セクショナリズムとは、「割拠主義」と訳し、部署同士で協力することなく、自分たちの利益を優先する状態を指します。企業や組織のなかでセクションリズムが横行すると、社員のモチベーションが下がったり、組織の健全な成長が妨げられたり、最悪の場合は不祥事や社会問題につながります。
セクショナリズムが起こる背景を知ることで、その対策や予防策を取ることができます。この記事では、セクショナリズムの種類と原因、起こる弊害から、対策防止策まで分かりやすく解説します。
セクショナリズムとは?
英語のsectionalismから来た言葉で、企業や組織の「割拠主義」を意味します。自分の部署の利益・権利などばかり優先し、他部署と協力しない状態にあります。「共同」「連携」などとは反対の状態です。
古くからセクショナリズムによる対立が、国内外の組織や企業で起きています。歴史をたどると、室町幕府と鎌倉府の対立までさかのぼります。また、米国のFBI(連邦捜査局)とCIA(中央情報局)なども、セクショナリズムの課題を抱えていると言われます。
たとえば、製造・開発部門と営業のコミュニケーションが不足しているなどで連携がとれないと、消費者のニーズの高い製品をつくったり、納期を調整したりすることが難しくなります。
その結果、製造・開発部は「営業がお客様からの声を共有してくれないから良い新製品をつくれない」のように、営業のせいにするかもしれません。
対して営業は「開発から製造までのスケジュールを伝えてくれないからクライアントと納期の調整ができない」と、製造・開発部に不満を抱いていると予想されます。
他部署との協力体制が築かれない結果、派閥争いや自分の部署を守ることばかりに注力するなどに至ります。
セクショナリズムが当たり前になると、部署間の対立が深まり、交流の機会をつくりにくくなります。コミュニケーションが活発でない職場は、働く環境として好ましくありません。
企業にデメリットの多いセクショナリズムは、2種類に分けられます。どのような状態で、何が起こり得るか解説します。
無関心型・非協力型
自分の部署のことだけ考えるタイプです。他部署のトラブルや会社全体のことなどに興味がありません。
具体例
部署の垣根を越えたプロジェクトに参加することに消極的になる、他部署からの協力依頼に対応しないなどです。
懸念されること
他部署とのつながりの弱さが他部署や組織全体に及ぼす影響は見えにくいです。しかし、普段から情報共有やコミュニケーションがとれていないと、トラブルが発生した時の対応が遅れ、企業に損害をもたらしかねません。
排他型・対立型
他の部署・チームに、ネガティブな感情や強い対抗心を抱くタイプです。
具体例
「他の部門のメンバーのせいで仕事が円滑に進まない」「他のチームと協力しないで自分たちがトップになりたい」などと考えます。
懸念されること
切磋琢磨すること自体は悪くありません。しかし、自部署や自分のチーム以外を拒絶しすぎると、所属先以外のメンバーと協力できないことに疑問・不満を感じた従業員は、ストレスを感じやすくなります。
協力しないことがかえって業務の進捗に影響を及ぼし、互いに業績を伸ばせず、会社全体へ悪影響が及ぶ恐れがあります。
セクショナリズムはなぜ起こるのか?
大企業に限らず、部署・チームを複数持つ企業なら、中小企業でも起こり得ます。
リーダーは、自分の部署・チームの管理が仕事です。しかし、他の部門の事情を知らないと、チームのことだけに注力してしまいがちです。結果、チーム同士のつながりが薄れ、組織全体の歪み・機能不全が生じます。
ここからは、他部署・チームの事情を考慮できなくなる原因を解説します。
企業規模の拡大
企業が大きくなれば、従業員・部署の数も増えます。人数が増えるほど、コミュニケーションが難しくなります。
創業したばかりなど規模が小さい時は、トップから現場はもちろん、従業員間の考えなども伝わりやすいです。あらゆるミッションが自分に関係しているように感じられ、自分のチームの業務でなくても協力しようと思えます。
ところが、組織が大きくなると、自分の役割が明確になるというメリットはある一方で、コミュニケーション不足で部署・チーム間の関わりが希薄になることで、担当外の業務に関心を抱かなくなります。自分に直接関係すると思われないことは協力しなくなることが懸念されます。
他部署への理解や状況への理解不足
専門性の高い従業員の育成は、質の高い仕事でクライアントに満足してもらえると期待できるなどのメリットはあります。ただし、さまざまな仕事・部署を経験するジョブローテーション制でないと、他部署のことを理解できない従業員が出てくることも想定されます。
他部署のスケジュールや業務で大変なことなどが分からないと、現実的でない納期を指定するなど無理な要求をしてしまうことが懸念されます。
理解されていない思いが互いに強くなれば、部署・チーム間の対立構造が生まれ、ますますコミュニケーションをとらなくなるかもしれません。トラブル対応が遅くなるなどのリスクが考えられます。
企業や組織全体のミッション・ビジョンが浸透していない
部署のトップが自分たちの業績ばかり優先するような傾向の場合、「自分たちが利益を出せれば良い」というチームの雰囲気になりやすいです。自分たちを優先してしまう原因は、会社全体のミッション・ビジョンを理解していないことです。
従業員一人ひとりもまた、会社全体の目標を認識していないと、目標達成のためにチームや自分が取り組むことは見定める視点に欠け、自部署優先になってしまいます。
各部門が自分たちのことばかりの結果、企業のミッションに反することやビジョンから遠ざかる事態が起こり得ます。
人事制度や人事評価がセクショナリズムを促す
部署異動の少ないジョブローテーション制を採用しない成果主義は、自部署の業績アップに注力しやすいです。
相対評価も、協力する気持ちを薄れさせます。自分が結果を出せば評価が上がりやすいため、仕事の効率アップや新製品の開発に有益な情報を共有しないなどの従業員が出てくる可能性があるためです。
部署・チームの成績が管理者の評価に反映される仕組みも、自部署優先のリーダーをつくる原因となり得ます。
セクショナリズムの横行で起きる弊害とは?
