介護業界の約49%のデイサービス事業所が赤字に ー
高齢者の増加により高まることが予測される介護ニーズに対し、生産年齢人口は減少しており、介護業界は今まで以上に厳しい人材不足が予想されます。
経営難が叫ばれる介護業界において、年商5億円、創業から15年で年商は25倍に成長し、全店黒字化を実現する会社がHTC株式会社です。
HTC株式会社の他社には真似できない強みは「人」にありと話すのは同社代表取締役 臼井宏太郎さま。
職員のエンゲージメントを高め、 高収益を実現するHTC株式会社の人材育成と組織サーベイ「ラフールサーベイ」の活用について、代表取締役 臼井宏太郎さま、取締役本部長 須藤友明さまにお話を伺いました。
ー サマリ
- 介護業界で年商5億円、創業から15年連続で全店黒字化を実現する会社経営の秘訣
- 介護業界においての「エンゲージメント」と「理念浸透」
- 人事施策の取り組みとサーベイ活用の相乗効果
介護業界においての「エンゲージメント」と「理念浸透」
臼井さま
当社は、北海道札幌市を中心に介護事業を展開しています。主力事業はデイサービスを中心とした通所介護で、現在7店舗を運営しています。
それ以外にも、訪問看護ステーション、看護小規模多機能型居宅介護、居宅介護支援事業所を各1店舗ずつ展開し、トータルで10拠点体制で地域の介護ニーズに応えています。
私たちは「利用者さまにとっても、働くスタッフにとっても第二の『我が家』」をコンセプトに掲げ、アットホームで家庭的な雰囲気の中で、一人ひとりに寄り添ったきめ細やかなサービス提供を心がけています。画一的・マニュアル的な介護ではなく、その方の個性や尊厳を大切にしながら、利用者さまお一人おひとりに合わせた最適なケアプランを提供する。それが当社の目指す介護のあり方です。
事業規模としては、おかげさまで設立から15期連続の増収を達成しています。
介護報酬の改定など、事業環境が厳しさを増す中でも、黒字経営を持続できているのは、ひとえに現場の職員が日々尽力してくださっているおかげだと感謝しています。一方、介護業界全体で見ると、約49%のデイサービスが赤字に陥っているのが現状です。
その中にあって、当社は開設したデイサービス全店舗で黒字化を実現しており、現在平均利益率30%と高収益体質を実現しています。
数字面の成果はもちろんですが、それ以上に大切にしているのが、地域のみなさまやケアマネジャーの方々から選ばれ、信頼され続ける事業所であり続けること。そのための取り組みを、これからも継続・強化していきたいと考えています。
介護業界で大切なのは「理念浸透」と「職員の満足度」
臼井さま
介護業界で職員のエンゲージメントを高めるのが難しいというのは、まさに仰る通りです。その背景には、仕事のハードさに見合わない処遇の低さ、人手不足に起因する長時間労働、精神的・肉体的負担の大きさなど、様々な構造的な課題があるのは事実です。
一方で、私は介護の仕事には他のどの業界にも負けない大きなやりがいがあると感じています。
利用者さまの笑顔に接した時、ご家族から感謝の言葉をかけていただいた時、そこにはお金には代えられない大きな喜びがあります。
但し問題として、日々の多忙な業務に追われるなかで、職員がそうした介護の本質的な価値や尊さを見失ってしまいがちなこと。ここに、エンゲージメント低下の一因があるように感じています。
だからこそ、「理念浸透」を大切にしているのです。会社が目指すべき方向性、なぜ私たちがこの仕事をしているのか、その意義や目的を、全ての職員が明確に胸に刻んでいれば、多少の困難があってもブレることなく前を向いて進み続けることができる。そのように、私は考えています。
その信念に至った経緯を振り返ると、介護業界に参入した当初の経験が大きかったですね。事業立ち上げ前、複数の介護施設を見学して回ったのですが、どの事業所も閉鎖的で旧態依然とした雰囲気が漂っていました。
職員は疲弊しきっていて、上司や同僚、会社への不満ばかり口にしている。おそらく、それが利用者さまにも伝わっていたのでしょう。生き生きとした表情の職員の方は、ほとんどいらっしゃいませんでした。結果として、そうした事業所の多くは、稼働率・売上の低迷や赤字経営に苦しんでいました。ご利用者さま・ご家族、職員、取引業者、経営者のいずれもが不幸な状態。まさに負の連鎖に陥っていたのです。
