ハラスメントは、職場の秩序や業務への支障にも関わる問題です。特に職場で起こりやすいとされている、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントなどへの防止策を講じるのは事業者の責務でもあります。
そこで、本記事ではハラスメントとは何か、また特に問題視されているハラスメントとそれらに対する防止策について紹介します。
ハラスメントとは
ハラスメントとは、英語の動詞である「harass:嫌がらせをする、迷惑をかける」が由来となっており、嫌がらせやいじめなどの迷惑行為を指します。「相手を不快な状況にさせたり、相手に不利益を引き起こすなど、他者の尊厳を侵害する行為」として定義することができ、行為を行った側が故意であるかどうかに関係なく、行為を受けた相手が不快と感じた場合ハラスメントの対象となります。
職場におけるハラスメント3種類
厚生労働省では、職場におけるハラスメントとして3つのハラスメントに対する防止について紹介されています。ここでは、この3大ハラスメントについて見ていきましょう。
職場におけるパワーハラスメント
厚生労働省では、職場におけるパワーハラスメントは、以下のように定義されています。
職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの であり、
①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
厚生労働省_パンフレット「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」_職場におけるパワーハラスメントより
更に、職場のパワーハラスメントとして、代表的な6類型が定義されています。
2020年6月より、職場におけるハラスメントの防止措置は、事業主の義務となっています。ここでは、6類型とされるハラスメントの特徴及び該当例と該当しない例について紹介します。
身体的攻撃
身体的攻撃は、「暴行及び傷害」を用いたハラスメントです。具体的には以下の様な場合が挙げられます。
【具体例】該当する例
- 労働者に対する、殴打、足蹴りを行う
- 労働者に対し物を投げつける
【具体例】該当しない例
- 労働者に対して、誤ってぶつかる
精神的攻撃
精神的攻撃は、「脅迫や侮辱、暴言」などを用いたハラスメントです。具体的には以下の様な場合が挙げられます。
【具体例】該当する例
- 労働者の人格を否定する
- 他の労働者の前で、大声で威圧的な𠮟責を繰り返す
【具体例】該当しない例
- 遅刻など、社会的なルールを欠き、それが再三注意しても改善されない労働者への一定程度の強い注意を行う。
- 業務内容などに照らし合わせた際に、重要な問題行動をとった労働者に対して一定程度の強い注意を行う。
過大な要求
過大な要求は、業務上全く不要な事や、遂行できない内容を強制することで、仕事の妨害を行うハラスメントです。具体的には以下の様な場合が挙げられます。
【具体例】該当する例
- 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないうえで、到底対応できないレベルの業務目標を課し、達成できない場合に厳しく叱責する
- 業務に関係のない私的な雑用を強制的に行わせる
【具体例】該当しない例
- 労働者育成のため、現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
- 繁忙期に、業務上の必要性をもって通常時より一定程度多い業務を任せる
過小な要求
過小な要求は、業務上の合理性がなく、労働者の能力や経験とかけ離れた程度が低い業務を命じ、仕事を与えないハラスメントです。具体的には以下の様な場合が挙げられます。
【具体例】該当する例
- 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
- 嫌がらせとして、仕事を与えない
【具体例】該当しない例
- 労働者の能力に応じて、一定程度の業務内容や業務量を軽減する
人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離しは、「隔離、無視、仲間はずし」などを行うことで、労働者を孤立させるハラスメントです。具体的には以下の様な場合が挙げられます。
【具体例】該当する例
- 行為者の意に沿わない労働者に対し、仕事を外したり、長期間の別室隔離を行ったり、自宅研修させるなど
- 1人の労働者に対し、集団で無視するなど、社内で孤立させる
【具体例】該当しない例
- 労働者の育成を目的とし、短期間で集中的に別室研修などの教育を行う
個の侵害
個の侵害は、業務上不要な場合に労働者のプライバシーに過度に立ち入るハラスメントです。具体的には以下の様な場合が挙げられます。
【具体例】該当する例
- 労働者に対して、職場外における継続的な監視、私物の撮影等を行う
- 性的趣向、性自認や病歴などの個人情報について、当該者の了解を得ずに他者に暴露する
【具体例】該当しない例
- 労働者への配慮を目的に、家族の状況などについてヒアリングを行う
- 当該者の了解を得たうえで、その個人情報について必要な範囲で人事部門等の担当者に伝達し配慮を促す
引用元:厚生労働省_パンフレット「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」_職場におけるパワーハラスメントより
職場におけるセクシュアルハラスメント
厚生労働省では、職場におけるセクシュアルハラスメントは、以下のように定義されています。
職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」において行われる、「労働者」(※1)の 意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を 受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです。
厚生労働省:パンフレット「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」 職場におけるセクシュアルハラスメントより
つまり、セクシュアルハラスメントとは「性的な言動」や「性的な意図を持つ言動」を用いたハラスメントであるということです。
また、「性的な言動を行う者」は、事業主、上司、同僚だけでなく、他の事業者やその雇用される労働者、顧客、患者やその家族、学校の生徒など男女ともに、行為者にも被害者にもなり得る恐れがあります。また、同性に対する行為に関しても同様にセクシュアルハラスメントに該当します。
