【イベントレポート】国内外の研究でわかった心の健康・ウェルビーイングを「攻めの取組」に転換すべき理由

昨今、企業の価値を世の中に示すひとつの大きな要素として、「企業で働く従業員が心身共に健康であり、幸福を感じて働くことができる状態になっているか」が、日本でも注目を集めています。その概念が”ウェルビーイング”であり、一般的に”ウェルビーイング”とは、精神的、身体的、そして社会的に心身ともに健全な状態を指します。

また、2023年には、上場企業による人的資本の情報開示が義務化となり、統合報告書などによる非財務情報の開示をする企業が多く見受けられました。生産年齢人口が減少し、ひとりひとりの生産性を高めることが急務になってくる時代において、人的資本経営をはじめ、ウェルビーイング経営実現の重要度はより高まっていきます。

そこで当社は、ウェルビーイング経営の最先端情報から、リアリティのある取り組み、成功事例を広くシェアし、日本社会全体のウェルビーイングの意識を一歩先に進めたいという思いから、昨年に続き『Well-Being Workers®︎ Awards 2024』を開催しました。 本稿では、株式会社NTTデータ経営研究所ライフ・バリュー・クリエイションユニットシニアマネージャー大野 孝司氏氏をお招きし、株式会社ラフールCEO補佐/CHCO大木と基調講演を行いました。国内外の研究でわかった心の健康・ウェルビーイングを「攻めの取組」に転換すべき理由についてお伝えします。

株式会社NTTデータ経営研究所
ライフ・バリュー・クリエイションユニットシニアマネージャー

大野 孝司

事業会社でのマーケティング、経営企画、ヘルスケア新規事業開発や子会社経営等を経て、2015年より現職。現職ではウェルビーイングをテーマに、ヘルスケア関連サービスの事業開発支援や産官学連携支援を行うほか、地域共生社会の構築、少子化対策等におけるコミュニティマネジメント支援や人材育成などにも取り組む。2023年度には、健康経営を推進する企業、心の健康関連のサービス提供事業者、アカデミアとともに「職域における心の健康関連サービス」活用に向けた研究会を立ち上げた。

株式会社ラフール
CEO補佐/Chief Healthcare Officer
公式Fitbit Friend
上級 睡眠健康指導士/漢方養生指導士 大木 都

新卒からベンチャーでの新規事業立ち上げを経験。2006年ビーコン コミュニケーションズに入社、海外各種メーカーの日本市場開拓マーケティングに従事。2013年リラク(現メディロム)にてヘルスケア研究所を立上げ、初代所長となる。パーソナルコーチングアプリ・クリニック経営支援・産学連携での研究事業など歴任。現在は従業員の健康増進を担当しながら、ラフールサーベイデータを活用した産学連携研究・アライアンス事業創出を担当。上級 睡眠健康指導士などの資格を活かした企業研修も行う。

心の健康に係る取組は二極化 ハードルを下げるには

大木:
大野様は、経済産業省事業である、職域における心の健康関連サービス活用に向けた研究会の事務局責任者として活躍してこられました。ラフールもメンバーとして参加している本研究会での取組を含め、日本企業のメンタルケアに対する課題と対策についてお話しいただきます。大野様、よろしくお願いいたします。

大野:
NTTデータ経営研究所の大野と申します。私は職域の心の健康についての取組やそれを支えるサービス産業について調査・検討を進めてきました。その結果で分かったことを中心に紹介させていただければと思います。

大木:
それでは早速、現在の日本企業の課題感についてお聞かせいただけますでしょうか。

大野:
最近、ある上場企業の人事担当役員の方がこんなことを言っていました。「海外では自分で健康管理をする働き方が当たり前だけども、日本の場合は企業がやらないといけない」。日本の企業には、従業員の健康の保持増進をする役割が法律で定められているのです。

制度で定めると、広がるメリットはある半面、やること自体が目的化してしまう場合もあります。インタビューをしてみると、「義務だからやっている」という消極的な会社と、「経営課題」と位置づけて積極的に行う会社に、二極化していることがわかってきました。職場のウェルビーイングをどう経営課題と位置付けていくかが、大きな課題としてあります。

積極的にやろうとしても、また別の課題が出てきます。
サービスの選定基準、効果が分からない、相談窓口の利用率が低い、体制が不十分であるなどです。

セルフケア研修を企画しても「いつも同じ人が参加してくる」、「行動変容や継続につながらない」など悩みは尽きません。ニーズが多様化し、個別に対応しないとうまくいかないといった話も聞こえてきます。

メンタルヘルスに対するスティグマ(偏見)から「メンタルを病んでいるなんて言えない」、「評価に影響する」と考えてしまい、報告や相談をしない人も出てきます。当然、管理者も人事も産業医も気づくことができません。

これが昨今のリモートワークでさらに加速してきたようです。 ストレスチェックは年に1回ですから、把握やフィードバックの限界もあります。プライバシー保護のためにも、本人の健康状態は産業医しか見られず、本人の同意がなければ企業側で活用できない、逆に企業の外の人が内部のことに介入する限界もあります。

研修も、人手や時間の不足からなかなか届かないし、自分に合った施策になっていないと、従業員はメリットを実感しづらいです。この辺りのハードルを超えることがポイントになってきます。

大木:
取組についての悩みは多いようですね。幸い私どもが提供する組織改善ツール「ラフールサーベイ」では、従業員の定性的な情報が可視化され、その対策の結果も追えるので取組がしやすいと思うのですが、「どう社内でケアするか」については、課題を抱えている方がいらっしゃいます。

