リスキリングとは、いま携わっている業務や将来的に発生するだろう仕事のために学び直すこと、また新しくスキルを習得することです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する現代において、企業には積極的にリスキリングに取り組むことが求められますが、自社への導入に当たりお悩みの方も多いでしょう。
そこで今回は、言葉の定義や類義語との違いをはじめ、取り組むことのメリットや実施のための具体的なステップに至るまで、リスキリングについてまとめて解説します。
リスキリングとは?
リスキリング(Reskilling)とは、端的に表すと技術革新やビジネスモデルの変化に対応するための職業能力の再開発、再教育という意味を持つ言葉です。
2010年代に欧米で誕生し、2020年代から徐々に日本でも浸透・認知されるようになってきた人材育成用語であり、経済産業省では以下のように定義しています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
参考:リスキリングとはーDX時代の人材戦略と世界の潮流ーhttps://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf
ただ、不特定多数の職業に就くための能力の再開発・再教育に対して使われることは少なく、一般的には以下いずれかの条件に当てはまる職業のスキル習得の際に使われます。
- 業務のデジタル化とともに生まれる新しい職業
- DXの推進によって仕事の進め方が大幅に変わる職業
スキルアップやリカレント教育、生涯学習との違い
日本のみならず、世界の人材育成の現場から注目されるリスキリングの概念ですが、同じく学び直しを連想する以下のような言葉とは、何が違うのでしょうか。
- スキルアップ
- リカレント教育
- 生涯学習
ここでは、キャリアアップ、リカレント教育、生涯学習と言う言葉の意味を、リスキリングとの違いも踏まえて説明していきます。
スキルアップとは?
英語ではアップスキリング(Upskilling)と表現されるスキルアップは、その人が現在の職場で担当している業務について、より高度な知識・技術を身に着けることを言います。
一方でリスキリングという言葉には、今とは全く別の業務に就く前提で新しいスキルを学び、自分の付加価値を高めていくという意味合いがあります。
リカレント教育とは?
リカレント教育の語源であるリカレント(Recurrrent)には、繰り返す・反復する・循環するという意味があります。そこからリカレント教育という言葉は、生涯を通して休職や退職など何らかの形で離職して学び、復職するサイクルを繰り返す学び方を指す言葉となりました。
また、現在や将来の仕事に関わる学び以外にも、個人の興味や趣味のために離職し学びの期間を得ることも、リカレント教育に含まれます。
企業の支援のもと、明確な経営・人材戦略に基づき在職したまま学び直しをするリスキリングとリカレント教育とは、目的・学び方ともに大きく異なるのです。
生涯学習とは
個人の興味・関心に応じた幅広い分野について、生涯にわたって学び続けることを生涯学習と言います。また、学び直している期間の就業状況にも、特に定義上の制限はありません。
対してリスキリングには、学ぶ目的が明確に仕事のためであり、将来的に必要になるスキルを学ぶと言う意味があります。
リスキリングが注目される背景
リカレント教育など、これまでに提唱されてきた学び直しの手法とは似て非なるリスキリングですが、注目されるようになったきっかけは何だったのでしょうか。
ダボス会議によって世界的な注目を浴びる
リスキリングが世界から大々的に注目を浴びたきっかけは、2020年に開催された「世界経済フォーラム年次大会(ダボス会議)」の2日目に提言された「リスキリング革命」でしょう。
リスキリング革命とは、第四次産業革命に伴う技術革新に対応できる人材を確保するため、2023年までを目標に地球規模で大々的なリスキリングを実施するという宣言のこと。
具体的には、地球人口のうち10億人に対してリスキリングを実施することを目標にプラットフォームを構築し、労働者を成長産業へ移動させようという試みです。
DXに対応できる人材が限られている
近年、日本でもコロナ禍をきっかけにDXの流れが加速し、多くの企業でコンピューターやAIを活用した事業所のDX化が実施されました。
しかし、事業をDX化したのは良いものの社内にDXに対応できる人材がおらず、その恩恵を受けられないという企業も少なくありません。
AIに代替されていく職業が急増する
またAIの高性能化により、商品の検品や運搬、事務作業など多くの職業が機械に奪われる可能性が高いことも指摘されています。
オックスフォード大学の研究者らが2013年に発表した「The Future of Employment(雇用の未来)」では、「今後10年から20年の間にアメリカの総雇用者の約47%の仕事が自動化によって消失するリスクがある」と指摘されており、世界中に大きな衝撃を与えました。
リスキリングは、AIの台頭による技術的失業から労働者を守るため、そしてDX化に対応できるデジタル人材の不足に対応するための手法として、世界から注目されているのです。
日本政府も大規模なリスキリング支援を提言
2022年10月、岸田総理は自身の所信表明演説において「リスキリング支援に5年で1兆円を投じる」と発言。さらにこれをきっかけに、リスキリングが2022年の新語・流行語大賞にもノミネートされたことで、世間で大きな話題となりました。
このことからも、日本においても国家レベルで現状に危機感を抱いていること、またリスキリングの必要性を強く感じていることが伺えます。
リスキリングの定義や重要性がわかったところで、次は、リスキリングに取り組むことで企業がどのようなメリットが得られるのか、具体的に見ていきましょう。
企業がリスキリングに取り組むメリット
将来的な人材不足を予防できる
