近年、採用する企業が増加しつつあるコンピテンシー評価とは、いったいどのような評価方法なのでしょうか。
その意味や導入のメリット・デメリットなどについて、詳しく解説いたします。
コンピテンシー評価とは?
コンピテンシー評価とは、コンピテンシーを基に評価基準を定め、人材を評価する評価方法のことを指します。
では、そもそもコンピテンシーとはどのような意味なのでしょうか。
コンピテンシーの意味
コンピテンシーとは、企業において高い成果を挙げる人材の「行動特性」のことを指します。優秀な人材が業務に取り組む上で何を意識し、どのような思考プロセスでどのような行動をとっているのかを分析することで、このコンピテンシーを明らかにすることができます。職種や役割によって従業員に求める成果は異なるため、コンピテンシーは通常、職種や役割別に定められます。
そして、コンピテンシー評価は、このような行動特性を基に行われる人事評価のことを表すのです。
例えば、現在従業員の中で優れた成果をもたらしている人材をモデルとしたり、企業理念や事業戦略、求める人物像などからつくったモデルを評価基準として採用し、これを基にして自社の従業員を評価します。
個々の従業員のスキルや特性に注目するだけではなく、「社内で成果を挙げている人物がどういった行動をとっているのか」「その動機」に視点を置いて分析を行うため、コンピテンシー評価を活用することで、効率よく優れた人材育成を行うことができるようになります。
一方で、スキルや知識といった計測しやすいものに比べて、コンピテンシーは行動の動機、性格など心理的側面を測る必要があるため、可視化することが難しいという特徴があります。
職能資格制度(能力評価)とは異なる
コンピテンシー評価は、しばしば職能資格制度(能力評価)と混同して理解されることがありますが、これらは異なる評価制度です。
従来一般的に用いられていた職能資格制度は、人材の能力・スキル・知識を評価する方式です。業務に関連するスキルや知識は、その企業に長く属せば属するほど身について行くものです。そのため、職能資格制度は、年功序列におちいりやすいことがデメリットとして挙げられます。また、積極性や協調性など抽象的な要素を評価者の視点で測ろうとするため、評価基準が曖昧であったり、評価者の主観によって左右されやすい点も職能資格制度が抱える問題点です。
一方で、コンピテンシー評価は、モデルを基に設定した「~ができる」などの具体的な行動特性を評価します。同時に成果にも直結するため、評価が明確で公平性が保たれやすい方式であると言えるでしょう。
コンピテンシー評価が注目される理由
ではなぜ今、企業の人事評価制度においてコンピテンシー評価が注目されているのでしょうか。
その理由として、従来主流であった年功序列の風潮がなくなりつつあることが挙げられます。前述した職能資格制度は、年功序列の企業に適する評価方式でした。人材を長期に亘って雇用することが前提であったため、この評価方式でもあまり問題がなかったのですが、現在は少子高齢化が進んでいることもあり、人材の獲得と維持が企業の発展において重要になっています。
折角人材を獲得したとしても、従来の評価方式のままで仕事の成果が待遇や評価に反映されなければ、向上心の強い社員のモチベーションは低下してしまいます。その結果、優秀な人材が転職で流出していく可能性があるのです。
また、年齢や勤続年数を重視する従来の制度を改革していくことは、企業にとっても人件費を削減することに繋がります。
これらの理由から、近年は人事評価の公平性が重要視され、やがてコンピテンシー評価が注目されるようになりました。
コンピテンシー評価のメリット
コンピテンシー評価を導入するメリットについてご紹介します。
まず、人材育成や人事評価を効率的に進めることが可能になります。
コンピテンシー評価では、具体的な「行動」を評価基準に用いるため、対象の労働環境や職種に合致したモデルをつくることができます。そのため、目標とする人物像が明確になり、従業員の育成がブレることなくスムーズに行われます。評価に関しても、一度モデルを定めることができれば、その後も迷うことなくそのモデルに沿った評価を実施すれば良いため、評価作業の効率や納得感が高まります。
