人的資本経営とは?従業員エンゲージメントの重要性や情報開示指針も

人的資本経

最近よくメディアなどでも取り上げられるようになった「人的資本経営」という言葉。なんとなく意味はわかるけれど正確な内容はよくわからない…という方も多いのではないでしょうか。

日本においては、経済産業省が「人的資本経営」の概念を公表し、日本全体での推進を主導して図ろうとしています。具体的には、早ければ2022年夏にも、人材への投資に関するいくつかの項目を有価証券報告書に記載することが義務付けられるようになります。

まさに2022年は人的資本経営元年と言えるでしょう。

このような流れの中で企業価値を高める要素の一つとして重要性が高まっているのが、従業員エンゲージメントに対する取り組みです。

そこでこの記事では、人的資本経営が求められるようになった背景や人的資本経営を考える上で知っておきたい「ISO30414」や「伊藤レポート」の概要、従業員エンゲージメントに関する取り組みのポイントについて解説していきたいと思います。

人的資本経営とは?

社内の人材を投資の対象の資本と捉える考え方を「人的資本」と言い、人的資本を重視し、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営手法を「人的資本経営」と言います。

従来の経営手法との違いは、人材の捉え方が異なる点です。従来は人材を「人的資源」と捉えていました。また、年功序列や終身雇用といった囲い込みが行われていました。しかし、社会環境が変化し、人材の流動性が加速する中で企業の長期的な成長が難しくなっている中、人材を資本として捉え、人材に投資することで企業価値を高めようとする人的資本経営に関心が高まっています。

今なぜ人的資本経営が求められるのか

では、今なぜ人的資本経営が求められているのでしょうか?ここでは人的資本経営が求められている背景を3つ紹介します。

産業構造の変化

1つめは「産業構造の変化」です。

具体的には第一次産業は第二次産業に終了する割合が減り、サービスや無形の商材を扱う第三次産業の占める割合が増えたことです。

(引用元:『平成27年国勢調査 就業状態等基本集計結果』より) 

上記のグラフは『平成27年国勢調査 就業状態等基本集計結果』より引用したグラフです。上記のグラフから、農業・林業といった第一次産業、建設業・製造業といった第二次産業の占める割合が年々低下し、それ以外の第三次産業の占める割合が年々増加していることが分かります。

第三次産業の価値の源泉は「人材」です。第三次産業の占める割合が増えるにつれ、その価値の源泉である人材の重要性が高まってきました。このため、「産業構造の変化」が、人材の価値を高める人的資本経営に注目が集まる背景の一つになっています。

非財務指標・人的資源に対する指標の公表の一般化

2つめは「非財務指標・人的資源に対する指標の公表の一般化」です。

近年、「ESG」という投資指標に注目が集まっています。「ESG」とは”Environment(環境)”、”Social(社会)”、”Governance(ガバナンス)”の頭文字を取った略称で、投資家が企業を評価するにあたり、重要視している観点です。人的資本も社会やガバナンスの評価項目として含まれており、人的資本への投資状況が企業の成長性を判断する評価ポイントとなっています。

また、欧米では「人的資本の経営状況」に対する開示を義務付けています。日本でも人的資本に関する情報の開示に関するルールが検討されており、これらのことから人的資本経営が注目を集める背景の一つとなっています。

働き方の多様化・働き手確保の必要性

3つめは「働き方の多様化・働き手確保の必要性」です。

日本では少子化の影響により、年々労働人口が低下することが明らかです。このため、企業にとっては人材確保の激化が予想されます。企業の成長にとって優秀な人材の確保は必須です。

また、産業構造の変化、そしてサービスの多様化、働き方改革やコロナ禍に伴うリモートワークの普及などにより、働き方も多様化しています。このため、企業の人材マネジメントも多様化、複雑化しています。

しかし、優秀な人材ほど採用や維持が難しくなっており、適切な人材の確保が企業の将来の成長にとって大きな鍵となっています。

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人的資本経営が注目されるきっかけとなった「ISO30414」

