人材不足が深刻化する時代において、企業が保持すべき最重要な経営資源は「人材」です。 しかし、ただ優秀な人材を採用するだけでは、企業の成長にはつながりません。 企業のビジョン・事業戦略に合致し、一人ひとりの能力を最大限に引き出す「戦略的人材配置」こそが、組織の生産性や成果を底上げする鍵となります。 本記事では、人材配置を経営戦略の中核として捉え、目的・効果・実施手順までを徹底解説します。
人材配置とは?

人材配置とは
人材配置とは従業員の経験やスキルなどを考慮して適切な部署に配置する人事マネジメントです。採用・昇格・降格・解雇など、人材の再配分に関するマネジメント全般を指します。
人材配置は一人ひとりの経験やスキルなどを見極めて総合的に判断し、適切な部署に配置します。最適な人材配置を行うことで、従業員のパフォーマンスの向上、組織の活性化、企業の目標達成などの効果が期待できます。
最適な人材配置は組織課題の解決にもつながります。また、適切に人材を配置することで「エキスパートを育てる」「スキル向上を見込める」など、人材育成にも効果的です。
従業員にとっても、自分のスキルや特性を活かせる配置によって活躍できる場面が増えることにより、満足度や従業員エンゲージメントの向上にもつながります。
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似た意味の言葉の整理
人材配置に似たような言葉に「人員配置」「人事配置」があります。これらの言葉は人材配置と同じく「経営目標を達成するために従業員を適切な部署に配置する」という意味で使われます。
ただし「人員配置」は医療・福祉分野の専門用語でもあります。この場合は、利用者人数に対する専門家の配置基準としても用いられます。

人材配置の目的
では、人材配置の目的には何があるのでしょうか?人材配置の目的には主に以下の3つがあります。
- 企業の経営目標やビジョンの達成
- 従業員の活躍の促進
- 従業員の育成
それぞれの内容について、具体的に解説します。
企業の経営目標やビジョンの達成
人材配置の最大の目的は、企業の経営目標やビジョンの達成です。企業が経営目標やビジョンを達成するためには、従業員が自分の能力を発揮し、与えられた役割を職場で果たすことが必要です。最適な人材配置を行うことで、従業員一人ひとりが自身の能力を最大限に発揮し、企業の目標達成を目指します。
そのために必要なのが、適材適所への人材配置です。従業員の適正や能力を見極め、適材適所を実現しなければなりません。なぜなら、適材適所が実現すると、従業員の個々の能力を発揮することで組織全体のパフォーマンスが向上し、組織の目標達成の原動力となるからです。
人材配置は企業の経営目標やビジョンを達成するために必要な、戦略的な人材マネジメントと言ってよいでしょう。時には、会社の社運を左右するほど大きな影響を及ぼします。
従業員の活躍の促進
従業員が活躍できるかどうかは適材適所に人材配置が行われているかどうかにかかっています。
もし、人員配置が適材適所に行われていないとミスマッチが発生し、従業員自身の能力がなかなか発揮できません。逆に、仮に現在の部署で能力が発揮できない従業員を適切な部署に配置換えを行うことで、環境の変化をきっかけに新たなスキルや知見を習得し、活躍の促進が期待できます。
人材配置の適正化により従業員が活躍することで、ひいては組織全体の活性化にもつながります。人間は長い間同じ部署で働くとマンネリとなってしまい、モチベーションが続かないこともあります。また、仕事のパフォーマンスを招くこともあり、場合によっては不正行為を起こすことも考えられます。
「今の状態はベストか?」を考えながら常に適切な人員配置を行うことで、マンネリ防止や属人化の防止や組織全体の活性化にもつながります。
従業員の育成
職種や役割によって業務上必要とされる能力やスキルが異なります。人材育成の一環として、計画的にジョブローテーションを行うことで、従業員は未経験の業務を経験し、スキルアップの機会です。新たな環境で働くことで従業員のスキルや経験が向上します。このように、ジョブローテーションは従業員にとって新しいスキルや経験を獲得する機会となると同時に、新たな職場は能力開発の育成の場となるのです。