2019年、経済産業省は「2030年にはデジタル人材が約79万人不足する」との試算を発表しました。
DX化に対応できる人材を求める企業が増えれば、転職市場でのデジタル人材の価値はどんどん高まり、今後さらにデジタル人材の新規採用は困難になるでしょう。
今のうちからリスキリングを推進し、既存の人材にデジタルスキルを獲得してもらえれば、将来的な人材不足を避けられるかもしれません。
社員の離職率低下が期待できる
本人の同意を得た上で企業が全面的にスキルアップを支援するリスキリングには、社員のエンゲージメント(会社への思い入れや愛着心)を高め、離職率を下げる効果も期待できます。
また、携わる仕事そのものへのモチベーションや、やりがいの向上にもつながるでしょう。
新たな事業創出やイノベーションが生まれる
会社制度や自社のお客様のことを良く知る社員が、リスキリングで新しいスキルを獲得すると、時代に合った新しいアイデアが生まれやすくなります。
リスキリングによる知識・スキルのアップデートは、自社の価値観やサービスが陳腐化するのを防ぐ特効薬にもなってくれるはずです。
業務の効率化が期待できる
リスキリングで習得したデジタルスキルを活かせる場を提供すれば、社内のデジタル化も進み、一気に業務が効率化していくと考えられます。
業務効率化によって時間ができれば、人件費の削減やワークライフバランスの向上、新規事業の立ち上げが可能になるなど、企業・社員ともにさまざまな恩恵を受けられるでしょう。
採用コストの削減
デジタル人材など、時代に求められるスキルを持った人材を採用するには、莫大なコストがかかります。
しかし、既存の社員にリスキリングで時代に合ったスキルを身に着けてもらえれば、採用コストはかかりません。教育費用と異動の手続きだけで、欲しいスキルと人材を獲得できます。
リスキリング推進の4つのステップ
ここでは、実際に自社へリスキリングを導入するにはどうすればいいのか、その具体的なステップを4つの段階に分けて解説します。
「リスキリングに興味はあるけど、導入の方法や手順がわからない」という方は、ぜひ参考にしてください。
ステップ1:生み出したい人材像と必要なスキルを明確にする
リスキリング導入に向けてまずすべきことは、将来的に自社に必要になるだろう人材・スキルの洗い出しです。
過去のデータベースをもとに中長期的な事業戦略を立て、さらに事業戦略と連携した人事戦略を立てて、これからの自社にどのような人材やスキルが欲しいのかを明確にしてください。
ステップ2:教育プログラムを作る
次に、できるだけ効率よく短期間で、社員が高いモチベーションを保ったまま自社に必要なスキルを獲得できる教育プログラムがどんなものかを考えます。
自社内に学習プログラムを組み上げるノウハウがなければ、社員の教育や研修に強い外部組織に教材の提案・構築を委託するのも良いでしょう。
ただし、どのような内容や順序で学ぶのが効率的かは、その企業や社員の状況により異なります。しっかり現状を鑑みた上で、現実的に学びやすい方法と教材を選択してください。
ステップ3:スキルを実践できる機会をつくる
どんなに質の高い教育プログラムで学んでも、実践で使わなければスキルは習得できません。
そのためリスキリングでは、単に社員に受け身の教育機会を与えるだけでなく、学んだスキルを試せる実践の機会を盛り込んだプログラムを構築し、提供することが求められます。
プログラミングなどのITスキルの場合は、公的な資格試験が用意されていることも多いですから、資格試験を実践の場として設定するのも良いでしょう。
ステップ4:数値をモニタリングし、効果を測定する
リスキリングを成功させるには、相応の費用がかかります。安くない金額をかけるのであれば、費用に見合った効果が欲しいというのが、経営層の本音ではないでしょうか。
そこでおすすめしたいのが、リスキリングによって得たい効果や実際に得られたこと等を具体的な数値として設定・記録をして、効果測定をすることです。
かかった費用、それに対して得られた効果を記録し、これをもとにPDCAサイクルを回せるようになれば、より良い教育プログラムの構築や改善が可能になります。
リスキリング推進の際に注意すべきポイント
続いて、自社においてのリスキリング導入を成功させるために知っておくべきポイントを、3つご紹介します。
リスキリングへの取り組みは、評価や待遇に反映させる
リスキリングは数か月、数年単位で取り組んでこそ、自社に大きな成果をもたらすものです。しかし、中には長くリスキリングに取り組むうちに「自身の努力が適切に評価されていない」と感じて、学びへのモチベーションが下がってしまう社員もいます。
自社でリスキリングを推進する際は、リスキリングに取り組んだこと、そして獲得したスキルで成果を出したことを評価する仕組み作りも並行して行いましょう。
社員に対し、事前に丁寧に説明する機会を設ける
社員の中には、リスキリングという言葉や制度に懐疑的なスタンスを持つ人もいます。
そのため自社でリスキリングを推進する際には、始めにしっかりと時間をかけて会社から社員へ説明の場を設け、制度を導入する意図や目的を理解してもらいましょう。
あらかじめリスキリングに取り組める環境づくりを行う
スムーズにリスキリングを導入するには、それができるだけの環境づくりも必要です。
現時点で社員が既存の業務で手一杯になっていないか、どうすればリスキリングに取り組む余裕が生まれるのかを考え、状況によってはアウトソーシングの活用も検討しましょう。
まとめ
この記事ではリスキリングとは何か、世界から注目を集める理由や、導入と成功のための具体的な手順を紹介しました。
スキルアップやリカレント教育とも異なるリスキリングは、ビジネスモデルや求められるスキルの変化が激しい現代に生まれた、新しい学び直しの概念です。
企業と社員が手を取り合い、互いをサポートしながらスキルを獲得していけるリスキリングの取り組みが成功すれば、双方にとってより良い未来が開けるでしょう。