近年、多くの企業が理念の重要性に気づいており、理念を掲げる企業が増えています。その一方で、実際に理念を浸透させることは容易ではありません。そこで、本稿では、理念の浸透とはなにか、その基礎的な知識から具体的な企業事例について紹介し、近年注目されている理念浸透について解説します。
理念浸透とは
理念浸透とは、企業が掲げるミッションやビジョンといった「理念」を社内全体に浸透させる事や、すでに浸透していることで、社員が理念に共感している状態のことを指します。企業理念・経営理念を掲げている組織は多い一方で、その内容が社内に浸透していないケースも多々あります。理念が浸透することで、組織の一体感の向上や社員のモチベーション増加など沢山のメリットがある事から、理念浸透を行う事は、企業のパフォーマンスのために非常に重要です。
企業理念と経営理念の違い
企業が持つ理念として企業理念と経営理念の2つが一般的に挙げられます。この二つは混同しやすい概念ですが、明確な違いがあるため理解しておく必要があります。
まず、企業理念とは企業の存在に関する考え方の枠組みで、行動の方針などのもとになるものです。経営理念とは経営における方針として事業の方向性や目的達成のための手段などを記したものです。経営理念は、外部環境及び経営状況や経営者の考えに影響を受け変化する一方で、企業理念は基本的には変動しない不変的なもので、経営者が変わっても受け継がれる物です。このように、経営理念は市場の変化に併せて変動する一方で、企業理念は変動しないという違いがあります。

理念浸透のメリット(重要な理由)
理念浸透により、組織が大切にしている価値観を社員全体が共有することで、社員それぞれの目指す方向性が統一化されるなど行動指針、判断基準が明確になることで、企業・組織としてのパフォーマンスが向上することから、理念浸透は企業にとって重要と言えるでしょう。これに伴うメリットとして、具体的に以下の3点があげられます。
社員のパフォーマンス向上
理念浸透により、目指す方向性が揃うことで、社員のパフォーマンスが向上することは明らかです。企業理念・経営理念は行動指針など社員の行動規範になる内容が含まれている事から、これらの理念が浸透することで、企業の求める方向性と社員一人一人の行動がある程度揃いやすくなります。また、社員が企業理念・経営理念に共感して業務を行うことで、仕事のモチベーションについても向上しやすくなります。
離職防止
離職率においては様々な理由がありますが、大きな理由の一つとして「仕事のやりがい」が挙げられることがあります。自身の仕事の意義を見失うことで、このようなやりがいを感じないという現象が起こってしまう事があります。そこで、理念が浸透していると、自身の仕事がなぜ必要なのかと言った存在意義や企業が提供する価値について理解することができるため、仕事のやりがいを感じやすくなるというメリットがあります。
一体感の醸成
理念浸透により、社員全体の目指す方向性が揃うことで、一体感のある風土が醸成されることも期待できます。特に、拠点が違う場合においても企業理念・経営理念が浸透していることにより、それを通じて企業・組織の一員であるという意識がたかまり、部署などの小さな単位だけでなく、グループ外車なども含めた大きな単位での一体感の情勢が見込めます。
理念が浸透しない理由と浸透させる方法
このように、企業運営において非常に重要な企業理念・経営理念の浸透ですが、実際には企業理念があまり浸透していない企業も少なくありません。そこで、ここでは理念振とうしない理由と、具体的に浸透させる方法について紹介します。
理念が浸透しない理由
まず理念が浸透しない理由として特によくあがるものが以下の通りです。
1.理念の内容が分かりずらい、抽象的、曖昧である
例えば礼儀正しくとあっても、人によってその基準が違う場合があります。そのため、具体的な理念でない場合には、内容が分かりにくくなってしまいます。
2.理念の背景がわからない
なぜ、現在の理念が掲げられたのかの背景が理解されていない場合にも、理念が浸透しないといった状況が生まれやすくなります。制定した理念の背景を含めて理解してもらうことで、社員に共感を得ることができ理念の浸透が進みます。
3.理念が周知されていない、習慣化できていない
せっかく理念を掲げていても、それが社員に知られていないという場合も多々あります。何度も繰り返し理念を伝え、企業理念・経営理念について意識してもらうことが理念浸透の第一歩です。また、最終的には理念に基づいて社員が行動できると言った習慣化ができていることが理想です。習慣化されるほどひとりひとりに理念が身についていれば理念浸透したと言えるでしょう。
企業理念・経営理念を浸透させる方法
では実際に企業理念を浸透させるには、段階を踏む必要があります。
1. 理念の策定
企業理念・経営理念がない場合にはまず、理念を策定しましょう。また、現在の理念が曖昧であったり形骸化している場合には、理念の内容はそのままにその具体性などを補足しましょう。策定においては、理念が浸透しない理由に当てはまっていないかに注意し、具体的な内容、背景が分かりやすい内容を策定できているかを確認しましょう。また、覚えやすくなる工夫を行う事も重要です。
2. 理念に伴う行動指針の策定
次に、策定した企業理念・経営理念に基づく行動指針を検討しましょう。理念の文言によってすべてを伝える事は難しいため、実際に理念に沿った行動、行動指針を制定することで理念に則った行動について明確にしましょう。企業理念・経営理念を体現する行動が明らかになっている事で、理念浸透しやすいだけでなく習慣化しやすくなるというメリットがあります。
3. 経営トップから管理職などの人材のうち理念を伝える人材を育成する。
