パワーハラスメント(パワハラ)対策が事業主の義務となったことを知っていますか?この記事では、通称ハラスメント防止法やパワハラ防止法と呼ばれる法律の内容を詳しく解説するほか、パワハラに当たる言動や具体的な防止方法を紹介します。
ハラスメント(パワハラ)防止法とは?
ハラスメント(パワハラ)防止法とは、一体どのような法律でしょうか?ここでは、まずハラスメント防止法の内容について、対象者や職場の基準などを詳しく解説します。
正式名称は「労働施策総合推進法」
ハラスメント(パワハラ)防止法の正式名称は「労働施策総合推進法」といいます。2019年6月に公布されました。ハラスメント防止法では、パワハラの基準を法律によって定めることで、企業側に相談窓口の設置や再発防止策などを求めています。2020年6月の施行時点では、違反による罰則は設けられていませんが、適切な対処が行われていなかった場合には、企業名が公表されるようです。
対象者は正規雇用者のみではなく、全労働者と定められています。パートタイマーや契約社員も含め、企業が雇用する労働者は全員対象です。派遣労働者に関しては、雇用されている企業だけではなく、派遣労働者を受け入れている企業においても、適切な対応が求められています。
また、ハラスメント防止法では「職場」で行われる言動が対象となりますが、この場合の「職場」とは、企業が雇用する労働者が業務を遂行する場所のことです。つまり、出張先や取引先との打ち合わせの場所、状況によっては業務時間外の飲み会なども「職場」に含まれます。
施行日は大企業と中小企業で異なる
ハラスメント防止法の施行日は、大企業と中小企業で異なっています。企業規模の基準は、資本金や従業員数などが業種ごとに定められています。大企業は、2020年6月1日より施行されています。中小企業は、2022年3月31日までを努力義務期間とし、2022年4月1日からの施行です。
2022年4月から義務化対象となる中小企業の定義
中小企業庁は、中小企業を業種別に以下のように定義しています。下記いずれかに該当すれば、中小企業と見なされます。
製造業その他 | 資本金額または出資総額3億円以下常時使用する従業員の数が300人以下 |
卸売業 | 資本金額または出資総額1億円以下常時使用する従業員が100人以下 |
小売業 | 資本金額または出資総額5,000万円以下常時使用する従業員が50人以下 |
サービス業 | 資本金額または出資総額5,000万円以下常時使用する従業員が100人以下 |
これもあてはまる!?パワハラにあたる主な言動
パワーハラスメントの対策が義務付けられたことを理解しても、パワハラの基準が分かっていなければ意味がありません。そもそもパワハラとはどのような言動を指すのでしょうか?ここでは、厚生労働省が定めているパワハラの条件と代表的な類型について解説します。
厚生労働省が定めているパワハラの3条件
厚生労働省は、パワハラの定義を3つの条件で示しています。以下の3つの条件を全て満たす行為はパワハラです。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
「優越的な関係を背景とした言動」とは、
リーダー格の社員から若手社員への言動といった職務上の地位が上の社員からの発言や行動のことです。また、同僚や部下からの言動であっても、その社員が業務上必要な知識や経験を有している場合や、同僚や部下からの集団的な行為で、抵抗や拒絶することができない場合は優越的な関係を背景とした言動となります。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、
社会通念上、明らかに業務上の必要がない行為や業務の目的を逸脱した行為、業務遂行の手段として不適切な行為のことを指します。たとえ相手が問題行為をしていたとしても、叱責だけでなく人格を否定するような言動をすれば、その行為はパワハラです。教育や指導の名目であっても、社会通念上、許容される範囲を超えていれば、パワハラと認められる可能性があります。
また、「労働者の就業環境が害されるもの」とは、
労働者が受けた言動によって身体的、精神的に苦痛を与えられ、能力の発揮に悪影響が出るなどの支障が生じることです。パワハラであるか否かの判断基準は、社会一般の労働者が同様の状況でその言動を受けた場合に、就業する上で看過できないほどの支障が生じると感じるかどうかで左右されます。
代表的な類型は6つある
パワハラの3つの条件に加え、厚生労働省は代表的な言動の類型6つを紹介しています。ただし、これらの例に当てはまるものが全てパワーハラスメントに該当するわけではありません。個別の事案状況によっては判断が異なることもあるので注意が必要です。