セクショナリズムが横行すると、個人から部署へ、最悪の場合、会社全体にまで悪影響が及びます。
情報共有が適切にされない
他部署に関心がなく、コミュニケーションの機会が減ると、大切な情報共有もしなくなります。対応の遅れは、企業の信用失墜、不祥事などにつながるリスクがあります。
不祥事に至らなくても、自分たちがトップになるために情報共有しないことで、他部署が優位に立たないようにするなどは起こりやすいです。連携がとれないと、業績にも影響を及ぼしかねません。
生産性が低下する
自分たちを優先するため、検討中のプロジェクトは企業全体の利益になるか?といった視点に欠けます。視野が狭く、他部署と協力できる雰囲気もなければ、得意な部署と分担するなどができず、効率的に業務を進められません。結果、新商品・サービスの開発に支障をきたすと予想されます。
生産性の低下は、スキルアップのためにインプットの時間を持つ、企業の発展のためにチャレンジするのゆとりも奪います。新しいことを学んだり挑戦したりし続けないと、新製品・サービスは生まれにくいです。
部署間の対立が激しく、職場環境が悪い状況では、ストレスを感じ、メンタル面が良くない従業員がいてもおかしくありません。メンタルの不調は、生産性の低下の要因にもなります。
従業員のモチベーションやメンタルヘルスの低下につながる
部署・チーム内の結束が強すぎると、他の部署との対立が生まれる可能性があります。雰囲気が悪いと、従業員は否定されるのを恐れ、自分の意見・考えを述べにくくなります。勝手なことをしたなど悪く受け取られる可能性を考え、頼まれたこと以外しようとしない姿勢も見られるでしょう。
新しいことにチャレンジできる環境にないと、モチベーション維持は難しいです。部署間の対立が互いに不満ばかり言うなどの形で顕在化されると、「安心して働けない」と不安を抱くようになります。
モチベーションやメンタルヘルスの低下を招く状況は、ハラスメントが生まれやすい環境にも似ています。
不祥事の発生や社会問題につながる
他部署の抱える問題を共有できない組織は、対応の遅れや適切な対処をできないために、企業の信用が失われかねません。悪い評判はすぐに広まります。本来なら起こらなかった事故・不祥事を引き起こすリスクも高めます。
従業員同士のつながりの弱い組織は、上層部に社内の問題が届きにくいです。そもそも届かないこともあります。結果、問題への対応が遅れ、不祥事の隠蔽と同じ状況に陥ります。
セクショナリズムの対策・予防に効果的な3つのポイント
セクショナリズムの原因を見ると、企業の仕組み・制度に問題があると分かります。仕組みや制度の見直しが、改善につながるのです。
部署間の異動やジョブローテーションを促す
他の部署で働く可能性を生むことで、他部署へのマイナスイメージを与えることを慎むようになります。
さまざまな部署で働くことは、あらゆる部署の業務内容などの理解を深めます。2~3年、長くても5年程度で異動できる制度だと、ローテーションのメリットを活かせます。
組織の状況によっては、異動によって困る従業員もいるかと思います。ジョブローテーションの導入が難しい場合、2週間~数ヶ月間他部署の仕事を経験できる社内留学がおすすめです。
部署を横断した交流機会をつくる
部署・チームに関係なく交流できる職場は、コミュニケーションが活発です。敵対心が薄れ、互いに協力し合う環境になると期待できます。
社内SNSや社内サークル、ランチミーティングなどを検討してみてください。
評価制度を改善する
相対評価や評価基準を見直してみましょう。
部署の成績を重視する代わりに、会社のミッションにどれだけ貢献したか、ビジョンを見据えた働きをしていたかなどを見ると良いでしょう。
一人ひとりのスキル・能力、他の人と協力する姿勢やコミュニケーションも評価してみてください。
まとめ
セクショナリズムとは、他の部署・チームと協力せず、自分たちの利益や都合を優先することです。
従業員が増えて部署やチームのまとまりが強くなると、意識しないとコミュニケーションが減ってしまいます。すると、他部署への関心が薄れ、業務内容や課題などを理解できず、対立が生まれやすくなります。
会社全体の目標を従業員が理解していない状況では、他の人たちと協力したい気持ちが薄れるどころか、自分たちの業績アップのため、誰にとっても有益な情報が共有されないなどが起こり得ます。
その結果、生産性の低下や、トラブル対応の遅れで不祥事や重大な問題の発生などに至る恐れがあります。
セクショナリズムを防ぐには、他の部門の人たちの理解を深め、協力し合える環境づくりが大切です。
- ジョブローテーションや社内留学
- 社内SNSやランチミーティング
- 評価制度の見直し
上記は、すぐに取り組める対策の一例です。御社でできそうなことから導入してみてください。
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