性的な発言として以下の具体例が挙げられます。
- 性的な事由関係を尋ねる
- 性的な冗談やからかい
- 食事やデートへの執拗な誘い
性的な行動として以下の具体例が挙げられます。
- 必要のない体への接触
- 強制わいせつ行為
また、セクシュアルハラスメントには2つの型があるとされています。
対価型セクシュアルハラスメント
対価型セクシュアルハラスメントとは、行為者が労働者に対し、性的な言動を行い、それに対して労働者が対応することで客観的に見て不利益を受ける場合のことです。
具体的には、被害者は行為者によって解雇、 降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換等 の不利益を受けるなどが挙げられます。
環境型セクシュアルハラスメント
環境型セクシュアルハラスメントとは、行為者が労働者に対し、性的な言動を行うことで、労働者は就業環境が不快となり、業務上の支障が生じる場合のことです。
業務上の支障の例としては、能力の発揮に 重大な悪影響が生じる等その労働者が就業する上で看過できないなどが挙げられます。
職場におけるマタニティハラスメント/パタニティハラスメント
職場におけるマタニティハラスメント、パタニティハラスメント、ケアハラスメントの3つは、まとめて「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」として扱われています。定義としては、
「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」とは、「職場」において行われる 上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・ 出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されること、
厚生労働省:パンフレット「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」 職場における妊娠・出産・育児休業に関するハラスメントより
とされています。つまり、行為者が妊娠状態や育児休暇制度の利用などを行う労働者に対して、嫌がらせなどを行うハラスメントであり、セクシュアルハラスメント同様男女どちらもが被害者となる恐れがあります。
ただし、業務での配慮を行うためなど、客観的にみて、業務上の必要性に基づく正当な言動についてはハラスメントには該当しません。
また、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントには2つの型があるとされています。
制度等の利用への嫌がらせ型
制度等の利用への嫌がらせとは、妊娠・出産・育児等で利用することができる制度や措置を利用する労働者に対して、その制度等の申請や相談を受けた上司などが、申請した労働者に対して嫌がらせや解雇、申請を拒否することなどの行為が挙げられます。
具体例
- 育児休業の申請について上司に相談したところ、「休業申請をするなら辞めてもらう」と言われた
この様に申請に伴う労働者の行為に対して、行為者の行為により就業環境が害される場合はこのハラスメントに該当します。
また、ハラスメントの対象となるのは、制度利用を行う男女どちらもの労働者であり、行為者となりえるのは上司や同僚が挙げられます。
状態への嫌がらせ型
状態への嫌がらせとは、妊娠した状態や、出産した事柄などの状態に対して、嫌がらせなどが行われることで就業環境が害される行為が挙げられます。ハラスメントの対象となるのは主に妊娠した女性労働者であり、行為者となりえるのは上司とされています。
その他のハラスメント
厚生労働省によって特に注意されている「職場におけるハラスメント」の他に、職場において受ける可能性が高いハラスメントについて紹介します。
カスタマーハラスメント
カスタマーハラスメントとは、顧客等からのクレームのうち、商品やサービスへの正当なクレームではなく、不当・悪質である言いがかりなどが挙げられます。
また、顧客の商品やサービスに対するクレームのうち妥当性のある要求であっても、その実現のための手段や態様の悪質性が高い際には、社会通念上不相当であるとされる場合があり、カスタマーハラスメントとなる場合があります。
また、最近になり「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正されたことにより、カスタマーハラスメントを原因とした精神障害が新たに労災認定基準へと加えられました。よって、厚生労働省ではカスタマーハラスメントへの対策も大変重要であるとし、対策企業マニュアルを作成しています。
詳しくはこちら:厚生労働省|カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
カスハラの具体例
- 企業の提供する商品・サービスに過失などが認められない場合
- 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合
また、厚生労働省のマニュアル内では、各企業へのヒアリングを通して、実際に企業が受けたカスタマーハラスメントに類する行為として確認された内容を以下の表にまとめられています。
引用元:厚生労働省|カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
モラルハラスメント
モラルハラスメントととは、パワーハラスメントと類似していますが、立場や優位性とは関係なく、また暴力を含まないハラスメントです。
定義としては、「倫理や道徳に反した言動」によって相手に対して精神的なダメージを与える行為とされています。
モラハラの具体例
- 相手に対して無視を行う
- 相手を仲間外れにする
- 相手に対する誹謗中傷
ハラスメント防止対策
職場におけるハラスメント防止のための関係者責務
2019年の法改正により、職場におけるパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントといった3大ハラスメントを防止するために、事業主や労働者に対して、責務規定が定められました。
【事業主の責務】
1) 職場におけるハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるハラスメントに起因 する問題に対する自社の労働者の関心と理解を深めること