そのような現場を目の当たりにし、「我が家に関わる全ての人の幸せ」という理念を打ち立てました。
この事業に関わる全ての人がwin-winの関係になれる、そんな組織を作り、地域や介護業界に貢献していきたい。事業をスタートするにあたり、そう強く思ったのを覚えています。
以来、当社では毎月欠かさず、全ての事業所でスタッフによる理念のプレゼンテーションを行っています。ただ読み上げるのではなく、なぜ理念が必要なのか、自分たちの行動が理念にどうつながっているのかを、スタッフ自身の言葉で表現してもらう。そうしたPDCAを地道に回し続けてきた結果、今では職員一人ひとりが高いレベルで理念を体現できるようになっています。
ちなみにこのプレゼンテーションをしている職員は当時はパート勤務だったんですよ(笑)。工作物も自作だったり、質問形式で行っていたりと、発表者が各々工夫して取り組んでいます。
なにか判断に迷った時は理念に立ち返り、それを羅針盤として正しい方向に舵を切り直す。全社員がそうした意識を共有できている状態を、私たちは「理念経営」と呼んでいます。
介護の仕事に終わりはなく、利用者さまに喜んでいただくために、質の高いサービスを提供し続けるために、職員一人ひとりが常に高いモチベーションを保ち続けなければなりません。その意味で、理念浸透は私たちにとって経営の根幹をなすものだと言っても過言ではありません。これからも現場に寄り添い、職員との対話を重ねながら、理念経営の深化を図っていく考えです。
経営理念とはなにか(=我が家に関わる全ての人を幸せにすること)、理念を実現するためには、利用者の満足と、会社の利益の両方が必要で、利用者が満足するにはスキルやマインドの向上が必要です。
利益を確保するには、業績の向上やコストの適正化が必要というように、細かいところまで落とし込み、社員に説明します。このロジックツリーを掲げることで、従業員は具体的になにをすべきかが分かり、主体的に判断し行動することに繋がっています。このようにHTC独自の手法で全社員が高い経営意識をもった組織に成長していると感じます。
サーベイツールの活用方法・導入後の変化
臼井さま
先ほどお話ししたように、私たちは職員のエンゲージメント向上を経営の重要課題の一つと捉えています。理念を社内に浸透させていく上では、職員一人ひとりの声に耳を傾け、不安や不満、モヤモヤを早期に汲み取ることが何より大切だと考えているのです。
そこで従来から、職員との1on1ミーティングを定期的に実施し、コミュニケーションの活性化を図ってきました。しかし、職員数の増加に伴い、管理職の目が行き届かない部分が出てきたのも事実です。また、対面での面談では、職員の本音を引き出しきれていないケースも少なくありませんでした。
職員の心の内を可視化し、エンゲージメントの状態を定量的に把握するための仕組みが必要だと感じていたタイミングで出会ったのが、「ラフールサーベイ」でした。
職員の9割以上が経営指針に満足し、行動変容に繋がっている
臼井さま
9割を超える社員から「経営理念への共感」「組織への信頼」が寄せられていることは、私たちにとってなによりの喜びであり、誇りです。介護という仕事は、職員ひとりひとりが現場で直接利用者さまと向き合うことで成り立っています。つまり、職員がモチベーション高く働ける環境を整えることが、質の高いサービス提供の大前提になります。その意味で、前述しましたが、エンゲージメント向上は私たち経営陣の最重要課題の一つと言えます。
具体的な取り組みとしては先ほどお話しした職員による理念プレゼンテーションを長年継続してきたことが挙げられます。各事業所から選出されたスタッフが、自分の言葉で理念の意義を説き、具体的な実践方法を提案する。その内容を全社で共有し、議論を重ねるPDCAサイクルを回し続けてきました。
おかげで職員の理念への理解は年々深まり、実際の行動変容にもつながっています。
加えて、入社半年後のスタッフを対象とした理念研修では、私から直接、会社の方針や戦略をオープンに説明する場を設けています。数字の背景にある狙いや想いを丁寧に伝えることを心がけており、それが職員の納得感・安心感につながっているのだと感じています。
また、各事業所でも責任者が定期的に業績推移を共有したり、課題解決に向けた議論の場を設けたりと、徹底した情報公開を実践しています。
