軟な体制を取ることで個人のライフスタイルの尊重につながります。柔軟な働き方を実現している企業では社員は安心して働け、将来に向けてモチベーションを保ったまま続けられるでしょう。
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まとめ
衛生要因は動機付け要因と合わせて満たすことで、社員の満足度向上に効果的です。満足度が向上されると社員は高いモチベーションで働け、業務効率の改善や生産性向上にも期待できるでしょう。満足度向上のためには、どちらか一方の要因ではなく双方の関係性を理解し、バランスを保った取り組みを行うことが大切です。今回紹介した7つの具体的な方法から自社に適切なものを選択し、ぜひ導入を検討してみてください。