配置転換は、日本企業においては人材育成等を目的としてよく行われる異動の1つですが、具体的にはどのような目的で、どのような社員を配置転換する必要があるのでしょうか。本稿では、配置転換の用語とその目的やこれに伴うメリット・デメリット、そして実際の進め方と注意点について解説します。
配置転換とは
配置転換とは、同じ勤務地内における業務内容や所属部署の変更のことです。場合によっては、勤務地が変わる転勤も配置転換に含まれる場合があり、日本において正社員採用は、職務や部署を限定せずにお紺われる場合がある事から、配置転換は一般的な人員調整として知られています。
配置転換は、人事権の範囲内でのみ行えることから、就業規則、雇用契約に違反してはいけないという側面があります。一方で、きちんと配置転換について変更する権限(配転命令権)を有して、配置転換を命じる場合には原則、従業員はこれを拒否することができません。
配置転換の目的
配置転換の目的は実に様々で、代表的な物は以下の通りです。
- 人材の育成、キャリア形成
- 適材適所の実現、新たな適性の発掘
- 人材の補充
- 組織の活性化、担当者固定による不正の防止
- 新規事業、プロジェクトへの対応
ここに挙げた例だけでなく、実施のタイミングや対象によって様々な理由で配置転換は行われます。
配置転換により、企業は社員個人の育成と組織の活性化を目指すことができます。
配置転換と異動の違い
人事異動や異動とは、地位や勤務が変わる事を指します。配置転換は、この異動の一種のことで、他にも転勤・転任・転籍、出向、昇格・降格、新規採用などポジション変更はほとんどが異動に含まれます。
配置転換が多い人とは
配置転換の目的の1つとして社員の育成がある事から、新入社員や社歴が浅い社員、幹部候補者など育てたいと考えられている社員は配置転換されやすい傾向にあります。
また、教育制度の一環として、すべての従業員に対してジョブローテーションを実施する企業もあります。

配置転換のメリットとデメリット
配置転換を行う事にはメリットもありますがデメリットも生じます。ここでは、実際よく耳にするメリットとデメリットについて紹介します。
配置転換のメリット
配置転換の効果が目的通りに出る場合には、メリットとして目的同様以下の項目が上がります。
組織の活性化
人材の適材適所、人間関係の改善、社員の能力向上につながり、組織の活性化が起こるというメリットがあります。
人材育成
配置転換により様々な業務経験を積むことや他部署の人材と関わる事で、幅広い経験が詰める事から人材育成や人材のキャリア形成に繋がります。また、適材適所がかなうことで、他の業務では発揮できない能力を活かすことができる場合もある事がメリットとして挙げられます。
イノベーションの創出
配置転換により新しい人材が入る事で、新規の視点やアイディアが加わると、イノベーションの創出につながる可能性があります。これにより、業務改善や商品開発など様々な革新につながるというメリットがあります。
マンネリ化の防止
常に同じ環境で業務を続けることで、業務に対するモチベーションの低下や業務効率が低下してしまうマンネリが起こる場合があります。そこで、配置転換を行うことで、適性のある業務につけたり、違う刺激を受けられたりと業務のマンネリ化防止にも効果が期待できます。
配置転換のデメリット
一時的な生産性の低下
配置転換により、初めは不慣れな環境で業務を行うことになることから、生産性が低下してしまう場合があります。しかしながら、これは一時的なもので業務への慣れにより改善が見られるため、配置転換を行う際は繁忙期は避けるなど時期やその部署のキャパシティを考えた上で行うことが良いでしょう。
モチベーションの低下
元々の業務があっていた場合や、意に沿わない配置転換を行った場合には、社員のモチベーションが低下する場合があります。特に希望職種や条件、業務内容が入社前後で違うことで、不満を持つことが考えられるため、社員に対して事前に面談等で目的や期待などをしっかり説明した上で配置転換を行うことが望ましいでしょう。
専門性やスキルの向上は期待できない
配置転換によっては、経験やスキルを活かすことができないこともあり、深い知識や技術を鍛錬したい場合にはデメリットになってしまう場合があります。
特に、社員のキャリアプランにそぐわない場合もある事から、こちらも事前に面談を行うことで、配置転換が社員にとってマイナスにならないかなど検討する必要があります。
配置転換の進め方・手順
では実際に配置転換を行う際には、以下のような手順を踏む必要があります。
1. 就業規則等の整理
配置転換を行う際はまず、就業規則、雇用契約書、労働協約などに「業務上必要がある場合、会社が配置転換を命じることができる」の様な定めが必要です。就業規則に配置転換を命じる記載があっても、労働契約書などに記載がない場合、配置転換の法的な正当性が疑われるケースもあり、労働条件に明示されていない配置転換はトラブルの原因となる可能性があるため、注意する必要があります。
2. 候補者の選定
次に、配置転換の候補者を、社員の経験や適性、キャリアプランなどを加味しながら、経営戦略やどの部署にどのような人材を配置するべきかなどから選定しましょう。
3. 内示
配置転換の対象となる社員に対して、配置転換の理由を伝えましょう。一般的には、転居を伴わない場合、異動の2週間前、家族を含め転居が必要な場合は3ヵ月〜6カ月前の内示を行いましょう。
4. 辞令
最後に正式な辞令を交付します。また、メール等で全社に好評を行う事や、現所属部署の解任日と異動先部署への異動日を同日にすることが一般的です。
配置転換の注意点、違法になる場合

配置転換は、会社が権利を乱用するような場合には違法になってしまうことがあります。
以下では、配置転換の注意点とどのような行為が違法性が問われる可能性があるのかなどを紹介します。
配置転換を行う際の注意点
配置転換の実施において注意すべき点として以下の事柄が挙げられます。
- 就業規則への記載があるか
- 必要性がある配置転換か
- 社員に不利益が生じないか
- 不当な配置転換ではないか
このような注意点に配慮しながら配置転換を行うことで、職権乱用や違法になる場合のある配置転換を避けることができます。
また、配置転換による成果は得られるまでに時間を要する場合があります。そのため、中長期的に配置転換の効果を測ることが配置転換実施後の注意点となります。
違法になる場合がある配置転換
就業規則、雇用契約、労働協約などに規定がない場合
就業規則などに配置転換に関する規定がない場合には、会社側に配置転換を命令する権利がない事から社員の同意なく配置転換を命じる事は出来ません。
また、勤務地限定契約や職種限定契約の場合にも配置転換が違法となる場合があります。
配転命令権の乱用などにあたる場合
ビジネスケアラーや妊娠出産など配慮を要する場合に理由なく配置転換を行う事や、私怨によるもの、減給や退職推奨を目的とするような、業務上の必要性や合理性に欠けた配置転換は無効となります。
配置転換を拒否された場合
最後に配置転換を拒否された場合についてですが、正当な理由がある場合には配置転換は拒否することができます。例えば、障害のある家族等の介護、社員自身の持病や治療への影響、育児などへの支障など、ものによっては転勤命令が無効になった裁判例があります。
一方で配置転換が正当な理由であれば、社員は配置転換の命令に従う必要があります。そのため、面談などを通して拒否の理由の確認や配置転換の理由の説明、場合によっては処遇の改善などを行い社員からの納得を得られるように対応することも必要です。
まとめ
配置転換とは異動の一種であり、企業内で社員の部署や職種、業務内容を変更することです。配置転換により、人材育成と組織の活性化などが見込まれる一方で、理由が不適当な場合の配置転換は違法性が問われる場合もあるので注意が必要です。