ビジョン・ミッション・バリューとは、会社の根幹となる価値観を表す言葉です。ビジョン・ミッション・バリューがあることで、従業員全員が正しく同じ方向に進むことができ、企業の成長につなげることができます。
ミッションやビジョンは混同されがちな言葉ですが、実際には明確な違いがあり、それぞれ役割も異なります。この記事では、ミッション・ビジョン・バリューの定義や必要性、作り方、事例などを解説します。それぞれの違いをおさえて基本をおさらいしたい人は、ぜひ参考にしてください。
ミッション・ビジョン・バリューとは
ミッション・ビジョン・バリューとは、経営学者ピーター・F・ドラッカーが提唱した考え方で、企業の経営方針に対する考え方を言語化したものです。
まずは、それぞれの意味を詳しく見ていきましょう。
ミッションとは
ミッションとは、「果たすべき使命」のことを指します。5W1Hに例えると、ミッションは「Why」。なぜその組織が存在するのか、社会に対してどのような価値を提供するのかといった、企業の在り方や存在意義を表す言葉です。短期間で変わるものではなく、過去、現在、未来と変わらない企業の価値観を示します。
ビジョンとは
ビジョンとは、「理想とする将来像」のことを指します。5W1Hでいうと、ビジョンは「What」。ミッションを具体的に落とし込み、どんな姿を目指すのか?を言語化したものがビジョンです。将来像を明確にすることで、会社の未来を具体的にイメージさせる役割があります。不変的であるミッションとは違い、社会や環境の変化に応じて変わる中期的な目標として捉えられています。
バリューとは
バリューは企業の価値観・価値基準を示したもので、従業員の具体的な行動指針となります。5W1Hでいうと、ビジョンは「How」。ミッション・ビジョンを実現するために、具体的にどのように行動するのか?を表すのがバリューです。
ミッション・ビジョン・バリューの違い
前述のとおり、ミッションは「使命・存在意義」、ビジョンは「将来像・あるべき姿」、バリューは「価値観・行動指針」を意味します。上の図を見てわかるように、ミッションを果たすためにビジョンがあり、ビジョンを達成するためにバリューがあるという関係性が成り立っています。
ミッション・ビジョン・バリューの大きな違いは時間軸です。ミッションは現在・過去・未来すべてに、ビジョンは未来、バリューは現在にフォーカスしています。
ミッションは企業の不変的な価値観を表すものですが、ビジョンは環境に応じて変化します。バリューはビジョン実現のために存在するので、ビジョンが変わればそれに合わせて変化させる必要があります。
ミッション・ビジョン・バリューが必要な理由
ミッション・ビジョン・バリューは、企業活動における羅針盤になります。「何のために行うのか」「自分たちが何を目指しているのか」「どのように行動すればよいか」が明確になっていないと、従業員は適切に業務を遂行できません。ミッション・ビジョン・バリューを企業として示すことで、さまざまな価値観をもった従業員が同じ方向に向かって日々の業務に取り組めるようになるため、結果的に企業の成長によい影響をもたらします。ミッション・ビジョン・バリューは、成長していきたい企業にとって欠かせないものといえるでしょう。
ミッション・ビジョン・バリューのある企業とない企業
企業活動の根幹ともいえる、ミッション・ビジョン・バリュー。実際にミッション・ビジョン・バリューがある企業とない企業では、どのような違いがあるのでしょうか。具体的な違いを見てみましょう。
ミッション・ビジョン・バリューがある企業
ミッション・ビジョン・バリューのある企業では、基準となる価値観があるため事業判断のミスが起こりにくくなります。また具体的な行動指針が示されていることで、従業員も自ら考えて判断することが可能です。
企業として目指す将来像や存在意義が明確になっていれば、従業員も自分の目標と普段の業務を結びつけやすく、モチベーションの向上にもつながります。従業員が1つにまとまって、組織としての団結力も強化されるでしょう。
また、どのような人材を評価するかが定まっているので、評価する人によってバラつくようなことも起こりにくく、公正な人事評価の構築にも役立ちます。
採用面では、会社のミッションやビジョンに共感する人材が集まりやすく、どんな会社なのか理解してから入社できるので、ミスマッチも起こりにくいでしょう。
ミッション・ビジョン・バリューがない企業
ミッション・ビジョン・バリューのない企業では、判断基準となる価値観がないため事業判断がブレる、従業員が小さな判断すらできないといったことが起こります。
目指すべき将来像や存在意義が明確ではないため、従業員が目の前の業務に意味を見いだせなくなり、モチベーションの低下は避けられないでしょう。従業員同士で協力しあう組織風土も醸成されにくいため、個人プレー中心のまとまりのない組織になります。
また「どんな人材を評価するのか」といった評価基準が定まっていないので、評価する人によってばらつきが生じやすく、従業員の不公平感も生まれやすくなります。
採用面では、どんな会社であるかがわからないので人材が集まりにくいといったデメリットも。入社後のミスマッチも起こりやすく、早期退職のリスクも高いでしょう。
ミッション・ビジョン・バリューの作り方とポイント
