「社員の主体性がなかなか見られない」「研修をしても行動が変わらない」と悩んでいませんか? もしかすると社員の自己効力感が不足していることが原因かもしれません。 自己効力感とは「自分ならきっとできる!」と、目標達成に向けて行動できると信じる力のことです。 この感覚が高い社員は自ら積極的に困難な課題に挑戦し、たとえ失敗しても乗り越えるレジリエンス(回復力)を発揮します。 本記事では、企業の人事担当者向けに社員の自己効力感を高めるための具体的な育成戦略と実践的な方法を詳しく解説します。
自己効力感とは?
自己効力感とは、乗り越えなければならないハードルが現れたときに、「自分は乗り越えられる」と認識することを指します。
英語ではセルフ・エフィカシー(self-efficacy)といい、これはカナダの心理学者バンデューラが提唱した言葉です。自己効力感という言葉の他に、心理学用語として「自己効力」や「自己可能感」などと訳されたりします。
ビジネスでいえば、「自分はこの仕事を成し遂げることができる!」と思える状態が、自己効力感の高い状態であるといえるでしょう。
自己効力感の3つのタイプ
1. 自己統制的自己効力感
自分の行動や感情をコントロールし、目標達成に向けて自律的に進める力です。「自分なら計画通りにタスクを完了できる」という確信を指します。
この自己効力感が高い社員は、主体的に業務に取り組み、目標達成意欲が向上するため、チームや組織全体の生産性向上に貢献します。
2. 社会的自己効力感
他者と円滑なコミュニケーションをとり、良好な人間関係を築く力です。「自分はチームで意見をうまくまとめられる」といった、対人スキルに対する自信を指します。
組織内の連携強化やチームワークの向上に不可欠です。社内の風通しを良くし、建設的な議論を促進する上で重要な要素となります。
3. 学業的自己効力感
新しい知識やスキルを習得できるという自信です。「未経験の分野でも、自分なら学習して習得できる」といった前向きな姿勢を指します。
変化の激しいビジネス環境において、社員の継続的な学習意欲を促し、組織の成長を支える上で欠かせません。

自己効力感の4つの源泉とは?社員の能力を引き出す理論
心理学者アルバート・バンデューラは、自己効力感が形成される要因として、以下の4つを提唱しました。社員の自己効力感を高めるには、これらの源泉にアプローチすることが不可欠です。
1. 達成経験(Enactive mastery experience)
社員が自らの行動で目標を達成し、「自分はできる」という感覚を得る成功体験のことです。小さな成功を積み重ねることで、大きな課題にも自信を持って取り組めるようになります。
【人事施策例】
- スモールステップでの目標設定: 大きなプロジェクトを細分化し、達成可能な小さなタスクを任せる。
- 簡単なタスクからのスタート: 新入社員や若手社員には、達成しやすい業務から任せ、成功体験を積ませる。
2. 代理経験(Vicarious experience)
自分と似たような他者が成功する様子を観察し、「あの人にできるなら、自分にもできるはずだ」と感じる経験です。身近なロールモデルの存在が、社員の自信につながります。
【人事施策例】
- 成功事例の共有会: チームや部署で成功した事例を発表する機会を設ける。
- ロールモデルの設定: 新入社員に、年齢や経歴の近い先輩社員をメンターとしてつける。
3. 言語的説得(Verbal persuasion)
他者からの言葉による励ましや承認です。「あなたならできる」「よく頑張ったね」といったポジティブな言葉が、社員の「できる」という気持ちを後押しします。
【人事施策例】
- ポジティブフィードバックの推奨: 1on1ミーティングなどで、上司から部下へ具体的な行動を褒める文化を醸成する。
- 感謝を伝える仕組み: 社員同士で感謝のメッセージを送り合えるツールを導入する。
4. 生理的・情動的喚起(Physiological and emotional states)
心身のコンディションが自己効力感に影響を与えるという考え方です。過度なストレスや不安は「自分には無理だ」という感覚を引き起こし、自己効力感を低下させます。
【人事施策例】
- ストレスチェックの実施: 社員のメンタルヘルスを定期的に確認し、不調の兆候を早期に発見する。
- 働き方の改善: 適切な休憩時間の確保や、過剰な残業を減らすことで、社員の心身の健康を保つ。
自己効力感と自己肯定感の違い
