ジョブ・クラフティングとは?目的、効果、方法、ポイントなどについて解説
「従業員の主体性を高めたい」「活気のある職場にしたい」と考えるなら、ジョブ・クラフティングがおすすめです。ジョブ・クラフティングの実践で、従業員がやりがいを感じながら働けるようになることが期待されます。
主体性が身につくように進めるには、上司や人事担当者が手順を把握し、いくつかのポイントに注意しながら取り組むことが必要です。
そこで、ジョブ・クラフティングの概要・注目されるようになった理由などと併せて、期待されること、効果的に進めるための方法や注意点を解説します。
ジョブ・クラフティングとは
やらされ感のある仕事や面白くないと感じる仕事を、従業員自身でやりがいのあるものに変えるテクニックが、ジョブ・クラフティング(Job Crafting)です。
上司や組織の指示の下での仕事の進め方は、効率アップを図れるというメリットはあります。しかし、効率優先の人員配置になりやすく、やりがいや目標を達成する喜びなどを感じにくいといった問題がありました。
自ら考え、新しい考え方・やり方である「ジョブ・クラフティング」を取り入れることで、仕事のやりがいに気づけるようになると考えられています。
ジョブ・クラフティングとジョブ・デザインの違い
ジョブ・クラフティングと似た言葉に「ジョブ・デザイン」があります。ジョブ・デザインについても知っておくと、ジョブ・クラフティングのポイントや注目される理由が見えてきます。
ジョブ・デザインは、組織の考える働きがいのある仕事が設定され、上司が従業員に業務を割り当てることです。仕事の設定や割り当てに、従業員の価値観や得意・不得意などは考慮されません。組織にとって働きがいのある仕事は、従業員にも働きがいのあるものと考えられるためです。従業員を受け身的な存在と見なすことも関係します。
ジョブ・クラフティングとジョブ・デザインの主な違いは以下の通りです。
ジョブ・クラフティング | ジョブ・デザイン |
個人主導 | 組織主導 |
個別的 | 画一的 |
ただし、ジョブ・クラフティングもジョブ・デザインも、仕事の意義・経験などが従業員の仕事への考え方ややりがいに影響するという認識は共通です。
なぜジョブ・クラフティングが注目されているのか
理由の一つに、仕事の複雑化により、トップダウン方式ではやりがいを感じにくくなったことが挙げられます。
従来の日本の企業であれば、企業から与えられた仕事をこなすことで評価されました。高く評価され、成果が積み上げられるおかげで、やりがいも感じられました。しかし、働き方の多様化やクライアント・消費者のニーズの変化などで、単純作業では対応が難しくなり、現場の臨機応変な対応が重要になっています。
トップダウン方式が希薄になったように、企業と従業員の関係に変化が起きたことも、ジョブ・クラフティングへの注目と関係します。終身雇用・年功序列が当たり前ではなくなり、組織から与えられた仕事をこなすだけではなく、自分で仕事の意味・目的を考え、主体的に進めることが重視されるようになりました。
仕事と向き合う中で、今の会社に居続けても理想のキャリアプランをかなえられないと気づく人も少なくありません。長く働き続けてもキャリアアップが保障されているわけではないこともあり、転職する人は増えました。
転職が活発になる、個人の特性が評価されるようになるなどで懸念されたのは、従業員同士のつながりです。しかし、主体性を大事にするジョブ・クラフティングなら、積極的に動ける従業員の増加で、生産性アップや新たなアイデアなどにつながる、刺激を与えあえるメンバーという新しい形の人間関係が期待されます。
他にも従業員の価値観の多様化が関係しています。利益だけを追求したり、組織の歯車のように働いたりするのに否定的な人が増え、やりたい仕事をしたい、つまり、やりがいが重視されるようになりました。一人ひとりが仕事にやりがいを見いだすジョブ・クラフティングは、変化した価値観との相性がよいです。
ジョブ・クラフティングの目的
ジョブ・クラフティングを提言したエイミー・レズネスキー氏とジェーン・E・ダットン氏は、3つの目的を掲げました。
- 業務への取り組み方を変えること
上司からの指示を待たずに、自分から考えて動けるようになることが大切です。たとえば、スキルアップ・キャリアアップに役立つセミナーに参加する、リモートワークや時短勤務しやすい仕組みをつくるなどです。
- 人間関係の意識・アプローチを変えること
個が大事にされても、誰とも関わらずに仕事はできません。同僚・取引先と積極的に関わるようにしましょう。受け身態勢だと、新しい商品・サービスを生み出したり、仕事にやりがいを感じたりするのは難しいです。