また、人材配置は将来のリーダー候補者や経営人材候補者の発掘や育成にもつながります。将来のリーダー候補者や経営人材候補者には、企業全体の把握や理解が必要です。企業全体を把握することで柔軟な対応や判断ができるようになり、目指すべき方向性の認識につながります。
このように、人材配置やジョブローテーションは従業員の育成や、リーダー候補者及び経営人材候補者の発掘や育成につながるのです。
人材配置を行うタイミング
では、人材配置を行うタイミングはいつなのでしょうか?人材配置を行うタイミングやポイントは主に以下の通りです。
- 人材採用:人材配置の最初のタイミング。新しい人材を組織内に取り込むことができる。
- 人事異動:企業の中で最も多く行われる人材配置のタイミング。業務効率の向上、マンネリ防止などのメリットがある。
- 雇用形態の変化:アルバイトから契約社員への変更など、ライフステージに合わせて雇用形態や業務の見直しを行う。
- 昇進・昇格:責任を与えることで従業員の成長が期待できる。モチベーションアップの効果あり。
- 解雇(リストラ):業績悪化や業務縮小による人員過剰や、雇用の継続が難しくなった場合に行う。
上記の5つはそれぞれ性質が異なるため、組み合わせて行うのが効果的です。
人材配置の最適化による効果

人員配置の最適化による効果は以下の4つがあります。
- 従業員のモチベーション向上
- 組織全体が活性化
- コスト削減
- 早期離職の防止にもつながる
それぞれについて、具体的に解説します。
従業員のモチベーションが向上
人材配置で新しい環境や希望する仕事を行うことで、モチベーション向上につながります。また、人員配置で従業員が持っている本来の能力が発揮する可能性が高まります。パフォーマンスが向上すると、従業員の達成感や満足感にもつながります。その結果、従業員エンゲージメントの向上が期待できます。また、従業員同士のコミュニケーションの活性化につながることも効果の1つです。
組織全体が活性化
人材配置が適正に行われると従業員が活躍できる場が増え、組織全体が活性化します。また、人材配置を最適に行うことを意識すればマンネリ化や属人化を防ぎ、組織全体の若返り効果も期待できます。
もし生産性が低下している部署やチームがあれば、人材配置の前後で関連部署のフォローアップを行うことでパフォーマンスの向上が期待できます。また、定期的な入れ替えを行うことで組織の風通しが良くなることがあり、従業員の業績に対する意識のリセットにもつながるでしょう。
コスト削減
人材配置を行うことでコスト削減にもつながります。なぜなら、最適な人材配置を行うことで必要以上の人員を雇わなくて済むからです。また、従業員満足度や従業員エンゲージメントの向上につながるため、定着率が向上します。このため、新規採用活動などに対する時間やコストをかけなくて済みます。
また、内製化できるように人材を配置することで、アウトソーシングなどの外注費用を抑制することもできます。
早期離職の防止にもつながる
厚生労働省の『転職者実態調査の概況』によると、自己都合による退職理由のうち、「満足のいく仕事内容でなかったから」が26.7%となっています。
最適な人材配置を行うことで従業員の能力が発揮できるようになり、パフォーマンスの向上が期待できます。その結果、業務内容とのミスマッチを減らすことでモチベーションと従業員エンゲージメントが向上することで、早期離職の防止にもつながります。
人材配置でありがちな3つの課題と解決策
ここでは人材配置において、担当者がやってしまいがちな特に注意すべき3つの課題とその解決策をご紹介します。
1. 一部署主導で視野が狭くなる
事業部ごとの短期的な人員ニーズを優先した結果、全社的な視点での最適な配置ができていないケースは少なくありません。
部署の都合だけで人員を動かすと、個々の従業員のキャリアプランを無視することになり、長期的なモチベーション低下や組織全体のパフォーマンス低下を招くリスクがあります。