もう一つのメリットとして、企業のビジョンと評価の方向性を合わせやすいことが挙げられます。
企業や組織にとって理想となる姿を評価基準として定めるため、ビジョンや目標に向かって従業員を引っ張っていくことが容易になるのです。また、それぞれの従業員が取る行動の傾向も把握することができるため、人材の適切な配置も行いやすくなります。
これらにより、組織全体としての生産性や従業員の働きやすさ向上などの効果が見込まれます。
コンピテンシー評価のデメリット
では、反対にコンピテンシー評価のデメリットにはどのようなものが考えられるでしょうか。
まず、評価モデルの選定や分析に手間と時間がかかることが挙げられます。
企業ごとに社内の状況に合わせてコンピテンシーを設定していく必要があり、職種や役割ごとに複数のコンピテンシーを具体的に定めていく必要もあります。そのため、導入の難易度が高いことが難点です。
次に、企業の状況変化に対応する際にも時間がかかることが挙げられます。
企業の状況が変化すれば、同時に従業員に対して求められる成果や行動は変化するものです。しかし、コンピテンシーは、具体的に明確に定められる評価基準であるため、企業のビジョンや事業が大きく変化した際に、都度柔軟に対応していくことが難しくなります。定め直すには時間がかかるため、コンピテンシー評価を維持していく人手や時間を確保する必要があります。
コンピテンシー評価の導入時に役立つサンプル
続いて、コンピテンシー評価を導入する際に役立つサンプルを例としてご紹介したいと思います。
コンピテンシーディクショナリ
コンピテンシーディクショナリは、ライル・M・スペンサーとシグネ・M・スペンサーが提唱した6領域、20項目で構成されるコンピテンシー評価シートの作成基準です。
1.達成・行動
達成思考/秩序・品質・正確性への関心/イニシアチブ/情報収集
2.援助・対人支援
対人理解/顧客支援志向
3.インパクト・対人影響力
インパクト・影響力/組織感覚/関係構築
4.管理領域
他者育成/指導/チームワークと協力/チームリーダーシップ
5.知的領域
分析的志向/概念的志向/技術的・専門職的・管理的専門性
6.個人の効果性
自己管理/自信/柔軟性/組織コミットメント
28のコンピテンシー
28のコンピテンシーは、ウィリアム・マーサー社というコンサルティング会社が、1999年に「戦略人材マネジメント」において提示した28のコンピテンシーのことを指します。
①遂行/追求 | ②適応/調整 | ③統合/展開 | ④創造/変革 | |
1.自己 | 自己統制力 | 自己適応力 | 自己展開力 | 自己変革力 |
2.対人 | 対人追求力 | 対人協調力 | 対人指導力 | 対人変革力 |
3.成果 | 成果追求力 | 成果調整力 | 成果統合力 | 成果創造力 |
4.戦略 | 戦略遂行力 | 戦略調整力 | 戦略立案力 | 戦略創造力 |
5.思考 | 論理追求力 | 論理伝達力 | 論理統合力 | 論理創発力 |
6.情報 | 情報追求力 | 情報伝達力 | 情報統合力 | 情報創造力 |
7.時間 | 効率追求力 | 効率調整力 | 効率統合力 | 効率創発力 |
iコンピテンシ ディクショナリ
iコンピテンシ ディクショナリは、情報処理推進機構によって公開されたコンピテンシーです。ITを活用するビジネスにおいて有効なもので、経営戦略などの目的に応じて人材育成を進める際に活用することができます。
タスクディクショナリ(約2600項目)とスキルディクショナリ(約9500項目)の 2つから構成されています。
以下のページからデータをダウンロードすることができます。
i コンピテンシ ディクショナリ(iCD) | デジタル人材の育成 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
コンピテンシー評価項目の具体例