たとえば、コミュニケーションを大事にすると、お客様のニーズや同僚の仕事の向き合い方・価値観などが分かります。すると、新商品の開発や自分が仕事で楽しいと思うことの気づきにつながり、活き活きと働けるでしょう。さまざまな人と関わるほど多くの刺激が得られ、チームワークの大切さを再認識できるというメリットもあります。
- 仕事の意味・目的・役割などの再定義
自分なりの仕事の意味・目的などを見つけると、モチベーションアップのきっかけに気づけます。たとえば、営業・販売職でアップセールスに抵抗を感じるものの、お客様の相談に乗って役に立つアドバイスをするのは楽しく、自分の仕事だと考える方は、「お客様に喜んでもらえる仕事をしたい」といった思いがあるでしょう。
ジョブ・クラフティングで期待できる効果
やりやすい方法や楽しみながらできる方法を考え、実践するようになるので、パフォーマンスの向上が期待できます。やりがいを感じながら働けることに加え、自分から積極的に業務に関わり会社に貢献できていると感じることで、従業員満足度が高まり、定着率も上がるでしょう。
そして、仕事で大事にしたいことやモチベーションアップの要因が見え、従業員一人ひとりがキャリアを考えるよいきっかけにもなります。
ジョブ・クラフティングのアプローチ
「仕事の捉え方」「仕事の方法・内容」「人間関係」の3つの意識改革からジョブ・クラフティングが始まります。
仕事の捉え方
仕事をこなすだけでは、モチベーションは上がりにくいです。仕事に前向きに取り組めるようになるには、自分なりの仕事の意味を見つけることが大切です。
「必要としている人に欲しい商品・サービスを届けたい」「求職者に自社の良さを知ってもらい、マッチする人に入社してもらいたい」など、自身の仕事で助かる人のことまで考えると、「組織の目標を達成したい」という思いしかない場合よりポジティブに仕事を捉えられるでしょう。
業務の種類に関係なく、誰かが会社に関係する業務を担当しないと、組織運営は滞ります。たとえば、どれほど素晴らしい商品を作っても、販売してくれるよう小売店と調整したり消費者に接客したりする人がいなければ、利益は出ません。「社内のメンバーのモチベーションアップや幸せのために働きたい」というのも、立派な役目と言えます。
仕事の方法
仕事への考え方が変わったら、仕事の方法や内容についても考え、必要があれば変えていきましょう。
仕事をつまらないと感じるのは、長く同じやり方をしているからかもしれません。中には、見いだした仕事の意義に合わない作業もあるでしょう。そこで、業務の進め方や内容を振り返り、新しいツールを使った方法を取り入れたり、効率の下がる方法を止めたりすることをおすすめします。
新しいやり方にするだけで仕事を新鮮に感じ、面白さが見える可能性があります。自身に業務を変える権限がない従業員でも、上司に相談して誰もが働きやすい仕組みを提案して導入してもらう、業務量を調整してもらうなど、できる範囲で改善に向けて動けることはあります。
人間関係
人間関係に恵まれた仕事は、楽しい気持ちを強めるだけではなく、成長のきっかけとなる人に出会える可能性も高めます。
自分を評価したり、どのような仕事でも感謝してくれる人がいたりすれば、相手と気持ち良く接することができ、よい職場の雰囲気が保たれます。ポジティブに接してくれる人に対しては、役に立てる仕事をしたいと自然に思え、モチベーションも上がるでしょう。
積極的に誰かと関わることで、人脈が広がります。広い人脈のメリットは、専門性の高い知識やアドバイスを得たい時、詳しい人の意見を参考にできることです。専門家の知見は、スキルアップや新しい仕事を始める際に役立つでしょう。
ジョブ・クラフティングの方法
ジョブ・クラフティングは、以下の手順で行います。
- タスクの洗い出し
- 動機・情熱・強みの分析
- 仕事の捉え方を変える
- 仕事の方法の検討や人間関係の見直し
それぞれのポイントを段階ごとに解説します。
タスクの洗い出し
まず、仕事を業務内容別に分類します。社内の業務についても分析すると、どのような人・業務と自分の仕事がつながるか見えてきます。他の業務や従業員とのつながりの分析は、自分なりの仕事の意味・やりがいを考える際にも参考になります。
タスクの洗い出しで役立つのが、ダイヤグラムです。分類した業務をブロックで囲み、時間のかかるものは大きく、かからないものは小さく表すことで、時間をかけている業務が把握しやすくなります。
動機・情熱・強みを書き出す
次に、「動機」「情熱」「強み」の観点から自分自身を分析します。
動機は、仕事で大切にしたいことや自分のものにしたいことです。たとえば、「人脈」です。
情熱は、仕事のモチベーション。「人から感謝される仕事をしたい」「自社製品を普及させたい」などが当てはまります。
強みは、仕事に生かせるスキル・能力です。たとえば、「書類を分かりやすく作成できる」「プレゼンテーションが得意」「取捨選択しながら正しい情報をたくさん収集できる」など。上司や同僚やクライアントなどに強みを聞いてみると、自分では気づかなかった長所を知れます。
