現在、日本では多様化する働き方が浸透している関係から、年々非正規労働者の数が増加傾向にあります。
総務省の調査によれば、雇用形態全体のうち約4割が非正規雇用の労働者となっています。
非正規労働者は、正規雇用に比べて自由に働けるため魅力的なところもありますが、反面、安定性に欠けるため、安心して働き続けることが難しい状況にあります。
また、企業側は人材が流動的になったため、優秀な人材を確保することが難しくなっています。そこで、人材が留まるよう労働環境の整備を行う企業が増えています。
労働環境の整備や、従業員への処遇改善には費用もかかりますが、「キャリアアップ助成金」を活用することで、企業側の負担を軽減できます。
本記事では、キャリアアップ制度について詳しく知りたい方に向けて、受給金額や受給要項、注意点などを解説します。
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金は、派遣労働者や短時間労働者などの非正規雇用労働者に対して、企業内でのキャリアアップを促進する制度です。
自社で働いている非正規雇用の従業員を、正社員として迎え入れたり、処遇待遇、教育訓練を導入する事業主に対して助成金を支払うといった内容です。
労働者の意欲を高めて、優秀な人材を確保し、生産性を高める狙いがあります。
▼厚生労働省 キャリアアップ助成金のご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000765576.pdf
キャリアアップ助成金の種類や金額
もともとは「正社員化コース」「人材育成コース」「処遇改善コース」の3つのみでしたが、現在ではキャリアアップ制度は7つのコースがあります。以下、それぞれ詳しく解説していきます。
①正社員化コース
正社員化コースは、有期契約労働者などを正規雇用労働者に転換または、直接雇用した際に助成金が支給されます。
受給には事前にキャリアアップ助成金に申請しておく必要があります。
◾️助成金
会社規模 | ケース | 支給額 |
中小企業 | 有期→正規 | 57万円(1人当たり) |
無期→正規 | 28万5,000円(1人当たり) | |
中小企業以外 | 有期→正規 | 42万7,500円(1人当たり) |
無期→正規 | 21万3,750円(1人当たり) |
※生産性の向上が認められる場合などによっては、さらに助成額が上がる場合もあります。
②障害者正社員化コース
障害者正社員化コースは、障害者の非正規雇用労働者を正規社員として迎え入れた際に、助成金が支給されます。
◾️助成金
支給対象者 | 措置内容 | 支給額 |
重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者 | 有期→正規 | 中小企業:120万円 中小企業以外:90万円 |
有期→無期 | 中小企業:60万円 中小企業以外:45万円 | |
無期→正規 | 中小企業:60万円 中小企業以外:45万円 | |
重度以外の身体障害者、重度以外の知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された者 | 有期→正規 | 中小企業:90万円 中小企業以外:67.5万円 |
有期→無期 | 中小企業:45万円 中小企業以外:33万円 | |
無期→正規 | 中小企業:45万円 中小企業以外:33万円 |
※支給対象期間は1年です。
※障害者雇用促進法に関連するその他の助成金として、障害者作業施設設置当助成金や障害者解除等助成金もあります。
障害者を雇用する人数は、民間企業で雇用者全体の2.2%、国や地方公共団体、特殊法人等で雇用者全体の2.5%、都道府県等の教育委員会で雇用者全体の2.4%と定められています。障害者雇用の雇用人数が足りていない場合、一人足りないごとに月額5万円(100人以上200人以下の事業所等の場合は月額4万円)の納付金が徴収されます。
③賃金規定等改定コース
賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者の賃金を増額したり、昇給制度を設けたりすることにより助成金が支給されます。
◾️助成額
すべての有期契約労働者等の賃金規定等を2%以上増額改定した場合
会社規模 | 対象労働者数 | 支給額 |
中小企業 | 1人~3人 | 9万5,000円(1事業所当たり) |
4人~6人 | 19万円(1事業所当たり) | |
7人~10人 | 28万5,000円(1事業所当たり) | |