トップの思いが末端まで浸透し、現場の課題や要望が経営にダイレクトに伝わる。そうした双方向のコミュニケーションあってこその「組織への信頼」だと考えています。
職員の8割以上が満足する人事制度、満足度の秘訣は「正当な評価」
臼井さま
人事考課やライフプラン面談にとても力を入れています。
当社の人事制度の根幹にあるのは「頑張った分だけ正当に評価される」という考え方です。介護の仕事は、どうしても精神的・肉体的に厳しい面があります。それでもモチベーション高く働き続けてもらうには、やりがいや達成感とともに、その努力が確実に処遇に反映される仕組みが不可欠だと考えています。
もちろん、制度をつくるだけでは不十分です。人事考課面談には双方がしっかり納得できるよう、長い時でひとり3〜4時間使うこともあります。そして、運用の適正さ・納得感を担保するため、評価者である管理職への継続的な教育も欠かせません。評価の目的を正しく理解し、日頃から部下との対話を重ね、評価基準に基づいてフェアに評価を行う。そうした評価者としての資質・スキルを高める研修を、年間を通じて繰り返し実施しています。
また、「我が家に関わる全ての人を幸せにすること」という経営理念には、当然社員の幸せも含まれています。そこで、会社の理念を社員一人ひとりに理解してもらうのと同じように、会社も社員一人 ひとりの幸せを実現しようと、従業員の人生計画や人生の目標をライフプランシートに書いてもらい、 管理者や上司と面談します。
このように、10年のライフプランシートがあることで、「会社が自分の目標を知ってくれている、会社との距離を近く感じるようになった」と職員は話していました。
結果として、自身の目標を実現するために、仕事ではこれを達成したい、あれを実現したい、と成長意欲をもって業務に取り組んでくれると思っています。
会社は職員の公私の目標を知っていることで、より丁寧な面談ができ、具体的なアドバイスや意見交換をすることができます。会社の成長だけではなく、自己成長や自己実現につながる環境であることの理解を含め、こういった施策が人事制度への満足度に繋がっていると感じています。
職員の満足度が向上するサーベイツール活用のメリット
臼井さま
理念浸透というのは、会社の目標や理念を一方的に押し付けるのではなく、スタッフ一人ひとりの幸せを実現することが大切だと考えています。
そのためには、まずはスタッフが何を求め、何を感じているのかを会社や上司が理解することがなによりも重要です。
その意味で「ラフールサーベイ」はスタッフの求めているものや感じていることを点数やコメントという目に見える形で可視化してくれる、非常にありがたいツールだと感じています。正直、私たちにとっては武器にもなっていますね。
また、私が15年間経営してきて行き着いた答えは、顧客満足の追求だけでは不十分だということです。お客様が幸せでも、職員が犠牲になり不幸になるようでは本末転倒です。幸せな職員こそがお客様を幸せにできると私は信じています。
職員の幸せのためには、ひとりひとりがなにを求め、メンタルやフィジカルなど今どういう状態なのか、会社がしっかりと把握する必要があります。その意味で、今まで感覚でしかつかめなかったものが、「ラフールサーベイ」で可視化できるようになったメリットは非常に大きいですね。
他の介護事業者の皆様にも、ぜひこうしたツールを活用しながら、職員のエンゲージメント向上に取り組んでいただきたい。私たちの業界に必要なのは、理念浸透を通じて「幸せな職員」を増やしていくことだと確信しています。
最後に
臼井さま
こちらこそ、ありがとうございました。今日お話しさせていただいたことが、少しでも業界のみなさまのお役に立てれば幸いです。理念経営と従業員エンゲージメントにこだわり続け、これからも「日本一幸せな介護企業」を目指して精進してまいります。引き続きご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
_ 取材後記
介護業界では全体を通して約49%の事業所が赤字に陥っている厳しい経営状況の中、設立から15期連続の増収を達成する同社。「職員の満足度が高ければ、サービスの質は良くなる。きっとそれが顧客満足度に繋がり、業績に好影響を与える」とお話しされていた臼井社長が印象的でした。「理念経営」がしっかりと職員の方々にも浸透し、実践できている同社の今後の発展が楽しみです。