では、実際このような課題感を受けて、どのような施策を行うべきなのか、その点についてもお聞かせいただけますでしょうか。

大野:
相談しやすい風土があり、サポートの仕組みがしっかりしているところは、よい取組がなされているようです。経営側が「人を大切にする」というメッセージを強く伝えていけば、管理職も従業員も「仕事の一環として気軽に相談できる」と感じられるでしょう。

「ストレスチェック」に加えて、残業時間やパルスサーベイで把握しながら、生産性も含めてフィードバックしていくようなところも、うまくいっているようです。そうすることで、管理職も生産性の指標として自分の部署の状況を確認できるし、それを役員陣が見て管理職との1on1に使うこともできます。

本人の同意を得て個別のフィードバックを行う場合も、仕事の一環と位置付けられていれば、「本人の状態はこうです」と、人事からも管理職にフィードバックできます。それが、仕事のパフォーマンスに軸足を置いた個人支援や職場作り支援に繋がっていきます。これが当たり前のサイクルとして回っているところは、職場環境や自分の変化を実感できているのです。

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心の健康要因へのアプローチは、組織パフォーマンスに貢献する

心の健康に関する要因は、職場環境、身体の健康、プライベートも含めてたくさんあります。企業からすれば、「あなたの心の健康のための取組は企業の役割なの?」と思うかもしれません。しかし心の健康は、仕事のパフォーマンスに繋がる重要な要素です。仕事への活力、熱意に強く関係していることが科学的に証明されています。

逆に仕事のパフォーマンスを上げる施策で成果が生まれれば、本人の心の健康にも寄与する。心の健康に関する幅広い対策は、結果的には仕事のパフォーマンス、ひいては組織としてのパフォーマンス向上にもつながっていくことになります。

ポジティブメンタルヘルスとデジタル活用への期待

企業の人事の皆さんにアンケートをとると、「人間関係やコミュニケーション改善につながるサービス」や、「本人の状態に合わせた適切なフィードバックができるサービス」を求める声が多いです。こうしたニーズに応えるためには、「ポジティブメンタルヘルスとデジタルの活用」が重要だと思っています。

デジタルを活用して状態や施策の効果を見える化し、個人や組織の状態に応じて対処していくということです。心のケアの専門職であっても、データが後押しになったり、事務作業を減らしたり、ケアのサポートをアプリで行い補完することもできると思います。

研究会で心の健康に関するサービスを体系化したところ、「体制・業務構築」「現状分析」「対策」という3つのフェーズがあり、さまざまな市場サービスがあることが分かりました。

ウェルビーイング施策には、心理、行動科学、組織マネジメントなどさまざまなノウハウが必要です。人事の側は社内だけでやろうとせず、外部の専門知識も活用しながらマネジメントしていくとよいでしょう。

大木:
大野様は、ラフールなどサービサーの考え方や熱意も聞きながら活動しておられます。これから注目していきたいサービスや仕組みがあれば、お聞かせいただけますか?

大野:
私自身はポジティブメンタルヘルスがとても大切だと思っています。不調になった人だけでなく、いま元気な人たちにも役立つものがたくさんあるからです。考え方を変えるとか、今起きていることをメタ認知できるようにするとか、仕事に生かせるものがたくさんあると思います。

特に日本は、産業分野で働く心理職の割合が少なく、人材不足の側面もある。その意味でも、デジタルを活用してそこを補完していくことはとても大事なことだといえるでしょう。アプリを通じてアドバイスを受けられるようなツールは、どんどん出てきてほしいです。

セルフケア支援アプリのメリットとして、アクセスのよさや利便性があります。スティグマや専門職不足の問題があるなか、ウェルビーイングな状態にしたいときに気軽に使えるのはよいですね。匿名性があり低コスト、一貫したプログラムでの長期的な関与が可能です。日本でもそういったセルフケアアプリが少しずつ出てきました。

ユーザーの声を見ると、「ミスをして落ち込むのではなくて、分析をして改善すればいいと思えるようになった」など、ポジティブな声があがっています。管理職の方にとっても部下とのコミュニケーション改善に役立つでしょう。世代間のコミュニケーションについては、多くの方が悩んでいることと思います。そういったときにも、ヒントが得られると思います。

人的資本を大切にする会社こそが選ばれる

大木:
やはりメンタルケアは元気なうちから始めることでパフォーマンスが上がるのですね。人事としても切り口を変え、視点を広げてツールやサービスを見ることで、会社のウェルビーイングが高まる施策が見つかるのではないかなと思いました。 では最後に、ご視聴いただいている皆様に向けたメッセージを頂戴できればと思います。

大野:
国内では人手不足が深刻化しており、選ばれる企業になることは容易ではありません。今まで以上に価値観の多様化を受け止め、雇用主も変化に対応していくことが求められます。雇用主としての従業員の安全管理という責務を果たすだけではなく、心の健康にアプローチする施策をどんどん打ち出していくことで、従業員の心身の活力向上にもなり、仕事のパフォーマンスも上がっていく。

企業としてのパフォーマンスも向上し、人材確保にもつながる。そして投資家にとってもそれがサステナブルな成長、中長期的なリターンになっていくと思います。企業の短期的な業績は財務諸表を見ればわかります。しかし、中長期的な観点で「この会社は成長するのか?投資して大丈夫か?」と考えたとき、大切なのは「人が活躍しているか」という視点ではないでしょうか。

これから人的資本の開示はもっともっと進むと思います。ぜひ心の健康ウェルビーイングという観点で、スティグマ(偏見)を取り払って、企業が取組を推進していけるといいと思います。

大木:
大野様、ありがとうございます。心の分野への介入は先入観にとらわれがちですが、視点を切り替えると幅広い分野で従業員が活躍できる、そんな気づきをいただけたと思います。興味深いお話をありがとうございました。

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