続いては、ミッション・ビジョン・バリューの作り方を詳しく説明します。ポイントをおさえて、自社ならではの価値観が伝わる内容にしましょう。
1.ビジョンを決める
ビジョン・ミッション・バリューを制定する際は、まずはビジョンから検討してください。会社が目指す将来像を明確にすることで、ミッションも整理しやすくなるからです。
ビジョンとは理想の会社・組織の状態を表す中長期的な目標です。自社のもつ強みを考慮しながら「自社の活動によって社会をどのように変化させたいのか」を議論しましょう。
制定の際には、業界や従業員、顧客・取引先などさまざまな方面からのリサーチが役立ちます。社内外へ浸透しやすいよう、わかりやすく短い言葉にするのがポイントです。
2.ミッションを決める
ビジョンが定まったら、続いてはミッションの策定に入ります。ミッションとは「果たすべき使命」のこと。企業としてのミッションは「顧客や社会が求めているもの」が理想的です。
まずは社長が自らの想いを共有し、経営陣を交えて議論しながらミッションを定めます。冗長的になることは避け、短くても印象に残るような言葉で表現しましょう。
3.バリューを決める
ミッションとビジョンが決まったら、従業員の価値基準・行動指針となるバリューを策定します。ミッションとビジョンの主語は会社ですが、バリューの主語は従業員です。
バリューのわかりやすさは、ビジョン・ミッションの達成に直結します。「ミッション・ビジョン達成のために、従業員はどのような行動をとるべきか」を、わかりやすく言語化する必要があります。
経営者の価値観をベースに、ディスカッションを重ねてバリューを定義します。社内に浸透させやすい環境を作るため、策定段階から現場の従業員を巻き込むとよいでしょう。バリューは多すぎると覚えてもらいにくいため、5個以内にまとめるのがポイントです。
他社のミッション・ビジョン・バリューの例
最後に、有名企業で実際に使用されているミッション・ビジョン・バリューをご紹介します。
日立製作所
・ミッション 優れた自主技術・製品の開発を通じて、社会に貢献する ・ビジョン 日立は、社会が直面する課題にイノベーションで応えます。優れたチームワークとグローバル市場での豊富な経験によって、活気あふれる世界をめざします。 ・バリュー 和・誠・開拓者精神 出典:日立グループ・アイデンティティ|株式会社日立製作所 |
日立製作所のミッションは、創業者である小平氏の信念がそのまま受け継がれています。ビジョンやバリューも、創業者や先人たちの想いを大切にしているのが伝わる内容になっています。
トヨタ自動車
・ミッション わたしたちは、幸せを量産する。 ・ビジョン 可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。 ・バリュートヨタウェイ ソフトとハードを融合し、パートナーとともにトヨタウェイという唯一無二の価値を生み出す。 出典:トヨタフィロソフィー|トヨタ自動車株式会社 |
キャッチコピーのように簡潔に示されていながら、トヨタらしいポジティブなミッション・ビジョン・バリューが掲げられています。
ユニクロ(ファーストリテイリング)
・ミッション 服を変え、常識を変え、世界を変えていく ・ビジョン 本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します ・バリュー お客様の立場に立脚革新と挑戦個の尊重、会社と個人の成長正しさへのこだわり 出典:FAST RETAILING WAY (FRグループ企業理念) |
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というファーストリテイリングのミッションは、パナソニックの創業者・松下幸之助氏が唱えた「水道哲学」から強く影響を受けて作られたそうです。
楽天
・ミッション イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする ・ビジョン グローバル イノベーション カンパニー ・バリュー楽天主義 ①ブランドコンセプト 大義名分 -Empowerment- 品性高潔 -気高く誇りを持つ- 用意周到 -プロフェッショナル- 信念不抜 -GET THINGS DONE- 一致団結 -チームとして成功を掴む- ②成功のコンセプト 常に改善、常に前進 Professionalismの徹底 仮説→実行→検証→仕組化 顧客満足の最大化 スピード!!スピード!!スピード!! 出典:企業理念|楽天グループ株式会社 |
バリューが「①ブランドコンセプト」「②成功のコンセプト」の2つに分かれていることで、価値観と行動指針が伝わりやすい構成になっています。
まとめ
ミッションは「使命・存在意義」、ビジョンは「理想像」、バリューは「価値観・行動指針」のことを指します。ミッション・ビジョン・バリューは企業活動における羅針盤であり、企業が成長するために欠かせないものです。
何のために存在しているのか、何を目指しているのかを明確にすることで、企業として意思決定がしやすくなり、採用面でも会社の価値観に共感した人材を獲得しやすくなります。
制定の際は、経営陣だけでなく現場の従業員も積極的に巻き込みながら、組織として納得感のあるミッション・ビジョン・バリューを作りましょう。