<解決策>
人事部が主体となり、各部署のニーズだけでなく全社の経営戦略やビジョンに基づいた配置計画を策定することが重要です。
タレントマネジメントシステムなどを活用して全従業員の人材情報を一元管理することで、部門の垣根を越えた最適な配置が可能になります。
2. ミドルパフォーマーの配置が後回しになる
「ハイパフォーマー」や「課題のある従業員」にばかり注目が集まり、組織の大部分を占める「ミドルパフォーマー」への配慮が不足しがちです。
しかし、ミドルパフォーマーこそが組織のパフォーマンスを支える要です。
彼らの潜在能力やキャリア志向を把握せずに配置を怠ると、組織の成長機会を失うことにつながります。
<解決策>
ミドルパフォーマーに対しても定期的な面談やキャリアコンサルティングを実施し、潜在能力やキャリアプランを丁寧にヒアリングするようにしましょう。
その情報を配置計画に反映させることで、従業員のエンゲージメントと組織全体の底上げを図ることができます。
3. 勘や経験に頼った属人的な配置になっている

過去の経験や上司の主観的な判断に頼った配置は、従業員の不満を招く原因となります。
特に抜擢や異動の理由が不明確な場合、従業員は「なぜ自分が選ばれたのか」「なぜ異動できないのか」といった不公平感を感じやすくなります。
これは組織の透明性を損ない、従業員の会社への信頼を揺るがすことになります。
<解決策>
スキルマップやタレントマネジメントシステムを活用して、従業員のスキル・経験・キャリア志向などのデータを客観的に可視化することが重要です。
これによりデータに基づいた納得感のある配置が可能になり、公平性や透明性を保つことができます。
最適な人材配置を行う手順
では、最適な人材配置を行うには、どのような手順で行えばよいのでしょうか?ここでは、人材配置を行うための手順について解説します。以下の解説を参考に、人材配置を行っていきましょう。
1.現在の人材情報を整理して可視化する
まずは現在の人材情報を整理して可視化します。そのためには社員一人ひとりの経験、能力などのデータを一元管理することが必要です。
社員一人ひとりのデータを把握できないと、適切な人材配置を行うことができません。また、必要なデータをすぐに取り出して分析し、関係者に提供できるよう体制を整えておきます。
これらのデータを一つひとつExcelファイルなどで手で管理するのは大変なので、タレントマネジメントシステムなどの専用のシステムを活用するとよいでしょう。
2.人材のスキルや適性を正確に把握する
社員一人ひとりの能力や経験を見るだけでなく、スキルや適性を正確に把握できるようにしておくことが大切です。具体的には経験した業務内容や評価、面談履歴、得意分野や苦手分野、保有資格などです。これらのデータを整理することで、その従業員の強みや弱みを可視化できます。
また、業務遂行に必要な人数、能力、知識や技術などの整理も行います。せっかく人材配置したとしてもミスマッチが発生すれば、生産性のみならず従業員エンゲージメントの低下を招きます。
3.従業員のキャリアプランをヒアリングする
従業員のキャリアプランをあらかじめヒアリングするとよいでしょう。具体的には「今の業務に不満や疑問点はあるか?」「将来はどのような仕事を行いたいか?」「他にやってみたい業務はあるか?」などを評価面談や1on1などで聞くとよいでしょう。従業員の本音を聞き出す機会を設け、そこで出た意見などを整理することで、人材配置を行うときの参考情報となります。また、これらの情報をもとに人材配置を行うと、従業員の不満を減らすことにもつながります。
4.人材配置を実行し効果検証する
人材配置を行った際には、必ず効果を検証します。具体的には、売上高や成長率、従業員アンケートなどの結果を人材配置前と人材配置後の比較・分析を行います。やりっぱなしで、仮に効果があったとしても「何が良かったのか」が分からなければ次に活かすことはできません。効果が出ているのであれば成功要因を、効果が出ていないのであれば改善策を検討します。そしてPDCAサイクルを回しながら人材配置を進めることが大切です。
