近年、企業の成長のために「人的資源」に対する注目が集まっています。労働人口が減少し、人材獲得競争が激しくなる中、企業の成長につなげるためには人的資源の活用が必要です。この記事では人的資源の重要性・管理方法・活用方法について紹介します。
人的資源とは
「人的資源」とは、従業員などの「ヒト」が持っている業務上の能力やスキルによってもたらされる経済的な価値を表します。
人的資本とは異なる
人的資源と似たような言葉に「人的資本」があります。両者は似たような言葉ですが、それぞれ用語の用途が異なります。
人的資源は従業員の能力やスキルによってもたらされる経済的価値を表しますが、人的資本はモノやカネと同様にヒトを資本として捉えています。ヒトを資本として捉えることでその価値を最大限に発揮し、企業価値の向上につなげる考え方です。
人的資本への投資を行うことで、従業員のモチベーションや価値が向上し、最終的には利益につながると考えられています。
人的資源は消費の対象であるのに対し、人的資本は投資の対象と捉えることができます。
経営資源の内の1つ
「ヒト」は経営資源の一つです。
1990年代までは、経営資源は「ヒト・モノ・カネ」あるいは「ヒト・モノ・カネ・情報」の3つないし4つの種類があると考えられてきました。しかし近年、経営資源は「ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産」の6種類があると考えられています。これは、時間と知的財産をどう活用するかが企業価値に直結するようになったからです。
例えば、M&A(企業合併・企業買収)はマーケットに進出する時間を大幅に短縮させます。また、商標・特許などの知的財産は他社との差別化や競争優位性を確保するための要素です。
このように、ここ20年の間に「時間」や「知的財産」は重要な経営資源の要素と考えられるようになり、現在では「ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産」の6つが経営資源として捉えられています。
人的資源を除く5つの経営資源
モノ
「モノ」は販売する商品、商品を製造するための機械や設備、働く場所であるオフィスなど、会社が保有する有形物を表します。また、業務を効率的に進めるためのツールや顧客に提供するサービスなどもモノに含まれます。
顧客に提供する商品は売上に、オフィス環境や効率化ツールなどは従業員の生産性に影響します。このように、モノは企業の利益に直結するため、適切に取り扱うことが重要です。
カネ
経営資源における「カネ」は経営資金を指します。カネは設備の導入、新たな事業を行うための投資、優秀な人材の確保に必要とされるなど、カネは必要不可欠な存在です。
カネは現金のみならず、借入金・債権・株式などの金融資産も含まれます。また、金融機関が融資する際の確認項目になっている資金調達が経営方針に影響を与えるなど、カネは重要な経営資源の一つとなっています。
このため、経営の選択肢を広げるためにも、十分な経営資源の確保が必要です。
情報
経営資源における情報とは無形の財産です。社内に保有しているデータ、これまで積み上げてきたノウハウなどが該当します。近年コンピュータシステムやインターネットの発達により、情報は特に重要視されるようになりました。
経営資源の中で情報が重要視される理由は、情報が企業に莫大な利益をもたらす可能性があるからです。例えば、マーケティングによって得られたデータを活用することで自社の優位性を高めることができます。
その一方で情報漏洩は企業に大きな損害を与えるため、適切な管理が必要です。
時間
経営資源における時間とは、企業活動におけるあらゆる時間を指します。具体的には、経営会議をはじめとしたミーティング、業務時間、製品・サービスの企画・製造・リリースにかかった時間などです。
近年、時間は経営資源の一つとして数えられるようになりました。なぜなら、時間は有限であるため、時間の使い方が企業活動や企業の成長に大きな影響を及ぼすからです。このため、限られた時間の中で最大限の効果を得られるよう、時間の使い方を組織全体で工夫する必要があります。
知的財産
知的財産は特許・商標・著作権といった無形の財産です。知的財産は企業の独自性を生み出し、ブランディングに大きな影響を及ぼします。このため、近年では知的財産も経営資源の一つとして認識されています。
自社の知的財産を理解し、商品やマーケティングなどに活用することで、企業の安定的な成長が期待できます。
人的資源はなぜ重要なのか
成長させることが可能
では、6つの経営資源のうち、「ヒト」と他の経営資源との違いはどこにあるのでしょうか?それは、ヒトは「成長可能な経営資源」という点で、他の5つの経営資源と異なることです。他の5つの成長資源は増やすことはできても、成長させることはできません。ヒトの場合、例えば研修などで業務上必要な知識やスキルを教えることで、従業員のレベルアップを図ることができます。
ヒトが成長すれば業務効率やクオリティが向上し、企業活動に大きな影響を与えることができます。
人的資源が他の経営資源を変化させる
「他の経営資源はヒトが扱うものである」という点においても、人的資源は他の経営資源とは異なります。
経営の6つの要素である「ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産」のうち、「ヒト」は最も重要視されます。なぜなら、他の3要素である「モノ・カネ・情報・時間・知的財産」は「ヒト」によって操作されるからです。例えば、ヒトがいて初めてカネが動くし、ヒトがいてモノをつくることができます。情報もヒトがいるからこそいて集めることができるし、活用することができます。つまり、「他の5つの経営資源を活用できるかどうかはヒト次第である」ということです。
優秀な社員がおり、5つの経営資源を上手く活用できれば、企業の成長に対してプラスに働きます。また、激しく移り変わる市場や経済状況においても、環境に合わせて人的資源は柔軟に対応することができます。
