「採用CX」という言葉をご存知ですか?採用活動において、選考を受けた候補者が体験する価値を高めることを意味し、企業の採用力向上と、候補者に対する企業イメージの向上を目的としています。
日本では、少子高齢化や労働人口の減少、終身雇用制度の崩壊などの理由から、従来は企業が人を選んでいた採用活動の場でも、今は候補者が企業を選ぶ時代に変わっています。そのため、企業は優秀な人材を獲得するための競争が激しくなっています。
採用CXは、既に海外では注目されている概念ですが、日本ではまだあまり浸透していません。しかし、今後ますます採用CXの重要度は高まることが予測されています。
この記事では、採用CXについての基本的な概念や導入するメリット、設計戦略について解説しています。
採用CXとは?
「採用CX」の「CX」とは、「Candidate Experience(候補者体験)」を意味します。
これは、採用プロセス全体で候補者が体験する過程を、より良いものにするための概念です。
採用CXを取り入れることで、企業の採用力を向上させ、候補者のエンゲージメントを高めることができます。
候補者が採用の合否に関わらず「この企業を受けて良かった」と企業に対してポジティブな印象を持てば、さまざまなメリットがあります。例えば、会社のサービスの顧客になったり、良い口コミをしてもらえるかもしれません。企業側は人事採用のミスマッチが減り、自社にとってより優秀な人材を獲得するのに役立ちます。
採用CXが注目される4つの背景
採用CXが日本で注目されるようになった背景を4つ紹介します。
人材獲得競争の激化
日本では少子高齢化に伴う人口減少により、人手不足に直面しています。
企業間の人材獲得競争は激化し、企業は候補者を選ぶ立場から「選んでもらう立場」に変わりつつあります。
転職があたりまえになっている
日本企業の特徴でもあった「終身雇用制度」が崩壊し、人材の流動性が高まり、転職が一般化する時代になりました。これまで人材獲得に悩まなかった有名な大手企業でも、採用活動に力を入れるようになっています。
このような採用市場の中で自社が選ばれ続けるためには、人材獲得のプロセスで候補者に価値を提供する重要性が高まっています。
インターネットによる採用情報へのアクセス
転職サイトや従業員の口コミサイト、SNSの普及によって、企業の採用プロセスを経験した候補者体験のリアルな声に、誰でも簡単にアクセスできるようになりました。
もし候補者にネガティブな印象を与えれば、今後の採用活動にも悪影響を与え、企業イメージが悪化するなどリスクが懸念されます。
ミスマッチの予防
採用CXに力を入れることで、候補者は採用プロセスの各タッチポイントで、企業の理念や組織風土、仕事内容についての理解を深めることができます。
入社後、候補者が社風や業務に合うかどうかが見極めやすくなり、企業側もマッチしない人材を採用するというミスを防ぐことができます。
入社後「こんなはずじゃなかった」と思われないことで、従業員の早期退職を予防できます。
採用CXに力を入れないとデメリットも
採用CXをおろそかにすると、場合によっては企業にとって大きな損失になることがあります。
選考途中での辞退や内定辞退が増加する
候補者が選考の体験で企業にマイナスなイメージを持ったことで、選考途中で内定辞退・拒否をしたケースがあります。
選考体験をもとに候補者は企業を見極めます。選考途中でも、候補者から企業価値を評価されるという意識を持ち、対策することが重要です。
自社商品・サービスへの印象が悪化する
候補者も企業の商品・サービスを利用している顧客である可能性があります。
選考中にネガティブな印象を持つと、企業の製品を使うのをやめたり、買わなくなることがあります。
このように、企業に対してマイナスな印象を持たれてしまうと、顧客が離れていき、売り上げにも悪影響を与えてしまうでしょう。
採用候補者によるネガティブな口コミが広がる
選考中に候補者が企業に対して悪いイメージを持ってしまえば、ネガティブな評価をSNSや口コミで拡散される恐れがあります。
個人が自由に情報を発信する時代なので、悪い評価を流されてしまうと、場合によっては多くの拡散を産み、企業は大きな損失を被るかもしれません。
候補者1人の声だけでも、企業の長期的な人材獲得・売り上げに響く可能性があるので、選考中にネガティブな印象を与えないよう注力すべきと言えます。
採用CXに取り組むメリットとは?