人的資本経営が注目されるきっかけとなったのが「ISO30414」です。「ISO30414」では以下の11領域と49項目に関する指標をまとめています。

11業域概要
1.コンプライアンスと倫理企業のコンプライアンスと倫理に関する測定指標
2.コスト人件費や採用費など
3.ダイバーシティ労働力やリーダー層の多様性に関する測定指標
4.リーダーシップ管理職の数や従業員の管理職に対する信頼度など
5.組織文化従業員のエンゲージメントや満足度など
6.組織の健康・安全・福祉労災の比率や研修参加率など
7.生産性売上高、収益、EBIT、ROIなど
8.採用・異動・離職空きポジションに対する候補者の数やポジションを埋める人材の比率など
9.スキルと能力人材開発の費用、学習内容など
10.後継者育成後継者のカバー率や準備率など
11.労働力確保従業員数、外部労働力、休職者数など

日本で注目される「伊藤レポート」とは

「伊藤レポート」とは、経済産業省主導で行っている「人的資本経営の実現に向けた検討会」座長・伊藤邦雄氏が取りまとめた報告書です。ここでは「伊藤レポート」で提言されている人材資本経営を進める上での3つの視点と5つの共通要素を「3F・5Fモデル」と言います。ここでは「3F・5Fモデル」の枠組みについて解説します。

人的資本経営を進める上で必要な3つの視点

まずは伊藤レポートで記載されている「3つの視点」について紹介します。伊藤レポートに記載されている「3つの視点」は以下の通りです。

  • 視点1:経営戦略と人材戦略の連動
  • 視点2:As is-To be ギャップの定量把握
  • 視点3:人材戦略の 実行プロセスを通じた企業文化への定着

その中でも特に強調しているのが1つめの「経営戦略と人材戦略の連動」です。人材戦略は経営戦略やビジネスモデルと表裏一体だからです。このため、同レポートでは「企業は自社のビジネスモデルや経営戦略に向き合い、自社に適した人材戦略を考える必要がある」と強調しています。

人的資本経営を進める上で必要な5つの共通要素

つぎに、伊藤レポートで記載されている「5つの共通要素」について紹介します。伊藤レポートに記載されている「5つの共通要素」は以下の通りです。

  • 動的な人材ポートフォリオ
  • 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
  • リスキル・学び直し
  • 従業員エンゲージメント
  • 時間や場所にとらわれない働き方

この中で人材資本経営実現のカギとなるのが「動的な人材ポートフォリオ」です。経営戦略や新しいビジネスモデル実現に対応するべき人材を、質、量ともに充足させることが必要です。そのためにも「将来的な目標からバックキャストする形で、必要となる人材の要件を定義し、その要件を充たす人材を獲得・育成することが求められる」と述べています。

人的資本経営はエンゲージメント経営とも言える

人的資本経営に関係が深い言葉に「従業員エンゲージメント」があります。では従業員エンゲージメントとは何でしょうか?そして従業員エンゲージメントの向上が企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか?ここでは従業員エンゲージメントについて解説します。

従業員エンゲージメントとは

「従業員エンゲージメント」とは企業と従業員の相互理解や相思相愛の度合いを表す言葉です。企業と従業員の結びつきの強さを表します。一般的に従業員エンゲージメントが高い企業は企業への愛着や貢献意欲が高いことから離職率も低く、業務に対するモチベーションも高いと言われています。

少子高齢化に伴う労働人口の減少に伴い、人材不足、価値観の多様化、働き方の多様化など、社会状況が変化する中で、企業は働き手に選ばれ、そして個人のパフォーマンスを最大化することが必要です。こうした状況の中で、従業員の熱意を高め、業績向上の方策として従業員エンゲージメントに注目が集まっています。

従業員エンゲージメントの向上が企業にもたらすものとは

では、従業員エンゲージメントの向上が企業にもたらす効果は何でしょうか?その効果は以下の3つがあります。

  • 離職率の低下

1つめは「離職率の低下」です。従業員エンゲージメントが高いということは、「会社に貢献したい」と思う社員が多いことの現れでもあります。当然、「辞めたい」と思う社員も減り、離職率の低下につながります。

  • 優秀な人材の確保

2つめは「優秀な人材の確保」です。離職率の低い企業は、就職活動を行っている学生や転職活動を行っている社会人にとっても印象がよいものです。「優秀な人材が他社よりも志望順位をあげ、採用につながる」など、採用活動においても良い効果が期待できます。

  • 生産性と業績の向上

3つめは「生産性と業績の向上」です。2020年7月に経済産業省が発表した『参考資料集』(P43)では従業員エンゲージメントと営業利益率、労働生産性の間に相関関係が認められています。

