「社員のモチベーションが上がらない」「優秀な人材の離職が止まらない」 このような悩みを抱える企業にとって今、最も注目すべき概念が「ワークエンゲージメント」です。 ワークエンゲージメントとは、従業員が仕事に対して活⼒を持ち、熱意を感じて仕事に没頭しているポジティブで充実した心理状態を指します。 これは単なる「従業員満足度(ES)」や一時的な「やる気」とは異なり、組織の生産性向上や企業業績への直結が科学的に証明された、持続的なエネルギー源です。 本記事では企業の人事担当者や管理職の皆様に向けて、ワークエンゲージメントの定義から、高めるメリット、具体的な測定方法、そしてすぐに実践できる施策までを、厚生労働省や大学の研究データに基づき網羅的に解説します。 この記事を読み終える頃には、あなたの組織でエンゲージメントを高めるための具体的なアクションが見つかるはずです。
ワークエンゲージメントの基礎知識
厚生労働省が紹介するワークエンゲージメント概念について
ワークエンゲージメント(Work Engagement)は従業員の心の健康度合いを示す概念です。
オランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らが提唱した概念であり、「仕事に誇りややりがいを感じている」「熱心に取り組んでいる」「仕事から活力を得ている」といった3つが揃った状態がワークエンゲージメントとして定義されています。
ワークエンゲージメントの3要素
ワークエンゲージメントは3つの要素「熱意」「没頭」「活力」で構成されています。
「熱意」
仕事に誇りややりがいを感じていると、熱意が十分にある状態といえます。そうなると業務自体への関心が強くなり、意欲を持って働けるようになるでしょう。担当業務以外の分野にも興味を持ち、幅広い視野を持てるようにもなれます。
「没頭」
熱心に働くことができていると、仕事に没頭した状態であるといえます。没頭できている人は徹底して仕事に取り組めるようになり、商品やサービスの品質を高められます。作業効率や作業スピードのアップにもつながるでしょう。
「活力」
仕事から活力を得て、生き生きとしている状態を指します。活力がみなぎっているとポジティブになり、ミスやトラブルが起こったときにもストレスを抱えにくくなります。明るく過ごせるようになる社員が増えると、職場の雰囲気が良くなることも期待できるでしょう。
以上の3要素を意識して高めることが、ワークエンゲージメント向上につながります。

従業員満足度(ES)や従業員エンゲージメントとの違い
ワークエンゲージメントを正しく理解し、施策を成功させるためには、その概念が他の類似する概念とどう異なるのかを明確にすることが不可欠です。
人事戦略において特に重要な従業員満足度(ES)と従業員エンゲージメントとの違いを整理します。
類似概念との違い:組織と仕事、満足と充実のベクトル
| 概念 | ベクトル(対象) | 心理状態の傾向 | 主な焦点 |
| ワークエンゲージメント | 仕事そのもの | ポジティブで主体的な充実感 | 活力、熱意、没頭 |
| 従業員エンゲージメント | 組織(会社) | 貢献したいという愛着と意欲 | 組織への信頼、理念への共感 |
| 従業員満足度(ES) | 環境・待遇 | 受け身的な満足 | 給与、福利厚生、人間関係の快適さ |
2つの対極的な概念:「バーンアウト」と「ワーカホリズム」
バーンアウト(燃え尽き症候群)との対極性
バーンアウトとは、仕事に対する過度なストレスが慢性的に続いた結果、心身のエネルギーを消耗し尽くし、仕事に対して無関心や冷笑的になる状態です。
ワークエンゲージメントは、活力・熱意・没頭というポジティブで充実した状態を指します。
バーンアウトはこれらの要素が完全に失われ、疲弊しきっているネガティブで消耗的な状態であり、心理的な両極に位置します。
エンゲージメントを高める施策は、結果としてバーンアウトの予防策としても機能することが研究で示されています。
ワーカホリズム(仕事中毒)との相違点:動機の質
ワーカホリズムは、長時間労働や仕事への強い没頭が見られるため、一見するとワークエンゲージメントが高い状態と誤解されがちです。
しかし、この二つは、仕事に取り組む根本的な動機の質において決定的に異なります。
ワークエンゲージメントが「仕事からの喜びや内発的な充実感」(Want to / やりたい)というポジティブな感情に根ざしているのに対し、ワーカホリズムは「仕事をしていないことへの不安や罪悪感」、あるいは「他人からの評価を得るための強迫観念」(Have to / やらねばならない)というネガティブな感情に駆られています。
そのためワーカホリズムが高い状態は、心身の健康を損なうリスクや、家族・友人との人間関係の悪化を招く傾向があります。
没頭度が高いからといって、その動機がネガティブであればそれはワーカホリズムであり、持続的な成果や従業員の幸福には繋がらないため、人事担当者や管理職は両者を明確に区別して判断することが重要です。