「仕事の捉え方」を変える
動機・情熱・強みを参考に、最初に洗い出した業務の見方を変えてみましょう。新たにダイヤグラムを作成すると、やりがいが見えやすいです。
たとえば、「自社製品を普及させたい」という情熱と「情報発信のためのブログ作成」という業務を関連づけると、なんとなく書いていたブログが、自社製品と会社自体の宣伝に貢献できると気づくでしょう。
「仕事の方法」「人間関係」を見直す
最後に、業務を効率的に、そして、楽しく取り組めるようになる改善点を考えます。たとえば、情報不足でブログ作成が大変と感じることがあるなら、詳しい人にインタビューして踏み込んだ情報まで集める時間を設けるなどです。
組織の目標達成に必要な業務ができていないことに気づいたら、最初のダイヤグラムで作成した業務のブロックの要領で、新たに取り組んだ方が良さそうな業務をブロックに追加するのもよいでしょう。
仕事は、多くの人が関わります。人間関係はやりがいに影響を及ぼす要因の一つであることも考えると、ジョブ・クラフティングで自分だけが満足して終わらないためには、他者との関係も見直す必要があります。
強みを分析してもらった時のように、仕事で関わる人からどのような影響を受けているか、自分は相手にメリットをもたらしているかなどを考えてみましょう。今後付き合いたい人もいれば、どのように知り合うか、関係性を深めるかなども検討してみてください。
変えてきた仕事の捉え方・方法で、上司・同僚・クライアントなどの反応や意見からさらに改善できそうなことがあれば積極的に取り入れましょう。
ジョブ・クラフティングのポイント
2つのポイントを念頭に置いて実践しましょう。
第一に、すぐに実行できる小さなことから変えることです。仕事の向き合い方をいきなり大きく変えるのは、簡単ではありません。しかし、小さな変化であれば、積み重ねで新たな気づきにつながるでしょう。
たとえば、気になっていたセミナーに参加する、書類作成に充てる時間帯やフォーマットを変えてみるなどです。
第二に、慣習や前例にとらわれ過ぎないことです。慣れた方法を変えるのは、不安なこともあるでしょう。しかし、スムーズに進みそう、楽しくできそうといったやり方を思いついたら、まずは試してみることが大切です。
ジョブ・クラフティングの注意点
- 主体性を尊重する
- 仕事の属人化を進めない
- 上司自ら実践する
上記3つは、特に意識してほしいことです。
主体性を尊重する
ジョブ・クラフティングは、主体的に何かを変えたり自分からやりがいを発見したりするものです。「業務のやり方を変えなさい」「やりがいを見つけなさい」と言われて動いたり考えたりするのは、ジョブ・クラフティングで推奨される姿と異なります。
また、従業員の工夫やアイデアをすぐに否定するのは、士気を下げかねません。従業員の主体性を伸ばしながらモチベーションもアップできるよう、従業員の挑戦は評価しましょう。
ただし、やりがいを感じているからと、従業員が納得していない内容や条件の業務を割り当てる、いわゆる「やりがい搾取」にならないよう、注意が必要です。
仕事の属人化を進めない
従業員の自主性に任せると、ある仕事が特定の人にしかできなくなることが懸念されます。専門性の高い人材を育成できるという見方もできますが、仕事が属人化されると、できる人が休んだり会社を辞めたりした時に仕事を処理できず、組織全体の生産性や売り上げに影響します。
上司自ら実践する
仕事のやり方は、変わる度に必ず共有してください。できる人が限られる仕事でも、組織の業務進行が滞らない程度に目的・やり方・ポイント・などは共有しておくとよいでしょう。
自分の考えを通そうと、同僚への配慮に欠ける従業員が出てくる可能性もあります。すべての従業員が主体性を発揮でき、良好な関係性を維持するには、フィードバックやアドバイスできる上司が必要です。
上司が活き活き働いていないと、部下はジョブ・クラフティングの効果を感じにくいです。まずは上司がジョブ・クラフティングの目的や進め方を理解し、実践してみましょう。積極的にアイデアを出したり改革を進めたりしながら、エネルギッシュに働く上司の姿に感化され、部下もジョブ・クラフティングに前向きに取り組めるようになることが期待されます。
まとめ
ジョブ・クラフティングは、自ら行動・思考し、やりがいを感じながら働けるようになるためのものです。やりやすい方法を取り入れたり、モチベーション・強みなどを考えたりすることで、パフォーマンスの向上やキャリアを考えるきっかけになるなど、従業員にもメリットがあります。
業務や人間関係を分析することから始めると、従業員は業務の改善点や仕事の新しい捉え方が見えやすくなります。いくつかのポイントも押さえながら、従業員が活き活きと働ける環境づくりに役立てましょう。