11人~100人 | 2万8,500円(1人当たり) | |
中小企業以外 | 1人~3人 | 7万1,250円(1事業所当たり) |
4人~6人 | 14万2,500円(1事業所当たり) | |
7人~10人 | 19万円(1事業所当たり) | |
11人~100人 | 1万9,000円(1人当たり) |
※1年度1事業所当たり100人までに限ります。
※申請回数は1年度に1回までに限ります。
※生産性の向上が認められる場合などによっては、さらに助成金額が上がる場合があります。
※一部の賃金規定等を2%以上増額した場合も、助成金が支給されます。
④賃金規定等共通化コース
賃金規定等共通化コースは、正規雇用労働者と共通して、非正規労働者にも役職に応じた賃金を支払ったり、新たな賃金形態を設けたりして、労働環境を改善することで助成金が支給されます。
◾️助成金
会社規模 | ケース | 支給額 |
中小企業 | 1事業所当たり | 57万円 |
助成額加算(2人目以降) | 2万円(上限20人まで) | |
中小企業以外 | 1事業所当たり | 42万7,500円 |
助成額加算(2人目以降) | 1万5,000円(上限20人まで) |
※生産性の向上が認められる場合などによっては、さらに助成額が上がる場合があります。
※1事業者当たり1回のみに限ります。
⑤諸手当制度等共通化コース
諸手当制度等共通化コースは、正規雇用労働者と共通して、非正規雇用労働者にも同じように各種手当制度を導入する場合の助成金で、その他「法定外の健康診断制度」を非正規雇用労働者に対して適用させて、合計で4人以上の非正規の従業員に受けさせた場合にも支給されます。
◾️助成金
会社規模 | ケース | 支給額 |
中小企業 | 1事業所当たり | 38万円 |
助成額加算(2人目以降) | 1万5,000円(上限20人まで) | |
助成額加算(2つ目以降) | 16万円(上限10手当まで) | |
中小企業以外 | 1事業所当たり | 28万5,000円 |
助成額加算(2人目以降) | 1万2,000円(上限20人まで) | |
助成額加算(2つ目以降) | 12万円(上限10手当まで) |
※生産性の向上が認められる場合などによっては、さらに助成金額が上がる場合があります。
※1事業者当たり1回のみに限ります。
⑥選択的適用拡大導入時処遇改善コース
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、社会保険に関する適用範囲を整備し、事業主が非正規雇用労働者を新しい規約に変更して、新たな被保険者として基本給を増額させた際に支給される助成金です。
◾️助成金
会社規模 | 支給額 |
中小企業 | 19万円(1事業所当たり) |
中小企業以外 | 14万2,500円(1事業所当たり) |
※1事業所当たり1回に限ります。
措置該当日以降に新たに社会保険の被保険者となった有期雇用労働者等の基本給を一定の割合以上増額した場合、基本給の増額割合に応じて以下の助成額が加算されます。
会社規模 | 基本給の増額割合 | 支給額 |
中小企業 | 2%以上3%未満 | 1万9,000円(1人当たり) |
3%以上5%未満 | 2万9,000円(1人当たり) | |
5%以上7%未満 | 4万7,000円(1人当たり) | |
7%以上10%未満 | 6万6,000円(1人当たり) | |
10%以上14%未満 | 9万4,000円(1人当たり) | |
14%以上 | 13万2,000円(1人当たり) | |
中小企業以外 | 2%以上3%未満 | 1万4,000円(1人当たり) |
3%以上5%未満 | 2万2,000円(1人当たり) | |
5%以上7%未満 | 3万6,000円(1人当たり) | |
7%以上10%未満 | 5万円(1人当たり) | |
10%以上14%未満 | 7万1,000円(1人当たり) | |
14%以上 | 9万9,000円(1人当たり) |
※1事業所当たり1回のみ、支給申請上限人数は45人までとなります。
※生産性の向上が認められる場合などによっては、さらに助成額が上がる場合があります。
措置該当日以降に有期雇用労働者等の生産性の向上を図るための取組(研修制度や評価の仕組み の導入)を行った場合に助成額が加算されます。
会社規模 | 支給額 |
中小企業 | 10万円(1事業所当たり) |
中小企業以外 | 7万5,000円(1事業所当たり) |
※1事業所当たり1回に限ります。
⑦短時間労働者労働時間延長延長コース