ワークエンゲージメント向上で得られる5つのメリット
ワークエンゲージメントを高めることは、単なる従業員の幸福度向上に留まらず、組織全体に具体的な業績貢献をもたらします。ここでは、人事戦略において重要な5つのメリットを解説します。
1.労働生産性の向上とイノベーションの促進
エンゲージメントが高い従業員は、仕事に対して活力を持って主体的に取り組みます。
与えられた業務をこなすだけでなく、自発性や積極性を持って業務の効率化を提案したり、創意工夫(イノベーション)を生み出したりする傾向が強くなります。
厚生労働省の資料などでも、ワークエンゲージメントスコアが高い組織ほど、客観的な生産性指標や顧客満足度も高いことが示されており、企業業績に直結するメリットです。
ワークエンゲージメントとは | 働き方・休み方改善ポータルサイト
2.離職率の大幅な低下と人材の定着
仕事に強いやりがい(熱意)や活力を感じている従業員は、その仕事や組織に対する愛着や帰属意識が自然と深まり、転職意向が低くなります。
優秀な人材の離職を防ぐことは、採用・教育コストの削減に直結し、組織の競争力を維持する上で極めて重要です。
エンゲージメントを向上させることは、長期的な人材戦略の基盤となります。
3.メンタルヘルス不調の予防
ワークエンゲージメントが高い状態は、従業員が仕事からエネルギーを得ているため、ストレスに対する緩衝材(バッファー)として機能します。
これは心理的なポジティブさが維持されやすく、過度なストレスや疲労を感じるスコアが低くなることを意味します。
結果として抑うつや心身の不調を訴えるリスクが軽減され、組織全体の健康経営を推進する上で大きな効果を発揮します。
4.社員同士のサポート文化と協力体制の強化
仕事への活力が高い従業員は自分の業務に集中するだけでなく、周囲への貢献意欲も高まります。
チーム内で積極的に知識やスキルを共有したり、困っている同僚をサポートしたりする協力的な行動が増える傾向にあります。
これにより職場の心理的安全性が向上し、オープンなコミュニケーションが促進されるため、チーム全体の成果の最大化につながります。
5.採用活動における企業イメージ向上
エンゲージメントの高い従業員は、自社の仕事や組織に対してポジティブな情報を社外に発信します。
これは「働きがいのある会社」という企業イメージの向上に直結し、特にSNSなどの普及した現代においては、採用市場における大きな差別化要因となります。
結果として企業ブランドが高まり、優秀な人材が自然と集まりやすくなるという好循環を生み出します。
ワークエンゲージメントの尺度と測定方法及び高め方
ワークエンゲージメントには、主流となっている測定方法があります。基本的な方法を押さえておきましょう。
また、ワークエンゲージメントを測ることができたら、向上のために動いていくことが大切です。人事や総務などが主導し、改善のための施策を実施しましょう。
ワークエンゲージメントの尺度と測定方法
ワークエンゲージメントについて検討する際には、現在の従業員のワークエンゲージメントについて把握する必要があります。
ワークエンゲージメントを把握する方法として、「MBI-GS」「OLBI」「UWES」の3つが一般的に知られています。
「MBI-GS:Maslach Burnout Inventory-General Survey」
MBI-GSはワークエンゲージメントと対象の概念であるバーンアウトを測定し、該当する数値が低ければワークエンゲージメントが対象に高いと判断ができる測定方法です。
この測定方法では、「消耗感」、「冷笑的態度」、「職務効力感」といった3つの尺度を用いてバーンアウトを測定します。
「OLBI:Utrecht Work Engagement Scales」
OLBIはMBI-GSと同様で、バーンアウトを測定する方法です。
測定の尺度として、「疲弊」、「離脱」といった項目を用いて、測定値が低ければワークエンゲージメントが高いと判断することができる測定方法です。
「UWES:Utrecht Work Engagement Scale」
UWESは他の2つとは違い、ワークエンゲージメントを直接測定する方法です。
「熱意」、「没頭」、「活力」の3つの尺度について17個の質問形式で測定を行うため、特に高い安定性があり、最も利用されている測定方法です。
ワークエンゲージメントの数値と傾向の注意点
ワークエンゲージメントは世界中で使用される指標ですが、日本人はワークエンゲージメントのスコアが、他国と比べ相対的に低くなりやすく、自己評価が低い傾向が報告されています。
日本社会では、UWESの尺度である「熱意」、「没頭」、「活力」について、内心では高く感じていても、ポジティブな感情として表に出すことを控える傾向があるのではないかと、考えられています。