戦略的人材配置の成功事例
単なる人事異動に留まらない、企業の成長を加速させる戦略的人材配置。
ここでは、独自の文化と仕組みで成功を収めている企業の事例を紹介します。
株式会社サイバーエージェント
サイバーエージェントは、社員の「才能開花」をテーマに、大胆な人材配置を行っています。
特に注目されるのが、年齢や社歴に関係なく成果を出した若手を重要なポジションに抜擢する「抜擢人事」です。
これは現場の事業責任者が参加する「あした会議」や「強化指定社員セレクション会議」といった会議体を通じてシステム化されています。
全社的な視点で次世代を担う人材を発掘しているのが特長で、従業員のモチベーション向上と組織の新陳代謝を同時に実現しています。
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社
ユニリーバは、タレントマネジメントシステムを駆使したデータドリブンな人材配置で知られています。
世界共通の公正な人事制度を基盤に、社員一人ひとりのスキル、経験、キャリア志向をデータで可視化し「フューチャー・フィット・プラン(FFP)」という制度を通じて、社員が自身のキャリアプランを主体的に設計することを支援しています。
企業は個人の成長目標と事業目標をリンクさせながら最適な配置を検討し、従業員のエンゲージメントを高め、組織全体のパフォーマンスを最大化しています。
株式会社メルカリ
メルカリは「ミッション・ドリブン」な組織運営と柔軟な人材配置で、従業員の能力を最大限に引き出しています。
会社全体のOKR(目標と主要な結果)を各チームや個人の目標に落とし込むことで、全従業員が組織のミッション達成に貢献していることを実感できる仕組みを構築しています。
また社内公募制度を積極的に活用しており、従業員自身がキャリアをデザインできる環境を整備しています。
これにより従業員の自律性を尊重しながら、組織のニーズに応じた流動的かつ戦略的な人員配置を実現しています。
適切な人材配置に役立つツール「ラフールサーベイ」
勘や経験に頼らない科学的な人材配置を実現するためには、従業員の状態を客観的に把握するツールが有効です。
「ラフールサーベイ」は、従業員の心身の健康状態や組織エンゲージメントを可視化するサービスで、人材配置に活用することで以下のようなメリットがあります。
従業員のコンディション把握
個人のストレス度合いやエンゲージメントの状態をデータで把握できます。
異動や配置転換の際に、従業員の心理的な負担を考慮した判断が可能になります。
組織・チームの状態可視化
部署ごとのエンゲージメントや人間関係の課題をデータで把握できます。
組織状態が悪い部署への安易な配置を避けたり、特定のスキルを持った人材を補強したりするなど、データに基づいたチーム編成が可能になります。
配置後の効果検証
新しい配置を実施した後にサーベイを継続的に行うことで、その配置が従業員のエンゲージメントやストレスにどのような影響を与えたかを定量的に検証できます。
これにより、より精度の高い人材配置のPDCAサイクルを回すことができます。
ラフールサーベイは従業員の心理的安全性を確保し、データドリブンな意思決定を支援することで、適切な人材配置に大きく貢献します。
まとめ
人材配置は単なる人員の異動ではなく、企業のビジョンを達成するための重要な経営戦略です。
勘や経験に頼る属人的な配置から脱却し、データに基づいた客観的な判断を取り入れることで、従業員のエンゲージメントと組織全体の生産性を同時に向上させることができます。
最適な人材配置を実現するためには、以下の3つのステップが欠かせません。
1.人材情報の整理と可視化:誰がどのようなスキルや強みを持っているかを把握する
2.経営目標と人材ニーズの把握:会社の目指す姿から必要な人材を明確にする
3.データに基づいた配置と効果検証:客観的なデータを用いて配置を行い、結果を分析して改善につなげる
あなたの会社が抱える人材配置の課題は、組織の成長にとって最大のチャンスです。
この記事を参考にして最適な人材配置を見直し、組織のパフォーマンスを最大限に引き出してください。