コンピテンシー評価を導入する際には、評価項目を設定する必要があります。しかし、前述したとおり評価モデルや評価項目は、それぞれの企業の状況やビジョンによって大きく異なります。確立された規則や形式はないため、以下、参考となる例をご紹介します。
コンピテンシー評価項目の例
- 成熟性 理解力
- 変革力 判断力
- 顧客志向性 対人力
- 協調性
- 思考力
- 業務遂行力
- 情報処理能力
- 統率力
コンピテンシー評価シートの書き方
コンピテンシー評価シートとは、コンピテンシー評価制度を運用する際に使用される企業オリジナルのシートのことを指します。
作成するコンピテンシー評価シートには、それぞれの職種や役職等に合わせて、目標とするべき姿や行動の指針を示す必要があります。また、項目としては、主に「評価項目」「評価軸」「尺度」が記載されます。
以下、それぞれの項目の詳細です。
評価項目
評価項目は、それぞれ大まかな分類に分けられます。自社でモデル化したコンピテンシーに適合する要素として、どの分類の行動特性が当てはまるのかに注目しながら定めましょう。
評価項目は、前述したサンプル等を参照しながら作成すると良いでしょう。もちろん、手間や時間はかかりますが、一から企業独自の評価項目を設定する形でも問題ありません。
評価軸
それぞれの評価項目における明確な評価軸を定めましょう。
評価軸は、上記の評価項目の具体例を参照しながら、職種や立場ごとに行動指針の項目を記載することで作成することができます。
例えば、企画職の場合「顧客の視点から物事を考える」「フレームを活用しニーズを正確に分析する」などの、思考プロセスが重視されやすくなります。
このように、各職種に適した行動指針を設定しましょう。
尺度
最後に、尺度を定めます。
尺度には、「共通基準」と「個別基準」があり、それぞれ記号や数字を用いて作成します。
共通基準は企業全体を通して使う共通の尺度のことを指し、個別基準は個々人の目標や項目に従って設定した尺度のことを指します。
コンピテンシー評価の導入方法
では、コンピテンシー評価を導入する際には、どのようにすれば良いのでしょうか。
導入の大まかな流れは以下の通りです。
- 社内の優秀な人材を分析する
- コンピテンシーモデルの検討
- コンピテンシー評価項目等の作成・選定
- 企業のビジョンや経営方針との一致度を確認する
- コンピテンシー評価の検証・改善
コンピテンシー評価導入時の注意点
最後に、コンピテンシー評価制度を導入する際の注意点についてご紹介します。
まず、目的である「成果の向上」を見失わないことが重要です。
あくまで、それぞれの従業員や企業全体における生産性の向上のために、コンピテンシー評価制度を導入します。評価制度を改革することにばかり目を向けるのではなく、目的を常に意識しながら取り組みを進めることで、より優れた効果を生み出します。
次に、コンピテンシーを完全に満たすことのできる人物はいないことを意識しましょう。
コンピテンシーを定めることで、企業の目的に沿う人物でなければならないという思いが強まり、完璧主義に陥ってしまうことがあります。
コンピテンシーは目標となる人物像ではありますが、人材にはそれぞれの特性や性格があるため、これを完全に満たすことは基本的に不可能であることを認識しながら評価を行うことが大切です。
最後に、コンピテンシーモデルやコンピテンシー項目を定期的に見直し、更新するようにしましょう。
企業の形が変われば、理想のモデルや生み出すべき成果も変化することは前述した通りです。企業の継続的な発展を目指すには、段階が進むごとにコンピテンシーを見直す必要があります。また、設定したコンピテンシーが必ずしも適切であるとは限りません。そのため、コンピテンシー評価の実施後は従業員の意見を調査するなど、定期的にその効果を検証することが必要です。
まとめ
近年注目が集まっているコンピテンシー評価についてご紹介しました。コンピテンシー評価は、労働人口が減少する現代社会において、企業が発展するために有効な評価方式であることがわかりました。
導入手順やサンプル例を基に、是非評価方式の改革を検討してみてください。