従業員エンゲージメントを高めるポイント

従業員エンゲージメントを高めるポイントには以下の3つがあります。

  • 企業理念やビジョンへの理解

1つめは「企業理念やビジョンへの理解」です。企業への愛着は、企業理念やビジョンを理解するところから始まります。社員一人一人が自分の理想と会社のビジョンと一致していれば、ビジョンを具現化するためにどうするべきかを考え、行動するようになります。

  • 働きやすい環境の構築

2つめは「働きやすい環境の構築」です。いくら社員の理想と企業の理念やビジョンが一致していたとしても、働きづらい環境では社員のモチベーションを維持することはできません。社員にとって働きやすい環境を提供することが必要です。

  • 社内コミュニケーション

3つめは「社内コミュニケーション」です。従業員が高いモチベーションを持って行動したとしても、その行動を上司や周りが否定しては意味がありません。新しい提案を受け入れる社内コミュニケーションがあるかどうかも必要です。

従業員エンゲージメントを高めるための施策とは?

では、従業員エンゲージメントを高めるためにはどうすればよいのでしょうか?ここでは従業員エンゲージメントを高める施策として3つ紹介します。

  • ビジョンやミッションを従業員と共有する

1つめは「ビジョンやミッションを従業員と共有する」です。企業理念やミッションを共有することで同じ目標に向って一体感をもって仕事をできるようになり、従業員エンゲージメントが向上します。

  • 社内コミュニケーションの活性化

2つめは「社内コミュニケーションの活性化」です。社内コミュニケーションの活性化は従業員エンゲージメントにおいては必須です。1on1ミーティングなどの実施など、オープンなコミュニケーションが有効です。

  • 従業員の成長を支援する

3つめは「従業員の成長を支援する」です。従業員が仕事を通じて成長を感じることができ、キャリア形成を実感できるよう、支援をすることが大切です。

人的資本

日本における「人的資本」の情報開示

日本における人的資本の情報開示についての最新情報を解説していきます。

人的資本可視化の指針が2022年7月下旬~8月上旬に公表される

2022年6月20日、内閣官房は「人的資本可視化指針(館)」を発表しました。この指針は人的資本の情報開示のあり方について焦点を当て、ガイドラインの活用方法を含めた対応の方向性を整理した手引書として編集されています。政府は草案への意見募集を行った後、人的資本可視化の指針を2022年7月下旬から8月にかけて公表する予定です。

19項目の開示例とは?

政府が企業に対して従業員の育成状況や多様性の確保など、人材の投資に関して情報開示を求める骨子案として「19項目の開示例」で整理しています。19項目の開示例は以下の通りです。

人材育成:リーダシップ、従業員育成、採用、人材維持について・自発的、非自発的離職率
・研究者の確保、定着への状況
・後継者の育成プロセス
多様性:多様性、非差別、育児休業について・性別、人種、民族の割合
・期間中の差別事例の総件数
・産休・育休の取得率
健康安全:安全、身体的健康、精神的健康等の従業員の労働環境について・労働災害発生割合
・従業員の欠勤率
労働慣行:児童・強制労働、賃金の公正性、コンプラ等について・団体交渉協定対象の割合
・基本給と報酬総額の男女比
・福利厚生の種類や対象

効果的エンゲージメントと人材価値の見える化に役立つツール

従業員エンゲージメントを高めるためには、まずは現状を知ることから始まります。そのためにも組織内での調査や測定結果、そして従業員エンゲージメントと人材価値の見える化が必要です。そのために役立つツールがcc。

ラフールサーベイはES調査、エンゲージメント調査、メンタル/フィジカル、ストレスチェックなど、従業員や組織の状態を定量的に把握できるサーベイツールです。また、立正大学との産学連携とAIの専門家による知見が入った設問により、従業員エンゲージメントを高めるための見えづらい課題も可視化します。

まとめ

この記事では、人的資本経営と従業員エンゲージメントに関する取り組みのポイントについて解説しました。

人的資本経営は社内の人材を投資の対象の資本と捉え、人材の価値を最大限に高めることで中長期的な企業価値向上につなげる経営手法です。日本でも人材獲得競争が激しくなる中、人的資本経営に注目が集まっています。

人的資本の価値向上や従業員エンゲージメントを高めるためには現状の把握と分析が必要です。そのとき役に立つツールが「ラフールサーベイ」です。

ツールを上手く活用しながらPDCAサイクルを回し、人的資本経営の推進と従業員エンゲージメントを高めるための施策を進めていきましょう。

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