企業が離職率を下げるにはどうすればよいでしょうか。
従業員が離職する原因はさまざまです。そこで、離職のきっかけとなる要素をなくすための施策が求められます。本記事では、想定される離職の原因と防止に有効な取り組みをご紹介いたします。さらに、辞める可能性の高い従業員の特徴なども紹介しているので、離職防止の策を打つ際の指標としてご活用ください。
離職防止とは
離職防止とは、言葉の通り従業員の離職を防ぐための施策です。「リテンション」「リテンションマネジメント」とも言われ、特に近年、企業活動において強く重視されるようになってきました。
ではなぜ今、離職防止が重視されているのでしょうか?
離職防止が重視されている理由
離職防止が重視されるようになった主な理由は、以下の通りです。
- 人口減少、少子高齢化などにより人材確保が難しくなっている
- 転職が珍しくなくなった
人口減少や少子高齢化が進めば、人材不足の加速が予想されます。さらに、転職する人が増えたことで、新卒3年以内の離職も増えています。そのため、優秀な人材を巡る企業間の競争が年々激化しています。企業の動きとしては、新しい人材を確保すると共に、今いる従業員の定着率を高めていくことが非常に重要となるでしょう。
離職にはさまざまな原因があるため、自社の従業員が抱える悩みに合わせた適切な取り組みを行うことが求められます。離職防止に取り組むことで、企業にとっての貴重な戦力を逃さないことに繋がります。
離職を防止しない場合に発生するリスク
離職者が多くなると、企業の発展を妨げるようになると考えられます。また、同時に従業員に対する負の影響も免れません。想定される具体的なリスクは以下の通りです。
優秀な人材の流出
業務が滞る、会社の業績アップが難しくなるといったリスクが懸念されます。
スキルが高く、知識も経験も豊富な人材を必要とする企業は多いでしょう。優秀な人材が他社で働くことになれば、その人物が持つスキルやアイデアなども他社に流出することになり、自社にとって大きな痛手となる可能性があります。 また、離職した人材の採用・育成にかけたコストも無駄になってしまいます。
既存社員への負担増
従業員が会社を辞めた場合、残された従業員が辞めた従業員の仕事を補わなければなりません。新たな人材を確保できたとしても、新しい従業員が仕事に慣れるまで教えながら業務を行うことになります。
その結果、業務が増えた、自分の仕事が思うように進まないなどの理由で、ストレスを感じる従業員が出てくるかもしれません。この不満・ストレスなどが原因で、残された従業員まで辞めてしまう可能性が懸念されます。
従業員が立て続けに辞めると、残った従業員のモチベーションが下がる可能性があります。従業員のモチベーション低下は、生産性やパフォーマンスの低下につながるのです。
企業イメージの低下
労働条件や職場の環境が良くない、従業員がやりがいを感じる仕事に携われていないなどの理由から、より働きやすい会社を求めて転職する人がいます。
離職率や職場環境は、転職サイトなどでチェックすることができます。故に、離職率が高ければ、その企業は問題を抱えており、その問題に対処できていない状況であるという印象を与えてしまうのです。
マイナスイメージのある会社への応募は避けられやすく、人材確保が難しくなります。従業員を大切にできない会社の商品・サービスは使いたくないという消費者も多く、業績への影響も懸念されます。
従業員が離職する原因
離職にはいくつもの原因が考えられますが、本記事では代表的な4つの原因を紹介します。
給与水準
給与が低い、ボーナスが少ないなどは、離職に多い理由の一つです。なぜなら、手取りの少なさは、生活の不安に直結するからです。仕事にやりがいを感じていても、収入の少なさを理由に離職を考える人も数多く存在します。
労働時間
残業や休日出勤が多い等は、従業員が離職を考えるきっかけになります。
長時間労働によって休む時間や余裕が減った場合、従業員の心身に悪影響を及ぼすリスクが高まります。この状況が悪化すれば、心身の不調による退職も考えられます。
国は働き方改革により、労働基準法を超過した時間外労働時間に罰則付きの上限を設けるなど、長時間労働への対策を実施しています。法改正をきっかけに、働き方を見直している企業は多いのではないでしょうか。しかし、働き方の見直しに十分な効果が出なければ「改善が見込めない」という理由で、離職してしまう人もでてきてしまいます。
人間関係
人間関係の問題も、離職に多い理由です。
転職口コミサイト「転職理由」によると、平均年収に該当する方も高年収に該当する方も、転職理由で最も多いのは人間関係とのこと。特に、上司との関係がきっかけになる人が多そうです。
「ノルマ・パワハラ」「上司からの評価」に悩む方が多いですが、同僚やお客様との関係に悩む方も少なくありません。
人間関係への悩みは、給与の改定等よりは対処しやすいのではないでしょうか。対策しやすいにも関わらず、企業が何も対処しなかった場合、従業員の不信感は募り離職に繋がってしまうでしょう。
会社の将来への不安
