現代の日本はIT業界における人材不足が顕著であり、2030年にはIT人材が最大で80万人近く不足するという予測があります。そんななかで、教育現場ではプログラミングやデータ活用などITに関連する学習が必修となってきました。2029年はそのような人材が大学を卒業し、市場参入してくる年です。本稿では、これに起因する2029年問題についてその概要と企業に必要な対策について紹介いたします。
2029年問題とは
2029年問題は、複数の事柄が挙げられますが人事やビジネス関連に着目する場合には、「プログラミングやデータ活用」を高校で学習するようになった世代が大学を卒業する年であることから、新入社員と既存社員の間でデジタルリテラシーのギャップが生じる事やミスマッチが発生する恐れが2029年問題として指摘されています。
特に、デジタルリテラシーのギャップにより、新入社員によってはスキルを十分に生かしきれないことや、企業の旧来型システムに適応しづらいなどの問題も指摘されています。

IT人材の変化
先程挙げた通り、高校では2022年度から「プログラミングやデータ活用」を学習する「情報Ⅰ」が必修になっており、2025年の大学共通テストには「情報」が追加される予定であることが知られています。
また、文部科学省が推進するGIGAスクール構想により、今やPC 端末は鉛筆やノートと並ぶ必須アイテムであると考えられ、児童一人一人がPCを利用できる環境整備の実施や、学習用ソフトウェアや電子黒板などのICT機器を使ったICT教育が推進されているほか、プログラミング必修化など、教育現場は大きく変化しています。
特に、情報Ⅰではプログラミングの基礎知識や、ネットワーク、データベースの基本的な仕組みを学ぶことから、今後の若手人材はアルゴリズムの理解やプログラムの作成、データ解析などを当たり前に習得している可能性が挙げられます。
IT業界の需要増加と人材不足
このように、教育現場でのIT教育が活発になる一方で、現在のIT業界は深刻な人材不足が叫ばれています。近年急速にIT業界の需要が高まる一方で、人材不足はさらに深刻化することが懸念されていることから、小学校から高校にかけてIT教育が必修化されたことが考えられます。
2029年問題と新卒採用の変化
では、このようにITスキルの底上げが行われた人材が今後入ってくる中で、新卒採用はどのように変化するのでしょうか?
知識、スキルの変化
まず新卒採用においては、デジタルネイティブな世代はプログラミングスキルやWord、Excelスキルは一般的なものとして習得している事から、企業は学生のスキルの変化を知ったうえで、採用基準を引き上げや、これまで必要だった研修の必要性といった研修内容の再検討を行うことなど、新たな人材に合わせた採用観が必要となります。
キャリアやビジョンの変化
また現在のZ世代は、終身雇用や年功序列などを重視しておらず、個人のスキルアップやキャリアの多様性を重視する傾向がある世代のため、スキルアップ転職などに前向きです。また企業の雇用条件よりも、人間関係や組織としてのデジタルリテラシーが重視されることが考えられるため、デジタル化の推進が人材の獲得、固定化に必要であると考えられます。
2029年問題に際し、企業が直面する問題・対策

次に、2029年問題に当たり企業が直面する問題とその対策について紹介します。
企業の問題
まず、企業が直面する問題として挙げられるのは、デジタルリテラシーのギャップや従来システムとの兼ね合い、人材活用への懸念、社員のモチベーション管理、賃金など多数を想定できます。
企業ができる対策
新入社員と既存社員のデジタルリテラシーのギャップ
デジタルリテラシーのギャップに対する対策としては、既存社員のデジタルリテラシーを改善することが重要となります。新入社員とレベルを合わせるためにも、研修を充実させるなどのフォローアップを行いましょう。
従来システムと人材活用
せっかく新しい人材を獲得できても、従来のシステムをブラッシュアップせずに使用している場合には、新規人材が環境に適応しづらいことや、せっかくのスキルを活かしきれないことが考えられます。そこで、企業側は、システムの見直しやアップデートなど新しい人材を最大限生かせるよう設備の改革を行うことで、このような問題を解消することができます。
賃金改善
現在は、賃金の引き上げが社会全体として重要な課題とされています。そのため、企業は、生産性向上や業務効率化など、賃上げを吸収するための対策を行う必要があります
まとめ
2029年問題とは、プログラミングなどのITスキルを高校生時代から習得した世代が大学を卒業し、市場に参入することで生じる問題のことで、企業は懸念される問題の認知と対策が必要となります。今の段階でもこの問題に対する対策として、既存社員のデジタルリテラシー向上や賃金の見直しなどができることから、早めの対策が今後の問題に有効でしょう。