人的資源の流動性
ヒトは常に変化し、一人一人が異なる感情を持っています。また、価値ある行動や自由な発想を好みます。「自分に合わないと思ったら他の企業に転職する」といった行動を取るのもヒトの特徴です。
近年の日本では転職活動が身近になっており、人的資源が流出しやすい環境にあります。このため、能力がある人材や成長した人材が自社から流出しないよう、企業にとって重要なリソースである人的資源の管理が必要です。
人的資源の管理
目的
人的資源の管理の目的は、適材適所にヒトを配置することで価値を最大限に発揮し、経営目標を達成することです。
経営目標の達成には、6つの経営資源の活用が欠かせません。特にヒトは、前述したように他の5つの資源を活用できる唯一の存在です。このため、ヒトが持っている能力やパフォーマンスを最大限に発揮できるよう、人的資源の適切な管理が必要です。
では、人的資源を適切に管理するためには何が必要でしょうか?それは、人材の採用、人事評価制度の実施、給与制度の見直し、昇進や配置転換などの人事制度の実施などです。人的資源の適切な管理は、従業員のモチベーションの向上や生産性にもつながります。
企業の経営目標の達成のためには、経営戦略との整合性を見据えながら、人材資源を適切に管理することが大切です。
課題
組織内におけるヒトは、立場によって求められる役割が異なります。また、ヒトは立場によって視点が異なります。このため、立場が異なるヒトの意見の相違や価値観の相違などで人的組織の管理が難しいのが現状です。
例えば、会社が良かれと思って行った施策が、必ずしも従業員が良いと思うとは限りません。特に人事異動で配置された仕事がその従業員にとってやりたくない仕事だとしたら、モチベーションの低下につながってしまいます。
このため、配属先を決定するにあたってはその従業員の能力・スキル・人間性を見極めながら適切に配置することが大切です。
管理方法
人的資源の管理方法にはいくつかの方法があります。その代表的例として、ミシガンモデルやハーバードモデルがあります。
ミシガンモデルは企業業績の実現を優先して人的資源管理を行います。企業業績が向上すれば、貢献度に応じて従業員の価値が高まります。その一方で、従業員の能力が発揮されにくいことがデメリットです。
ハーバードモデルは従業員の愛社精神を基礎としながら企業の成長を目指す方法です。従業員の内面に目を向け、エンゲージメントを高めることで人的資源管理を行います。その一方で、従業員の抑制機能が働いてしまい、組織や仕事の状態が十分に把握できない点がデメリットです。
人的資源管理の方法はまだ確立していないのが実情です。このため、一つの方法にこだわるのではなく、複数の方法を組み合わせながら人的資源管理を実施するのがよいでしょう。
人的資源を有効に活用するためにはー人的資源戦略ー
雇用制度の最適化
これまで日本の雇用制度は終身雇用制度が中心でした。つまり、多くの従業員は一度入社してしまえば定年まで勤めるのが一般的でした。しかし、近年は終身雇用制度は崩壊し、転職が一般的な世の中に変化しています。
また、企業の労働形態には正社員のみならず、契約社員・パート・アルバイトなどがあります。そのため、さまざまな労働形態の人たちが活躍できるよう雇用制度の最適化が必要です。
人材の育成
先述の通り、ヒトは唯一成長可能な経営資源です。また、企業の成長のためには人的資源の成長が必要です。そして、人的資源の成長は企業の成長に大きな影響を与えます。このため、必要な研修などの教育制度を充実させるとよいでしょう。
具体的には外部講習の受講によって業務の知見を広げるなどのOff-JT、社員の能力開発を行うキャリアディベロップメント制度(CDP)、ロールモデルの導入などです。
適切な評価制度
人事評価制度は従業員の仕事のパフォーマンスを評価するもので、企業の目標の達成度や業績に対する貢献度を評価します。
これまで日本は終身雇用制度における年功序列での評価が一般的でした。しかし近年、終身雇用制度が崩壊し、人材の流動性が高まる中で、成果主義による評価制度が必要とされています。
社員の成果を適切に評価する評価制度を構築することで、人材の成長と社員のモチベーション維持につながります。
それぞれの人材に適した配属
研修結果や従業員本人の希望を踏まえてそれぞれの人材を適材適所に配属することで、個人の能力が最大限に発揮できる方法です。
具体的には配属を決める前に、企業の経営課題や達成目標を確認し、目標達成に必要な能力を持つ人材を配属します。そのためには、配属先の業務内容や人間関係を把握し、1 on 1を通じて従業員のキャリアプランや希望などをあらかじめ把握するとよいでしょう。
適切な報酬制度
目標の達成度合いや業績や組織への貢献度に応じて適切に評価を行い、報酬として還元することも必要です。評価に応じた報酬や昇格を行うことは、従業員のモチベーションアップに、そして人的資源の向上にもつながります。
適切な報酬制度の実現には制度設計が重要です。報酬制度が従業員に浸透することで、自社に対するモチベーションがアップします。
年功序列に囚われずに制度設計を柔軟に行うことが必要です。そして人事評価や報酬が適切に行われれば離職率の低下にもつながります。
まとめ
この記事では人的資源の重要性・管理方法・活用方法について紹介しました。
人的資源は6つの経営資源のうち、唯一成長可能な資源です。また、人的資源を適切に活用することで、企業の成長につながります。そして人的資源を適切に活用するためには人的資源戦略が必要です。
ラフールサーベイは組織と従業員を可視化し、行動変容を促すための組織改善に必要な情報を提供するサーベイです。設問から導き出された課題と要因、そして組織のパフォーマンスを向上させるための要素を把握できます。
人材資源戦略の構築のためにも、ラフールサーベイの活用をおすすめします。