2) 自社の労働者が他の労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うよう、研修その他の必要 な配慮をすること
3) 事業主自身(法人の場合はその役員)が、ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、 労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うこと
【労働者の責務】
1) ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、他の労働者(※)に対する言動に必要な注意 を払うこと
2) 事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること
※ 取引先等の他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれます。
引用元:厚生労働省_パンフレット「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」
Ⅳ 職場におけるパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止のための関係者の責務 より
責務であるだけではなく、職場における3大ハラスメントをはじめとする様々なハラスメントは、労働者にとって労働の妨げとなります。また、ハラスメントを放置することで職場内の秩序の乱れや、業務への支障が起こり、最終的には企業の社会的評価や貴重な人材の損失にもつながる恐れがあります。
そのため、ハラスメントに対し真摯に向き合うことで、働く人同士が互いに尊重できる職場を目指すことが重要です。
1.事業主の方針の明確化及び周知と啓発
厚生労働省が定める事業主が雇用管理上講ずべき措置として、まず1つ目に方針の明確化と周知・啓発が挙げられています。
具体的に行う作業
- 3大ハラスメントそれぞれの内容とそれらを行ってはならないという方針を明確に文章などにし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発を行う
- 3大ハラスメントを行った行為者に対して厳正に対処するという方針及び対処内容を就業規則などの文章で規定し、同様に周知・啓発を行う
このように、まずはハラスメントの説明とそれらを防止するために、労働者に周知・啓発することが重要です。
2.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制整備
2つ目に、ハラスメントが起こった際に対応するための耐性を整備することが必要であるとされています。
具体的に行う作業
- 相談窓口などをあらかじめ用意し、労働者に周知をしておく
- ハラスメントが生じている場合だけでなく、その発生の恐れがある場合や該当するかわからない場合にも広く相談できるような体制を整える
取り組み例
- 相談に対応する制度を設ける。
- 外部機関に相談窓口を委託する。
3.職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
3つ目に、ハラスメントが起こった際、これに対する迅速かつ適切な対応を行う必要があるとされています。
具体的に行う作業
- ハラスメントを行った行為者、行われた被害者に対し事実関係を正確に確認する
- ハラスメントが事実であった場合には、速やかに被害者に対して配慮のある措置を行う事
- 行為者に対する措置を正確に行う事
- 再発防止策を講ずる
事実確認の際には、人事部門又は専門の委員会等が相談者及び行為者の双方から事実を確認する必要があり、このうち、セクシュアルハラスメントの場合には、必要に応じて、他の事業主に事実関係の確認 に協力を求めることも必要となります。
相談者と行為者の間で主張に不一致があり、事実の確認が十分にできない場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずる必要があります。
4.併せて講ずべき措置
4つ目に、併せて講ずべき措置として複数の措置が挙げられています。
具体的に行う作業
- ハラスメントが起こった場合には、相談者及び行為者のプライバシーを保護するための措置を講じる
- 事業主への相談内容や、事実確認に協力したことを起因として、解雇などの不利益な扱いをされないことを定め、労働者に周知する
取り組み例
相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な事項をあらかじめマ ニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、そのマニュアルに 基づき対応する。
更に詳しくはこちら:厚生労働省_「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」
ハラスメントの予防と適切な処置のために
職場における3大ハラスメントやカスハラ、モラハラは企業にとって職場の秩序を守るために重要な課題です。特に、3大ハラスメントとカスハラについてはそれらに防止措置を講じることは、経営者の責務でもあります。
そのため、厚生労働省が提示する防止措置として望ましい取り組みを行うことは、必然となりますが、ハラスメント対策は制度を作るだけでは未完成とも言われています。
更に、有効な対策は会社ごとで異なるため、より会社の実情を踏まえた対策を行う必要があります。
よって、ハラスメント対策を行うには自社の実情について正確な情報を知ることが必要となります。
そこで、組織サーベイや従業員サーベイを用いる事で従業員一人一人を管理し、そこから正確な情報を知ることができます。
特にラフールサーベイでは、組織改善及びハラスメント対策で重要な、従業員一人一人のストレス、メンタル不調、離職リスク、人間関係及び仕事への満足度まで知ることができます。更に、独自のサーベイの仕組みと解答画面を応用しているため、ただのストレスチェックだけではなく健康や意識改善のために、従業員がアクションを変えられる仕組みをサーベイの中に含んでいます。
ラフールサーベイを用いることで、まずは大切な従業員のメンタル状態を知ることができ、これは各会社のさまざまな実情に対してもハラスメント対策として有効な手段となります。
もし現在、具体的なハラスメント予防が行えていない現状があるならば、是非、一度ラフールサーベイをご検討ください。