短時間労働者労働時間延長延長コースは、雇用する非正規雇用労働者の、週所定労働時間を5時間以上延長するなどの各種条件を満たして労働環境を改善した場合、以下の助成金が支給されます。
◾️助成金
会社規模 | 支給額 |
中小企業 | 22万5,000円(1人当たり) |
中小企業以外 | 16万9,000円(1人当たり) |
※生産性の向上が認められる場合などによっては、さらに助成金額が上がる場合があります。
※その他、各種当該措置により当該有期契約労働者を、社会保険の被保険者として雇用した際に助成金が支給されます。
キャリアアップ助成金に申請する手順
キャリアアップ助成金に申請するための手順は、「正社員化コース」と「正社員化コース以外」で異なります。
以下、それぞれ詳しく解説します。
正社員化コースの申請手順
- キャリアアップ計画を作成して提出する
雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配備する必要があります。労働組合等の意見を聞いて計画書を作成します。
- 就業規則等の改定を実施
正社員へ転換する規約が整備されていない場合は、就業規則や労働協約を新たに規定します。策定には「試験等への手続き」「対象者の要件」「転換実施時期」の明記が必要です。
- 就業規則等に基づいた正社員等への転換
正社員への転換には、新たに策定した試験等を実施します。また、雇用契約書や労働条件通知書などを交付します。
- 転換後6ヶ月間の賃金支払い
正社員への転換後は、6ヶ月にわたり非正規雇用労働時と比較して3%以上増額させた賃金を支払う必要があります。
- 支給申請
6ヶ月分の賃金を支給し終えた翌日から換算して、2ヶ月以内に支給申請する必要があります。
正社員コース以外の申請手順
- キャリアアップ計画を作成して提出する
雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配備する必要があります。労働組合等の意見を聞いて計画書を作成します。
- 計画した取組の実践(就業規則の改定等)
新たに改定した就業規定の取組を実践したり、各種労働環境を整備する取組を実行します。
- 取組後6ヶ月間の賃金支払い
取組を実施後、6ヶ月分の賃金を支払います。
- 支給申請
6ヶ月分の賃金を支給し終えた翌日から換算して、2ヶ月以内に支給申請する必要があります。
キャリアアップ助成金(全コース共通)支給対象事業主の条件
以下に該当しない場合、支給対象事業主とは認められない可能性があるので注意しましょう。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配備している
- 雇用保険適用事業所ごとに計画書を作成し、「管轄労働局長の受給資格認定」を受けている事業主であること
- 各コースの申請に必要な書類を整備し、賃金の算出方法の詳細を提示できる事業主であること
- キャリアアップ計画書の期間内に、各取組を実行した事業主であること
キャリアアップ助成金の対象となる労働者
キャリアアップ助成金の対象となる労働者の一例を紹介します。
- 有期雇用労働者として、6ヶ月以上雇用している労働者である
- 正規雇用労働者になることを確約されずに雇用された非正規雇用の労働者である
- 申請から過去3年以内に、企業・組織と密接な関係がない労働者である
キャリアアップ助成金に申請する際の注意点
キャリアアップ助成金に申請する際の注意点として、同一の行為を対象として2つ以上の助成金等が同時に申請された場合や、同一の経費負担を軽減するために、2つ以上の助成金等が同時に申請された場合には、双方の助成金の要件を満たしていたとしても、一方しか支給されないことがあります。
その他、以下に該当する場合はキャリアアップ助成金を受給できません。
- 助成金に申請した前年度以前のいずれかで、労働保険料を納入していない事業主
- 支給申請日の前日から過去1年間で、労働関係法令に違反した事業主
- 性風俗関連営業に関連する業務、または一部を受託する営業の事業主
- 暴力団と関係のある事業主
- 暴力的活動を行っているほか、暴力団体等に所属している事業主
- 支給が決定したタイミングで、雇用保険適用事業所の事業主でない場合
まとめ
これから非正規雇用の従業員の雇用形態や処遇の見直しを検討されている方は、キャリアアップ助成金はとても魅力的な制度です。
受給するためには、事前に制度の内容や条件を確認し、労働環境を整えて準備することが大切です。会社にとってもメリットに繋がるため、ぜひ備えてみてはいかがでしょうか。