身体的な攻撃
1つ目の類型は、身体的な攻撃です。いわゆる暴行や障害のことを指します。具体的な行動例は以下の通りです。
- 殴打や足蹴り
- 物で頭を叩く
- 相手に物を投げつける
精神的な攻撃
2つ目は、精神的な攻撃です。脅迫や名誉毀損、侮辱、暴言などがこれに当たります。
- 人格を否定するような言動を行う
- 必要以上に長時間にわたる激しい叱責を行う
- 他の従業員の前で罵倒する
- 能力を否定したり、罵倒するような内容の電子メールを複数の労働者宛に送信する
上記のような例は、全て精神的な攻撃とされます。
人間関係からの切り離し
3つ目の類型は、人間関係からの切り離しです。人間関係からの切り離しとは、自分の意に沿わない労働者の隔離や仲間外し、無視などの言動を指します。具体例は以下の通りです。
- 長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修をさせる
- 1人の労働者に対して集団で無視をする
過大な要求
過大な要求が4つ目の類型です。過大な要求とは、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制することを指します。
- 肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で勤務に直接関係ない作業を命じる
- 新卒採用者に必要な教育を行わないまま、到底対応できないレベルの業績目標を課す
- 業務とは関係のない私的な雑用の処理を行わせる
これらの行動は、過大な要求に当たる可能性があります。
過小な要求
5つ目の類型は、過小な要求です。これは業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないことを指します。具体的な行動例は、以下の通りです。
- 退職させたいなどの理由から管理職である労働者に誰でも遂行可能な業務を行わせる
- 気に入らない労働者に対して仕事を与えない
個の侵害
個の侵害が6つ目の類型です。個の侵害とは、プライベートに過度に立ち入ることを指します。
- 職場外でも継続的に監視をする
- 私物の写真撮影をする
- 労働者の個人情報を承諾を得ずに他の労働者に暴露する
以上のように、プライベートまで干渉するような行動が個の侵害に当たります。
ハラスメント防止法で定められている4つの義務
ハラスメント防止法では、企業側に4つの義務を課しています。その4つの義務について、詳しく解説します。
1. 企業の方針等の明確化とその周知・啓発
1つ目の義務は、企業の方針等の明確化とその周知・啓発です。企業はパワハラを防止するために、どのような方針をとるのかを明確にし、労働者に周知・啓発しなければなりません。労働者に周知させるための具体的な方法は以下の通りです。方針だけでなく、パワハラの具体例や気をつけるべき状況などを取り入れて説明することで、より深く理解してもらえるでしょう。
- 社内報や社内ホームページなどにパワハラの禁止を明記するほか、実例などを交えて紹介する
- 社内方針やパワハラの原因や背景を理解させる研修や講習を行う
2. 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応する必要な体制整備
2つ目の義務は、相談に応じ、適切に対応する必要な体制を整備することです。労働者から相談があった場合に適切に対処できる体制を整えましょう。具体的には、相談窓口を設けたり、相談が来たときの対応手順を決めたりすることです。対応手順として、対応を弁護士などに委託する準備もしておいた方がよいでしょう。相談が寄せられたらスムーズに対応できるよう、相談窓口の担当者への研修を行うほか、その他の部署や機関との連携方法をあらかじめ細かく決めておく必要があります。
3. 事後の迅速かつ適切な対応
3つ目の義務は、事後の迅速かつ適切な対応です。これは実際にパワハラについて相談があった際の行動を示しています。具体的な対応方法は以下の通りです。
- 事実関係を正確に把握する
- 事実が確認できた場合には、パワハラ被害者に対して休暇や補償などの配慮措置をとる
- 事実が確認できた場合には、加害者に対して注意や配置転換、懲戒処分などの措置をとる
- 再発防止のため、改めて方針の周知・啓発を行う
4. 併せて講ずべき措置