採用CXに取り組むことは、企業にとってさまざまなメリットがあります。
将来のリピート応募を期待できる
候補者の採用をしなかった場合でも、良い選考体験を与えることで、後に候補者が再度応募してくれる場合があります。
仮にその当時は候補者を不採用にしても、熱意のある候補者が後に良いマッチングをして企業にとって優秀人材になる可能性もあります。
候補者によるポジティブな口コミが期待できる
候補者が採用体験で良い印象を感じることで、転職サイトやSNSで良い口コミを投稿したり、企業を知り合いの求職者に紹介することがあります。
候補者をファン化することで、プロモーション効果も発揮することが期待できます。
インターネットにおいての個人の情報発信を良い方面で使えば、企業にとってコスパの良い広告ともなるでしょう。
採用活動の段階から候補者のエンゲージメントを高められる
選考体験によって入社後の意欲も変わっていきます。タッチポイントで採用担当者などの従業員とコミュニケーションを取り、良好な人間関係を築けると、入社後もスムーズに馴染めるでしょう。
従業員の活躍・成長意欲を増進させるためにも、タッチポイントの早い段階から、企業の理念や事業を理解してもらうよう努めると、従業員の入社後の生産性向上につながります。
タッチポイントごとに解説。認知から入社までのステップ5つ
候補者の認知から入社までには、主に5つのタッチポイントがあります。各段階において適切な施策を実行すると、採用CXを良いものにできるでしょう。
ステップ1:事前の下準備
やみくもに採用プロセスを進めるのではなく、事前に自社について分析をすることが大切です。
「自社の魅力は何か?」「どのような価値を提供できるか?」など、事業に対する理解や魅力について深掘りをしておきましょう。
どのような商品・サービスを提供したいか明確にしておくと、自社にマッチングする人材もわかります。また、自社だけではなく、競合他社の採用力や採用CXを把握・分析をおこなうのも有効でしょう。
ステップ2:認知
自社の魅力を広く認知してもらうために、転職サイトやウェブメディアなどの複数の媒体を活用します。
転職活動をしている人が読んでいる媒体だと、応募候補に入れてもらえることが期待できます。現在転職活動をしていない人でも、企業のインタビュー記事を見ることで、将来就職活動をした際に応募する候補先として見てもらえることもあるでしょう。
ステップ3:応募
応募する時点で、迅速かつ丁寧なレスポンスを候補者にすることで好印象を与えます。
求職者は一社だけではなく、複数の企業に同時に応募することが多いので、人事採用者が誠実な対応をしているところに流れてしまいます。連絡が遅いとその間に忘れ去られてしまい、フェードアウトすることが多いです。
応募者へのメールやDMの文面1つにも「自社の魅力や価値が伝わるか?」を意識して、誠実に対応しましょう。
ステップ4:選考
選考が進むごとに応募者の入社意欲も高めるような施策を実行します。
実際に面接で採用候補者と話すことは、入社後の業務パフォーマンスにも大きく影響します。
企業の魅力や社風を伝えることはもちろん、候補者の疑問や不安を解決できるようコミュニケーションをとることが大事です。
候補者が「次の選考にも進みたい」「もっと面接官と話したい」と思えるような体験を提供できるようにしましょう。
ステップ5:内定と入社
内定を候補者に伝えたからと言って、必ずしもその候補者が承諾してくれるとは限りません。
候補者がいくつかの企業から内定をもらっている可能性が高いので、自社を選んでもらえるように、内定後も丁寧なフォローアップを心がけましょう。
具体的には、メンター制度を活用したり、社内イベントに参加してもらうと効果的です。
採用CXを成功させる5つのポイント
採用CXを成功するためのポイントを5つ紹介します。自社の魅力を伝えるだけではなく「ここで働きたい」と候補者に思ってもらえることを目指しましょう。
採用ペルソナを設定する
どのような人材を求めるのか、社内で認識を合わせましょう。
採用ペルソナを明確に設定することで、どのような広報・宣伝が効果的か戦略を練ることができます。採用ペルソナに焦点を当てた採用CXを実行することで、採用活動がスムーズに進みます。
面接を担当する社員で意思疎通しておく
採用CXにおいて面接官は、選考結果だけではなく、候補者の自社に対する印象を左右する重要な役割を担っています。
面接官によって採用・不採用の軸がバラバラであったり、候補者からの質問への回答が食い違うなどがないように注意しましょう。
候補者への対応は迅速にする
候補者からの問い合わせには、可能な限りすぐに回答するようにしましょう。
連絡が遅いと、企業の信用度を落とす可能性もあり、返事を待っている間は候補者が不安に感じやすい傾向にあります。
選考後は遅くても1週間以内に何らかの連絡をしましょう。
即レスができなかったり、結果を伝えるのが先になる場合は、まずは選考を受けてくれたことへのお礼メールを送ると好印象です。
ポジティブなフィードバックを届ける
採用・不採用に関わらず、選考を受けた候補者にポジティブなフィードバックを送る企業もあります。
フィードバックを送ることによって、候補者のキャリア開拓や次の選考への貴重なアドバイスとなり、候補者の満足度が向上します。
不採用の場合でも、改善点や今後期待できる点などを伝えると良いでしょう。
採用に強い人事システムを活用する
採用管理ができる人事システムの導入も効果的です。
採用管理システムを活用すると、採用進捗の確認や分析ができたり、候補者の情報整理が効率的に行えます。
本来の戦略策定や採用CXのPDCAに時間を充てられるため、業務をスムーズに進めることができます。
まとめ
本記事では「採用CX(候補者体験)」について解説しました。
応募者に「この企業の選考を受けて良かった」と良い印象を与えることは大切です。
採用活動に熱量を持って取り組むことは、自社とマッチする人材を獲得できるだけではなく、世間に対する企業イメージの向上にもつながります。
候補者が企業を選ぶ時代へと変わりつつある今、採用CXは今後ますます重要な役割を果たしていくことでしょう。