次に、企業理念・経営理念を上司から部下といった下流へ伝えるための人材育成を行いましょう。特に管理職などの先輩社員が企業理念を体現し、行動の見本になることでより理念浸透しやすくなります。
4. 社内制度の見直し
次に、理念に則った社内制度の策定、見直しを行いましょう。企業理念・経営理念に合わせた社内制度を策定することで、それに則った行動に対してそれを評価する制度などを用意することがよいでしょう。
5. フォローアップ
最後に、ゲームやワークショップを活用して定期的に、企業理念・経営理念を浸透させるためのフォローアップを行いましょう。理念を伝えるための研修なども行うことで、組織全体に理念を浸透させましょう。
具体的なワークショップ・ゲームについてはこちら:理念浸透のためのワークショップ・ゲーム実例5選。押しつけにならないコツ
理念浸透におけるポイント
次に、企業理念・経営理念を浸透させる際のポイントについて紹介します。様々な事柄がありますが、理念浸透させる方法のうち、3.4.の強化を行うことが特に重要となります。
経営陣・管理職が手本になる
理念を浸透させる際に重要なポイントとなるのが、経営陣や管理職の行動です。先輩や上司が理念をきちんと把握しそれに則った行動をしている事で、部下は自分に求められている行動を理解することができます。手本となる人材が率先して理念を習慣化することで、理念浸透が進みやすくなります。
社内制度の改善
理念に合わせた社内制度の整備なども、理念浸透において重要です。特に、理念に基づいた行動が評価されると言った制度や、表彰制度、人事評価制度などを理念に合わせて改善することがよいでしょう。また、実際にどのような行動が企業理念・経営理念に則っているかと言った事例をまとめ、共有するなどの制度もあることで、理念を習慣化した社員のモチベーションの向上やインセンティブにもつながります。
理念浸透の成功事例

では最後に、理念浸透の成功事例について紹介します。
リッツカールトン
最も有名な理念浸透の成功事例の1つがリッツカールトンの例です。リッツカールトンではスタッフ全員が企業理念及び行動指針を把握し、自律的に行動することで徹底したサービス品質を維持しています。
リッツカールトンでは、企業理念「ゴールドスタンダード」を掲げており、これには3つの「クレド」「モットー」「サービス」という区分があります。更に、サービスバリューズという行動指針も制定されています。
従業員は、クレドカードという企業理念が書かれたカードを常備しており、いつでも確認できるようにしているほか、執務室の壁・ホームページにゴールドスタンダードが取り上げられているそうです。
そして、更に、理念浸透のために以下の様な仕組みが確立されています。
・入社後のオリエンテーションでは必ず「ゴールド・スタンダード」の中身を徹底的に説明し、社員への期待を明確にする。
・スタッフ一人一人が「ゴールド・スタンダード」が印刷されたカードを胸元にしまっている。行動に迷ったときに、必ず見返せるようにしている。
・毎シフトの始まりに、「ゴールド・スタンダード」の読み合わせを行っている。
これはほんの一部ですが、このように徹底的に理念浸透を促すことが成功の秘訣と言えるでしょう。
参考元、更に詳しくはこちら:リッツ・カールトンホテルの経営理念
スターバックスコーヒー
スターバックスコーヒーも理念浸透の成功事例の1つとして有名です。スターバックスでは1990年に企業理念が策定され、「Our Mission, Promises and Values」として、企業がここにいる理由、目指す姿及び行動指針の3つを明示しています。
スターバックスでは、社員やアルバイトなどの立場に関係なく、新人には80時間もの研修を行い、接客、コーヒーの作り方及び「ミッション・ステートメント」の浸透にも時間をさき、理念浸透を試みています。
また、各店舗において「グリーンエプロンカード」という5つの行動指針が記載されたカードを設置し、スタッフが行動指針を目にする頻度を上げていると言います。
参考元、更に詳しくはこちら:Our Mission, Promises and Values|スターバックス コーヒー ジャパン
【連載#03】なぜスターバックスはアルバイトにも80時間かけて教育するのか
リクルート
リクルートの企業理念は、「ビジョン=Follow Your Heart」「ミッション=まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに」「バリューズ=「新しい価値の創造」「個の尊重」「社会への貢献」」の3つで構成されています。
リクルートでは、理念浸透のための「キーパーソン」を置いている事で、理念浸透を図っています。とくに、経営層が理念についてしっかりと発信を行うだけでなく、理念を体現している社員を表彰するなどの制度を用いています。
また、この様な取り組みについてプロモーションを行う事や理念浸透に関するアンケート調査、人事制度でのフォローを行うことで、理念浸透を試みています。
参考元、更に詳しくはこちら:ビジョン・ミッション・バリューズ|企業情報|リクルートホールディングス
まとめ
理念浸透とは、企業が掲げるミッションやビジョンといった「理念」を社内全体に浸透させる事、又している状態を指します。成功事例から分かるのは、企業理念や経営理念と繰り返し触れられる環境や理念を理解するための研修など時間をかけるといった作業が理念浸透に重要であるという事でした。また、社員の表彰や人事制度を用いた理念浸透を促す行為も有効であることが分かります。このような事例と基本的な理念浸透の方法を知ったうえで、自社にあった理念浸透を進めてみて下さい。