上記3つの措置と併せて行う措置が4つ目の義務です。相談することに抵抗を感じ、事実を隠してしまうことを防ぐための措置のことを指します。具体的には、相談者や、行為者、目撃者のプライバシーを保護することや、相談したことによって不利益な扱いを受けることを防ぐための周知や啓発を指します。
社内でハラスメントを防止する方法
では、パワハラを防止するために、企業が行うべき対策はあるのでしょうか?ここでは、社内でハラスメントを防止する方法を2つ紹介します。
企業の姿勢を社員にはっきりと示す
社内でハラスメントを防止する方法の一つ目は、企業の姿勢として「パワハラを許さない」ということをはっきりと社員に示すことです。しっかりとした意思表示をすることで、パワハラをしてはならないという共通意識を芽生えさせることができます。企業のトップが朝礼や社内報などで意思表明をする機会を設けたり、定期的に社内研修などを行い、企業の姿勢を示しましょう。企業のトップが行う意思表明は簡易的なもので構いませんが、それをフォローする形で、研修ではパワハラの定義や具体的な措置について詳しく解説するのがおすすめです。
社内アンケートを実施する
パワハラの防止策として、社内アンケートの実施もおすすめの方法です。従業員にアンケートを行うことで、職場環境の実態が分かるほか、パワハラに対する従業員の意識を知ることができます。現状が把握できることで、企業がどのような施策を行っていくべきなのかを見つけることも可能です。社内アンケートを行うときには、必ず匿名で実施しましょう。プライバシーの保護に配慮できるほか、従業員の本音を引き出すことができます。
定期的な注意喚起を行う
ハラスメントと見なされる言動を全従業員が知っていると、ハラスメントは起こりにくくなります。就業規則・社内報などで具体例を挙げながら、分かりやすく伝えましょう。
詳しく説明しても、つい忘れてしまうことはあり得るので、定期的にハラスメントについての浸透を図りましょう。たとえば、朝礼やミーティングでの伝達、ハラスメントに関する研修の実施などです。
パワハラにいち早く気付くのに役立つ社内アンケートは、従業員にパワハラ防止の意識が身に付いているか確かめる際にも活用できます。
相談窓口の存在を全職員に周知徹底させる
相談窓口を設置しても、被害者がどこへ相談すれば良いか分からないと、解決に時間がかかります。設置したら、社内通達などで連絡先を共有しましょう。社内の人に相談するのに躊躇する方がいるかもしれないので、社外の機関との連携もおすすめです。
適切な対応ができるための担当者向けの研修の受講、迅速な対応につながるマニュアルの用意、相談内容に応じた部署との連携(たとえば、加害者の処分を決めるなら人事部と実態を共有する)なども、いつでも相談できてすぐに対処してもらえると従業員に思ってもらうポイントです。
パワハラ対策成功事例
他社はどのように対策し、対策でどのような効果が得られたのかは、自社でも参考になります。今回は2つの事例を取り上げます。
パワハラになりそうな言動はその場で注意
ハラスメントが原因のトラブルが発生し、組織に悪影響を及ぼさないために対策に取り組むようになった企業の事例です。
就業規則にパワハラの禁止をはっきり明記する、外部の講師によるパワハラ防止研修などに取り組みました。パワハラになりそうな言動をなくすには、繰り返し研修を行い、定着させることがポイントとの考えから、研修は複数回実施されました。
研修などに加え、上層部が現場で従業員の言動をチェックするのも、紹介している企業の特徴です。パワハラにつながる可能性のある言動をその場で注意することで、自らの言動の不適切な点を認識でき、他の従業員に指導する時の伝え方を改めるようになりました。
さまざまな取り組みを根気よく続けた結果、パワハラの訴えはなくなったとのことです。
パワハラをなくすには、何がパワハラに当たるのか明確に伝えることと、繰り返しの研修や指導が大切と言えそうです。
パワハラ対策の具体例
さまざまな雇用形態の人が働く製造業の企業の事例です。
多様な人が働いているので、従業員間のスキル・経験などに違いがあります。そこで、パフォーマンスの高い、経験豊富といった人が指導に当たります。しかし、従業員間のレベルを共有できず、つい厳しい口調で指導してしまうと、パワハラととられかねないと感じたとのことです。
どの従業員も派遣社員など外部の方と接する機会があることから、立場に関係なく、全ての正社員をパワハラ防止研修の対象にしました。相談窓口の担当者には、相談者を大事にしながらアドバイスできるコミュニケーションなどが学べる研修も受けてもらいます。
