「部下がなかなか育たない」「教育に時間を割きたいが、現場が忙しすぎて余裕がない」
人事担当者や管理職の方なら一度はこうした悩みに直面したことがあるのではないでしょうか。
労働力不足が深刻化し、変化の激しい現代において人材育成は単なる「社内研修」の枠を超え、企業の生き残りをかけた重要な戦略となっています。
しかし、いざ取り組もうとしても「何から手をつければいいのか」「自社に合った手法はどれか」と迷ってしまうケースも少なくありません。
そこで本記事では、人材育成の基本から2026年現在の最新トレンド、そして具体的な「5つの実践手順」までを分かりやすく体系化して解説します。
この記事を読むことで、OJTやeラーニングなどの手法の使い分けはもちろん、新入社員から管理職まで階層別の課題を解決するヒントが見つかるはずです。
自社の未来を担う「自走できる人材」を育てるための第一歩として、ぜひ役立ててください。
人材育成とは?
人材育成について詳しく理解するために以下の項目に沿って解説します。
- 人材育成の概要
- 2つの目的
- 人材開発との違い
1つずつ確認しておきましょう。
人材育成とは
人材育成とは、個々の従業員の能力やモチベーションを高める取り組みです。取り組みによって企業は様々な環境変化へ対応でき、永続的な発展や成長を目指すことができます。育成対象となるのは管理職や新入社員など、目的に応じて様々です。従業員はそれぞれ持ち合わせているスキルや経歴が異なるため、目的に応じ対象となる従業員を定め取り組む内容を決定することが効果的です。目的は企業が目指す姿と対象者の現状を照らし合わせ、必要な能力や知識を検討すると良いでしょう。
人材育成の目的
人材育成には2つの目的があります。
- 目的1:人材育成で生産性を向上させる
- 目的2:従業員の退職を予防する
それぞれ詳しく解説します。
目的1:人材育成で生産性を向上させる
1つ目は生産性向上を目指す目的です。日本では少子高齢化によって労働人口減少が深刻化しています。この現状から企業にとって従業員は重要な人的資源であり、企業の成長には一人ひとりの労働生産性が欠かせません。人材育成は従業員個々の能力を高め、業務へのモチベーションを向上させます。高い能力とモチベーションは業務効率を向上させ、生産性向上へとつながります。
目的2:従業員の退職を予防する
2つ目の目的は従業員退職の予防です。企業の中でも新卒3年目以内の従業員の離職は、社会全体の課題となっています。離職率は3割程度であり約10年前から改善されていません。
高い離職率の原因の1つとして、従業員が社内における成長機会を感じられていないという点があります。
成長の機会を感じられない職場では将来への希望やモチベーションが上がらず、他に活躍の場を探してしまうことが考えられます。
その点、人材育成は従業員自身の能力向上を目指し研修などの学びの機会を提供します。
そのため人材育成は従業員に成長の機会を与えることで、退職の予防という狙いも含まれるのです。
人材育成と人材開発の違い
人材開発は人材育成と同様の意味で捉えられやすい言葉ですが、2つの意味合いは異なります。人材開発の目的は今ある課題に対し必要な能力を身につけ、自身の成長や組織の成果に結び付けていくことです。そのため対象となるのは課題が見出されている従業員であり、具体的には中堅社員や管理職などが当てはまりやすいでしょう。一方で人材育成では目的に応じて対象者を定め対象者に必要な新たなスキルを学習させることで、地位や立場に合わせた能力の基盤作りを行います。
まとめると人材育成と人材開発では目的が異なり、以下のような違いがあります。
- 人材育成:必要な能力を新しく身につける
- 人材開発:今ある課題を解決する能力を開発する
なぜ今、人材育成が重要なのか?