今の会社にいても自分のやりたい仕事ができない、キャリアアップを望めないなどと感じることも、離職のきっかけになります。
転職が珍しくなくなってきているとは言え、生活面の心配をせずに働けることは、多くの方が望む姿です。故に、業績が上がらないなど経営に不安を感じるような会社だと、より自分のスキルを活かせて、会社の発展と自身の成長を見込めるような企業に転職したいと思われるかもしれません。
離職の可能性がある従業員の特徴
業務へのモチベーションが下がっている
業務を楽しいと感じたりやりがいを感じたりできず、仕事のパフォーマンスが落ちている状態です。
ミスが増えた、生産性が低下している、新しい企画の提案といった仕事への積極性がなくなったなどが見られるようになります。
社内でのコミュニケーションが希薄化している
たとえば、MTGで意見することや雑談が減ったなどは、社内の人たちとの関係性の重要度が低くなっているかもしれません。
ただし、いつも辛そうにしている、元気がなくなったなどは、心身に不調をきたしている可能性もあります。心身の不調が疑われる場合、カウンセリングや医療機関の受診などの対処が求められます。
仕事を切り上げるタイミングが早くなっている
離職したい理由に関係なく、転職活動を行っている人は、残業を避ける傾向にあります。
定時退社が増えたなどの他、きちんとした服装が増えた、新しいプロジェクトに入りたがらないなども、転職を考える人に見られる特徴です。
離職防止に有効な対策アイデア一覧
離職防止は、離職を考えるきっかけを解消できるものである必要があります。今回は8つの対策をご紹介するので、ぜひ会社の課題に合うものを取り入れてみてください。
退職者の声を聞く
自社の問題を知りたい場合、退職する人の声が参考になります。
問題を正確に捉えるには、本音が必要です。そこで、ヒアリングは退職手続きが終わった後に行いましょう。手続き前だと「引き留められるのでは?」と思われ、本当の退職理由を教えてもらえないかもしれないからです。
理由が分かったら、対策に活かしましょう。たとえば「人間関係が良くないと感じるから」という理由の場合、社内コミュニケーションの問題が疑われます。雑談用のSNSやコミュニケーションツールの導入、他部署とも交流できるランチタイムの実施などで改善できるかもしれません。
長時間労働の削減
無駄な残業が発生しないようにすることが大切です。たとえば、勤怠管理システムで労働時間を意識させる、メールのフォーマットの作成といった効率化できる仕組みをつくるなどに取り組むとよいでしょう。
労働基準法の改正で、1日8時間・週40時間を超えて働ける時間に上限が定められました。上限を超えると罰則が科されるので、残業を減らす意識・取り組みがいっそう重要になります。
評価制度の確立や給与水準の見直し
会社からの評価に納得できないと、会社に愛着を持てず、ずっと働きたいと思えません。故に、高く評価してくれる企業が見つかれば、転職する可能性が高まります。
評価が低いと感じる理由として、給与が低いことが挙げられます。給与の不満は、モチベーションを下げる原因です。不満を持たれないためには、何を評価しているか、給与はどのように決まるかを従業員に共有することが大切です。評価基準が分かれば、数値に基づいているので納得されやすいでしょう。
評価基準があいまいなら、仕組みづくりをおすすめします。たとえば、評価項目が分かりやすく、評価が給与と連動する人事評価ツールを導入するなどです。
給与をすぐに上げるのは難しいかもしれません。しかし、どこを評価されて昇給やボーナスに反映されるか分かるだけでも、従業員のモチベーションアップを期待できます。
個人の成績、業績アップまでの過程、同僚や部下との協力の姿勢なども評価しているかチェックしながら、基準や評価方法を見直してみましょう。
柔軟に働くことのできる環境の整備
多様な働き方が可能だと、どの従業員にとっても働きやすい環境をつくれます。たとえば、テレワーク、時短勤務、フレックスタイム制などに対応していると、育児や介護をしながらでも仕事を続けやすくなります。
テレワークは、通勤が不要になります。時短勤務やフレックスタイムは、仕事以外に使える時間を増やせます。
通勤などに充てていた時間をスキルアップの時間に使えるようになり、従業員のパフォーマンスが上がることを期待できます。
優秀な人材の離職を防げるのは、企業にも大きなメリットです。通勤などに充てていた時間をスキルアップの時間に使えるようになり、従業員のパフォーマンスが上がることを期待できます。 働く環境の改善により優秀な人材の離職を防げることができれば、企業にとっても大きなメリットが生まれます。
福利厚生の充実
福利厚生には、社員食堂、レジャー施設の割引、資格取得のためのテキスト代や受講料の補助など、さまざまなものがあります。
よって、従業員が求めているものを取り入れることがポイントです。たとえば、身体の不調に悩む従業員が多いなら、オフィス内にマッサージチェアやバランスの良い食事をとれる社員食堂を導入する、スポーツジムやリラクゼーションサロンの優待を利用できるようにするなどが良いでしょう。