また、正社員と契約社員、アルバイト、パートなどといった雇用形態によってもワークエンゲージメントのスコアに違いがでることが報告されており、労働時間等が限定されている正社員 を中心に、限定正社員のワークエンゲージメントスコアは高い可能性が厚生労働省の分析により示唆されています。
このように、国柄や雇用形態によって、測定したスコアと実際のワークエンゲージメントには解離がある可能性があるため、測定後のスコアについて個別に考察することが重要です。
定期的なサーベイ(調査)とPDCAサイクル
測定は単発で終わらせないことが重要です。定期的なサーベイ(従業員意識調査)を導入し、PDCAサイクルに組み込むことで、施策の効果を最大化できます。
・Plan(計画)
測定結果に基づき、エンゲージメントが低い部門や要素(例:活力)に絞って改善計画を立てる。
・Do(実行)
計画に基づいた具体的な施策(例:裁量権の拡大)を実行する。
・Check(評価)
一定期間(例:四半期)後に再度サーベイを実施し、数値の変化を検証する。
・Action(改善)
検証結果に基づき、施策を継続・改善・中止する。
・独自性
調査結果は「変化」に着目することが重要です。絶対値だけでなく、前月や前年と比較してスコアが急落した場合は、何かネガティブな要因が発生したサインとして早期に察知し、個別に対応することで、リスクを未然に防ぎます。
ワークエンゲージメントを高める方法

ワークエンゲージメントを高めるための要素として一般には「仕事の資源」、「個人の資源」が挙げられる場合が多くあります。
これらに注目して、仕事の在り方や職場環境を改善させる様々な工夫を重ねることによって職場改善を行うことでワークエンゲージメントを高めることができます。
仕事の資源
仕事の資源とは、仕事量等の負担を減らすことや、やりがいを与えることで、モチベーションを高める要因のことです。
従業員のパフォーマンスに対してフィードバックすることや、上司や同僚のサポート、仕事の裁量権などの仕事の資源が大きくなることで、ワークエンゲージメントのスコアが高くなる傾向があるとされています。
実際に厚生労働省の労働政策研究・研修機構の2019年の調査によると、加齢又は職位・職責が高まるに伴って、ワーク・エンゲージメントのスコアも高まる傾向 がみられると共に、「教育関連専門職」「管理職」「接客・サービス職」などの非定型的業務などの比重が高いと考えられる職種ではワークエンゲージメントのスコアが高い傾向にあることがデータからわかっています。
個人の資源
個人の資源とは、心理的なストレスを軽減などにより、モチベーションを高める要因のことです。 自己効力感 、自尊心 、ポジティブな考え方 、仕事や組織に対する楽観性などや、 仕事の資源が大きくなると個人の資源が大きくなり、ワークエンゲージメントのスコアが高くなるとされています。
個人の資源と仕事の資源は密接した関係であり、仕事における裁量度などに変化が生じると思われる「役職の変化」や、仕事の遂行に当たって重要となる「人間関係の変化」といった仕事 の在り方に関連する変化が、ワークエンゲージメントに大きな影響を与える可能性が挙げられています。
従業員の心身の状態を把握できる「ラフールサーベイ」
ワークエンゲージメントを高めていくためには、心身の状態を可視化できるツールを使用することがおすすめです。
特に、ワークエンゲージメントの数値については従業員一人一人の状態に合わせて考察する必要があるため、従業員の現状をチェックし、効果的な改善策を講じていくため、ぜひラフールサーベイの導入もご検討ください。最後に、ラフールサーベイの特徴やメリットをご紹介します。
ラフールサーベイの特徴
ラフールサーベイとは、社員の心身の健康状態やエンゲージメントを把握し、組織全体を可視化できるツールのことです。各種調査を実施して現状把握し、データをもとに分析を行います。課題を特定したら対策リコメンドをもとに改善アクションを実施。組織と従業員の観点から改善を図ることができます。マイページ機能により社員自身での振り返りやセルフケアも可能です。

主な調査項目
ラフールサーベイの主な調査項目には、ES調査、エンゲージメント調査、ストレスチェック、パーソナルコンディション調査などがあります。大学・精神科医・産業医・臨床心理士の知見を取り入れたオリジナルの調査項目により、多角的に分析が可能です。ひとつのツールで多彩な調査が可能な点も魅力。ぜひ無料デモ体験にて使用感をお確かめください。

まとめ:ワークエンゲージメント経営を成功させるために
本記事ではワークエンゲージメントが活力・熱意・没頭の3要素からなる、生産性向上と離職率低下に直結する持続的なポジティブ心理状態であることを解説しました。
成功の鍵は、「仕事の資源」(サポート、裁量権)と、「個人の資源」(ジョブ・クラフティング、心理的資本)の両面からの戦略的なアプローチにあります。
企業の持続的な成長のためにラフールサーベイなどのツールを活用して現状の測定を行い、その結果に基づき上司と部下の対話を通じた小さな改善を現場から実行し始めましょう。