「人材育成が大事なのは分かっているけれど、目の前の業務が忙しくて後回しになってしまう」 そんな声を現場から聞くことも少なくありません。
しかし2026年現在のビジネス環境において、人材育成は「余裕がある時にやるもの」ではなく「企業の存続に欠かせない最優先事項」へと変化しています。
なぜ、今これほどまでに人を育てることが重視されているのか。その背景には、主に3つの大きな理由があります。
1. 深刻な労働力不足と「採用難」への対応
少子高齢化が進み、多くの業界で「外から新しい人を採用する」ことが極めて難しくなっています。高いコストをかけて求人を出しても、理想通りの人材に出会える確率は年々下がっているのが現実です。
こうした状況下では、外部からの補充に頼るのではなく「今いる社員の可能性を最大限に引き出し、戦力として高めていくこと」が、最も確実で効率的な組織強化の手段となります。
2. 変化の激しい市場で生き残るための「リスキリング」
AI技術の急速な普及やデジタル化により、昨日までの当たり前が明日には通用しなくなるような変化が続いています。
これまで培ってきたスキルだけでは、新しいビジネスモデルに対応できなくなっているのです。
社員一人ひとりが新しい知識や技術を学び直す(リスキリング)、あるいは自ら課題を見つけて解決する力を身につけることは、変化に強い組織を作るための必須条件といえます。
3. 離職を防ぎ、社員の「やる気」を引き出すため
今の働き手、特に若手層は「この会社で自分は成長できるのか?」という点を非常に重視しています。単に給与が良いだけでなく、自分のスキルが向上し、キャリアの展望が開ける環境を求めているのです。
適切な教育機会を提供することは、「社員を大切にしている」というメッセージになり、会社への信頼感や定着率の向上に繋がります。成長を実感できる職場には自然と活気が生まれ、結果として組織全体のパフォーマンスも向上していきます。
人材育成につながる施策・手法
社員のスキルアップを支える方法は、大きく分けて「現場での実習」「外部での学び」「個人の自発的な学習」の3つがあります。これらを自社の状況に合わせてうまく組み合わせることが、成果を出すためのポイントです。
ここでは、代表的な5つの施策と手法について詳しく見ていきましょう。
| 手法・仕組み | 分類 | メリット | 向いているケース |
| OJT | 現場教育 | 低コストで実践的な力がつく | 現場の具体的な仕事の進め方 |
| 外部講師・集合研修 | 職場外教育 | 専門性が高く、意識が変わる | 階層別の教育やスキル習得 |
| eラーニング | 職場外教育 | 効率が良く、一斉に教育できる | 全社共通の知識のインプット |
| 自己啓発(SD) | 自発学習 | 自律性が高まり、個性が伸びる | 専門性の深化や資格取得 |
| 目標管理(MBO) | 仕組み | 成長の道筋が明確になる | 継続的な成長、評価の納得感 |
OJT(職場内訓練)

日常の業務を通じて、上司や先輩が実務を直接教える手法です。
実際の仕事の中で「やりながら覚える」ことができるため、教わった内容をその場ですぐに実践できるのが最大の強みです。
教育のための特別な費用を抑えられるだけでなく、教える側と教わる側のコミュニケーションが深まるという側面もあります。
一方で指導する担当者のスキルや業務の忙しさに効果が左右されやすいため、会社全体として「教え方の基準」を整えておくことが大切です。
2. 外部講師・集合研修
日々の業務から一度離れて、専門の講師や社外の知見を取り入れる学習方法です。
普段の仕事の中だけでは得られない知識や、最新のビジネスマナー、リーダーシップといった専門スキルを効率よく身につけることができます。
また、同じ立場の社員が集まって研修を受けることで、お互いの悩みを共有したり刺激し合ったりする機会にもなり、組織としての一体感や個人のやる気を引き出すきっかけとしても有効です。
3. eラーニング
パソコンやスマートフォンを使い、インターネットを通じて動画やテキストで学習を進める手法です。
最大の利点は、時間や場所を選ばずに自分のペースで学べることで、全社員に共通して伝えたい基礎知識やコンプライアンスの研修、あるいは個別のスキルアップまで、幅広い内容を均一な質で提供できます。
受講の進み具合をデータで管理できるため、人事担当者が一人ひとりの成長を把握し、適切なタイミングで声をかけやすくなるのも特徴です。
4. 自己啓発(SD)
社員が自分自身の意志で、資格の取得や新しい分野の学習に取り組むことです。
これは会社が強制するものではなく、本人が「もっと成長したい」「新しいことに挑戦したい」と願う気持ちを尊重する形をとります。
会社側ができる支援としては、図書購入費やセミナー参加費の補助、資格取得時の報奨金制度を整えることなどが挙げられます。