管理職や経営層のマネジメント力向上
上司との関係に悩む方が多いというのは、上司に問題があるケースも少なくありません。そこで、マネジメント層がマネジメントに必要なスキルを高めれば、会社のビジョンを理解し、部下と共有した上で人材を育成できるようになると考えられます。
部下の立場としては、会社の方向性・自分が任されている仕事の意味が分かり、モチベーションアップにつながるでしょう。
メンバー一人ひとりが活躍できるチームづくりに必要なスキルを学べる「チームマネジメント研修」などを活用してみてください。マネジメント層を対象とした研修なら、部下との適切な接し方も学べて、ハラスメントの防止も期待できます。
研修制度の整備
「今の会社では成長できないだろう」という理由での離職を減らすのにおすすめです。
従業員のモチベーションが上がり、階層ごとの課題を解決できるものを導入しましょう。
スキルアップ・キャリアアップのために身につけたいスキルは、階層で異なります。たとえば、新入社員や若手従業員なら、コミュニケーションスキルを高めたり、自分の得意・不得意を認識してPDCAを効率的に回せるのに必要なスキルを身につけられる研修のニーズがあるでしょう。
入社から5年ほど経てば、リーダーに興味を持ったり素質のある従業員も出てくるので、リーダー育成を目的とした研修もおすすめです。
コミュニケーションの促進
コミュニケーションの促進も、離職防止のために欠かすことのできない手法です。
上記の通り離職の原因として、人間関係の問題がありました。働く場においてコミュニケーションが促進されれば、一人一人の周囲の人々に対する理解が深まり、組織全体で良好な関係を構築することに繋がります。また、それぞれが抱えている不安や業務に関する相談なども周囲の人々に投げかけやすくなります。
具体的な施策としては、食事会や社内イベントなど交流の場の提供、面談やメンター制度などの相談しやすい環境づくり、社内SNSなどオンライン上の交流機会の提供など、社員間で話しやすい雰囲気づくりを行うと良いでしょう。
離職防止に役立つツール
上記の対策アイデアに加えて、さらに効果が高いと考えられる施策が離職防止ツールの活用です。
離職防止ツールとは、従業員へのアンケート結果を踏まえ、モチベーションアップや会社への満足度が高まる取り組みをして、定着率を高めることを目指すツールです。従業員のモチベーションや満足度の測定、ストレスチェックなどができます。
ラフールサーベイ
ラフールサーベイは、18万人以上のデータを基に、専門家の知見を取り入れたオリジナルの調査項目もあるので、1つのツールで従業員について多角的な分析が可能です。
結果のフィードバックが自動で表示され、対策サービスも用意されているので、対策を考えてから実行するまでの負担が軽減されます。
離職率を下げるため、従業員の理解を深めることと、離職防止に効果的な対策の立案・実施をサポートします。
離職防止施策の成功事例
サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社は、グループウェアや業務改善サービスを軸とする企業です。
事業は成長し続けていたものの、2005年のサイボウズの離職率は28%でした。しかし、現在は大幅な離職率の低下を達成し、その数値は3〜5%にまで引き下げられています。
サイボウズは、働き方の選択肢を増やしたことでこれを実現しました。その際の具体的な施策としては、柔軟な勤務時間・方法の提供、育児との両立制度、勉強会や部活動のための資金提供といった「制度」の導入と、コラボレーションツールや場所を選ばない情報アクセスといった「ITツール」の導入が挙げられます。これらの施策の結果、一人一人が働きやすい環境を追求することができるようになり、さらに業務の効率化にも繋がりました。
株式会社レオパレス21
株式会社レオパレス21は、建物の建築や管理、施設の運営などを行う企業です。
不動産業界は新卒大卒者の平均離職率が15%と高い傾向にあります。その中で、レオパレス21は2010年頃に業界水準を超える離職率でしたが、その数値は現在9%にまで改善されています。
具体的には、研修やヒアリングの充実、柔軟な人事制度の導入、意識改革による時間外労働の減少と有給取得率の上昇などに取り組みました。ワークライフバランス推進室も設置され、テレワークの推進などが進められています。この結果、働きやすい環境づくりが全社的に行われました。業績に負の影響もなく、効率化を図る働き方が根付いたことで生産性も向上しています。
まとめ
離職に至る原因はいくつか考えられますが、企業にダメージがあることは共通します。会社が抱える問題を洗い出し、適切な対処で離職防止しましょう。
従業員の離職原因は、さまざまです。故に、きっかけとなることをなくす対策が求められます。本記事で、想定される離職の原因と防止に有効な取り組みが分かります。辞める可能性のある従業員のサインも紹介しているので、早めに手を打てるようになるでしょう。