知識や技能などの差が、パワハラを生むかもしれないとも考えられます。指導を厳しいと感じたら、パワハラと思われる可能性があるためです。故に、人材育成は、人事の立場でできるパワハラ防止対策の一つと言えるでしょう。
パワハラ防止策というと、新しいことをしないといけないと思うかもしれません。しかし、人材育成のように従業員のスキルアップのサポート体制を整えることがパワハラ防止につながると考えると、柔軟に考えられるのではないでしょうか。
パワハラ防止対策に困ったときの相談先
パワハラ防止のための対策をとれば、絶対にトラブルが起きないとは限りません。場合によっては、社内での解決が難しいケースもあります。社内だけで対処が難しいパワハラに関する問題が発生したら、外部の専門家を頼ることをおすすめします。
社会保険労務士
パワハラの禁止を社内規則に明記してほしいといった、パワハラ防止策についての対応が得意です。顧問社労士がいない場合、全国社会保険労務士会連合会を検索してみてください。
労働委員会
社内だけでパワハラに関するトラブルの解決が難しい時に頼りましょう。都道府県別の労働委員会に相談すると、会社と従業員の間に入って、解決に向けて動いてくれます。
弁護士
パワハラで訴訟を起こされたなどの時は、弁護士の出番です。社内のパワハラに悩んでいて、社内の窓口を利用しにくい時に対処を知りたいなどの相談にも応じてくれます。
日本弁護士連合会のホームページで、労働問題に強い弁護士を探せます。
ハラスメント(パワハラ)の可視化に役立つツール ラフールサーベイ
「ラフールサーベイ」は、ハラスメント(パワハラ)の可視化に役立つツールです。社内外でのハラスメント(パワハラ)の状況を可視化することで、社員が安心して働ける環境づくりのお手伝いをします。
社員が安心して働ける環境づくりは、企業の成長・拡大のための土台となります。まずは、社員一人一人にとって居心地の良い職場を整え、人材の定着と組織改善に繋げましょう。
ラフールネス指数による可視化
組織と個人の”健康度合い”から算出した独自のラフールネス指数を用いて、これまで数値として表せなかった企業の”健康度合い”を可視化できます。また、他社比較や時系列比較が可能であるため、全体における企業の位置や変化を把握することも可能。独自の指数によって”健康度合い”を見える化することで、効率良く目指すべき姿を捉えることができるでしょう。
直感的に課題がわかる分析結果
分析結果はグラフや数値で確認できます。データは部署や男女別に表示できるため、細分化された項目とのクロス分析も可能。一目でリスクを把握できることから、課題を特定する手間も省けるでしょう。
課題解決の一助となる自動対策リコメンド
分析結果はグラフや数値だけでなく、対策案としてフィードバックコメントが表示されます。良い点や悪い点を抽出した対策コメントは、見えてきた課題を特定する手助けになるでしょう。
154項目の質問項目で多角的に調査
従業員が答える質問項目は全部で154項目。厚生労働省が推奨する57項目に加え、独自に約87項目のアンケートを盛り込んでいます。独自の項目は18万人以上のメンタルヘルスデータをベースに専門家の知見を取り入れているため、多角的な調査結果を生み出します。そのため従来のストレスチェックでは見つけられなかったリスクや課題の抽出に寄与します。
19の質問項目に絞り、組織の状態を定点チェック
スマートフォンで回答ができるアプリ版では、特に状態変容として現れやすい19の質問項目を抽出。質問に対しチャットスタンプ風に回答でき、従業員にとっても使いやすい仕組みです。こちらは月に1回の実施を推奨しており、組織の状態をこまめにチェックできます。
適切な対策案を分析レポート化
調査結果は細かに分析された上で適切な対策案を提示します。今ある課題だけでなく、この先考えられるリスクも可視化できるため、長期的な対策を立てることも可能。課題やリスクの特定から対策案まで一貫してサポートできるため、効率良く課題解決に近づくことができます。
部署/男女/職種/テレワーク別に良い点や課題点を一望化
集められたデータは以下の4つの観点別に分析が可能です。
- 部署
- 男女
- 職種
- テレワーク
対象を絞って分析することで、どこでどんな対策を打つべきか的確に判断できるでしょう。また直感的にわかりやすいデータにより一目で課題を確認でき、手間をかけずに対策を立てられます。
8. まとめ
パワーハラスメント防止法とは、正式には「労働施策総合促進法」と言い、パワハラの定義を定め、企業への義務を課した法律です。パワハラの条件や類型をしっかり把握し、義務を果たしていくことで、社内のパワハラを防止し、従業員が安心して働ける企業を作っていけます。