こうしたサポートがあることで、社員が自ら考えて動く習慣が身につき、結果として組織全体の底上げに繋がります。
自己啓発とは?意味や目的、現代に求められる自己啓発の取り組みを解説
5. 目標管理制度(MBO)
本人が設定した目標の達成度を評価に活かす仕組みのことで、単にスキルを教える手法とは異なり「いつまでに、どのような姿を目指すのか」という道筋をはっきりさせる役割を持っています。
自分が身につけるべき能力が明確になることで、日々のOJTや研修への向き合い方がより積極的なものに変わります。
定期的に上司と振り返りを行い、達成感を得ながら次のステップへ進むことで、着実な成長を支えることができます。
目標管理(MBO)とは?役立つ手法から運用の課題、解消方法を紹介
現代の企業に求められる人材育成の最新トレンド
社会の変化が激しく、これまでの成功法則が通用しにくくなっている今、人材育成のあり方も大きな転換期を迎えています。
単に業務スキルを教えるだけでなく、時代の変化に合わせた新しい視点を持つことが、組織全体の成長を支える鍵となります。ここでは、今まさに多くの企業が注目している3つの重要なトレンドについて解説します。
自律型人材の育成(キャリア自律)
これまでは会社が指示を出し、社員がそれに従うという形が一般的でしたが、現在は社員一人ひとりが自らのキャリアを主体的に考え、行動する「キャリア自律」が強く求められています。
市場の動きが速い現代では、上からの指示を待つだけでは対応が遅れてしまうため、現場で自ら課題を見つけ、解決に向けて動ける自律型の人材が必要不可欠だからです。
企業側は単に仕事を割り当てるだけでなく、社員が自分の強みをどう活かしたいかという意思を尊重し、挑戦できる環境を整える役割が期待されています。
リスキリングとデジタルスキルの習得
デジタル技術の進化、特にAIの活用が当たり前となった今、新しい時代に適応するために必要なスキルを学び直す「リスキリング」が重要視されています。
これは特定のIT担当者だけに関係する話ではなく、全社員がテクノロジーを道具として使いこなし、業務を効率化したり新しい価値を生み出したりする力を身につけることを指します。
スキルの寿命が短くなっているからこそ、一度身につけた知識に固執せず、常に自分をアップデートし続ける習慣を組織全体で後押ししていく姿勢が企業の競争力を左右すると言っても過言ではありません。
ウェルビーイングとパフォーマンスの両立
社員が心身ともに健康で、満たされた状態で働けているかという「ウェルビーイング」の視点は、今や人材育成と切り離せない関係にあります。
過度なストレスや不安を抱えた状態では、新しいことを吸収する意欲が湧かず、学習効率も著しく低下してしまうからです。
心の健康を保ち、安心して自分の意見を言える環境があるからこそ、社員は本来の力を発揮して前向きに成長に取り組むことができます。
社員の幸せと仕事の成果を対立させるのではなく、両立させることで持続的な成長を可能にする考え方が、これからのスタンダードになっていくでしょう。
人材育成を進めるための5ステップ

人材育成は、単に研修を実施すれば成果が出るというものではありません。
組織の目指す方向と個人の成長を一致させ、着実にステップを踏んで進めることが重要です。ここでは、計画立案から評価までの具体的な5つの手順を解説します。
ステップ1:経営戦略に基づいた「あるべき姿」の明確化
最初に取り組むべきは会社が将来どのような姿を目指しており、そのためにどのような人材が必要なのかを定義することです。
経営戦略や事業計画を読み解き、数年後に現場で活躍している社員に求められるスキルや姿勢を具体的に描きます。
この土台が揺らいでいると、どれほど質の高い教育を行っても組織の成長には繋がりません。
まずは経営層と現場の認識を合わせ、育成のゴールとなる「理想の社員像」をはっきりさせることが全ての出発点となります。
ステップ2:現状の把握と「スキルギャップ」の可視化
ゴールが決まったら、次は現在の社員が持っている能力を客観的に把握します。ステップ1で定義した理想像と比較して今の組織に何が足りないのか、個々の社員にどのような課題があるのかという「スキルギャップ」を明らかにします。
スキルマップやアセスメントツールなどを活用して、感覚ではなくデータに基づいて現状を可視化することが大切です。
本人の得意分野や苦手な傾向を正しく知ることで、一人ひとりに適した効果的な教育プランを検討できるようになります。
ステップ3:具体的な育成計画(プログラム)の策定
現状とゴールの差を埋めるために「いつ、誰に、どのような手法で」教育を行うかの計画を立てます。
これまでに紹介したOJTや外部研修、eラーニングなどの手法から、目標達成に最も近いものを組み合わせてスケジュールに落とし込みます。
一度に全てを詰め込むのではなく、日常業務とのバランスを考えながら無理のない範囲で継続できるプログラムにすることが成功のポイントです。
予算や指導担当者の選定も含め、実行可能な形へと具体化していきます。
ステップ4:育成施策の実施と継続的なフォローアップ
策定した計画に基づいて教育を開始しますが、ここで最も注意すべきは「やりっぱなし」にしないことです。
研修を受けたり説明を聞いたりするだけでなく、学んだ内容を現場で実践する機会をセットで提供する必要があります。
実施期間中は、定期的な面談や声かけを通じて進捗を確認し、本人が迷っている場合には適切なアドバイスを行います。
周囲からのサポートがあると感じられる環境を作ることで、社員のモチベーションも維持され、学んだことが実務に定着しやすくなります。
ステップ5:効果測定と改善プロセスの実行(PDCA)
最後に実施した育成施策がどれだけの成果を上げたかを振り返ります。
受講者のアンケート結果だけでなく、実際の行動にどのような変化があったか、業務の効率や成果物に改善が見られたかという視点で評価を行います。期待した成果が得られていない場合は、その原因を特定して次回の計画に反映させます。
一度決めた方法にこだわらず、現場の声や社会の変化に合わせて教育内容を常にブラッシュアップし続けることが、組織全体の成長を止めないための鍵となります。
【階層別】人材育成の課題と解決法
人材育成における課題と解決法を階層別にまとめました。
- 【新入社員】仕事にやりがいやモチベーションを見出せない
- 【若手〜中堅社員】部下への指導・育成に十分な時間を費やせない
それぞれ詳しく解説するので参考にしてください。
【新入社員】仕事にやりがいやモチベーションを見出せない
新入社員がやりがいを見出せない状況には、コミュニケーションを通した人材育成を行いましょう。新入社員にとって業務は取り組むことで精一杯であり、慣れない環境によるストレスも重なりやりがいを得難い状況です。この課題には、OJTの導入によって先輩社員との活発なコミュニケーションを通し新入社員へ安心感や仕事への価値を感じさせる育成が効果的です。年の近い先輩社員とは話がしやすい上に、実際の業務や結果を間近で見られるため、職場への帰属感やモチベーションが高まります。先輩社員との交流を通し、OJT終了後も職場でのコミュニケーションが取りやすくなり職場に馴染みやすくなるでしょう。
【若手〜中堅社員】部下への指導・育成に十分な時間を費やせない
部下の育成手法を学ぶ時間の確保には、eラーニングの導入がおすすめです。若手や中堅社員は業務に活かせるスキルが身につき始め、担当業務や責任の増加によって日々多忙になりやすいでしょう。その上、年が近いこともあり新入社員や部下の育成も頼まれやすいものの、なかなか時間を割けない課題があります。この場合には、時間や場所の拘束がないeラーニングによって指導・育成方法を学ぶことが可能です。オンライン上であればいつでも取り組めるため、外出先や移動中でも学習ができ効率良く知識やスキルが習得できるでしょう。
人材育成の効果を最大化する『可視化』の重要性
どれほど優れた教育プログラムを用意したとしても、それを受け取る社員の心の状態や、組織の受け入れ態勢が整っていなければ育成の効果は半減してしまいます。
目に見えるスキルや実績だけでなく、本人の意欲やストレス状況、あるいは職場全体の空気感といった「目に見えない土台」を正しく把握することが、今の時代の育成には欠かせません。
主観に頼りがちな要素を数値で「可視化」することは、成長を妨げている本当の原因を突き止め、より的確なサポートを行うための第一歩となります。
こうしたデータに基づいた組織づくりを強力に後押しするのが、企業の「健康」を多角的に分析できる「ラフールサーベイ」です。
社員一人ひとりの状態や組織の課題をデータで浮き彫りにすることで、経験や勘に頼らない、本質的な人材育成を可能にします。

まとめ
人材育成は単にスキルを伝達する作業ではなく、社員一人ひとりの成長を通じて会社の未来を切り拓いていくための大切な投資です。
時代の変化に合わせてOJTや外部研修といった従来の手法に、最新のトレンドや「可視化」の視点を取り入れることで組織の力はさらに強固なものになっていきます。
大切なのは一度に完璧を目指そうとするのではなく、まずは自社の現状を正しく知り、経営の方向性とすり合わせながら一歩ずつ進めていくことです。
社員が自分の成長を実感し、前向きに業務に取り組める環境を整えることは、結果として離職を防いで企業の競争力を高めることにも直結します。
本記事で紹介した5つのステップや可視化の重要性を参考に、ぜひ自社に合った「人を育てる文化」を形にしてみてください。