もしかしたら、似た言葉として「自己肯定感」を知っているかもしれません。言葉の響きは似ていますが、それぞれの言葉が意味するところには、微妙な違いがあります。
- 自己効力感:自分の力を信じて、実行に移せる力
- 自己肯定感:自分の価値、自分の存在を肯定する力
自己効力感があるという場合には、「乗り越えられる」というところにフォーカスがあります。一方で、自己肯定感があるという場合には、目の前の課題をこなせなくても自分を肯定するという意味合いも含まれます。
どちらも大事な力ですが、ビジネスでとりわけ大事になるのは前者です。
自己効力感と社会的認知理論
自己効力感と社会的学習理論は、深い関係があります。社会的認知理論は、人の行動、認知、社会的環境は相互に影響するという行動科学理論のひとつです。
社会的認知理論では人間の行動の要因を3つに分類しています。
1.先行要因
行動を起こす前の「先行要因」とは、結果の予測です。「心身ともに調子がよく、やる気がある」、「これくらいなら自分はきっとできる」といった行動の先行要因となるものです。
2.結果要因
結果要因とは、行動の結果から学習したことです。自分の経験から学んだことに加えて、他人の経験を見聞きして学んだことも当てはまります。例えば、勉強したことで大きなメリットを得られた経験があったり、人から聞いたりした場合、次も勉強しようと思えるでしょう。
3.認知的要因
認知的要因とは、ある行動をどう認識しているかのことです。例えば、勉強を楽しいものだと思っている人と、苦しいものだと思っている人では勉強への取り組みが大きく変わります。
この3つの要因は互いに関連し合い、私たちの意思決定や行動決定に影響しています。
この先行要因のひとつである、行動の結果に対する予測をする「予期機能」は、さらに「効力予期」と「結果予期」に分類されます。「効力予期」は、「自分には大学に合格する実力がないだろう」など自分の能力への予測のことで、「結果予期」は「親が進学を許さないだろう」という外的な要因への予測のことです。バンデューラ氏は、特に「効力予期」に注目して研究を進めた結果、自己効力感の概念に至ったと言われています。社会的学習理論の3つの行動要因から、自己効力感が生まれました。
自己効力感が高い人・低い人
自己効力感が高い人・低い人は普段の言動を見るとすぐに見分けがつきます。
あなたは、自己効力感の高い人でしょうか?それとも低い人でしょうか?以下のポイントと普段のあなたの言動を比べてみてください。
自己効力感が高い人の特徴
自己効力感が高い人の特徴は、以下に挙げるとおりです。
自信にあふれている
自己効力感の高い人は、自信にあふれた行動を取ったり、言葉を使ったりします。
なぜなら、自分には乗り越えられない壁はないと信じているからです。現状で難しい課題があったとしても、経験を積んだり勉強をしたりすれば、必ず乗り越えられるはずだと思っています。
コミュニケーションが上手い
自己効力感の高い人は、コミュニケーションを取るのが上手い傾向にあります。
なぜなら、自分は周りから求められていると感じることができているからです。そういった人は逆に周りを信頼していたり、周りと対等に話をしたりするのでコミュニケーションを上手く取ることができます。
自己効力感が低い人の特徴
自己効力感が低い人の特徴は、以下に挙げるとおりです。
ネガティブな発言をする
自己効力感の低い人は、仕事や自分に対してネガティブな発言をしてしまいます。
なぜなら、自分には課題を乗り越えることができないと感じているからです。「自分にはどうせ無理だ」「また失敗する」といった思考から抜け出せず、結果として仕事でも後手後手に回ってしまいます。
他人に対して攻撃的である
自己効力感の低い人は、他人に対して攻撃的になる傾向があります。
例えば、部下に対して感情に任せて怒ってしまう上司などが典型的な例です。部下に対して怒りをぶつけてしまうのは、自分に自信がない裏返しだといえます。攻撃的になっている人は注意が必要です。
自己効力感を高めることによるメリット
チャレンジ精神が育まれる
自己効力感が高まれば、失敗を恐れずに「チャレンジしてみよう!」という気持ちが生まれやすくなります。ビジネスでは、今まで誰もやったことがない仕事や前例のない仕事、あるいは成功するかどうかわからない新規事業を任されることもあるかもしれません。誰もが不安になるシーンでも「自分ならできる」と強い自信を持っていれば積極的に取り組むことができるでしょう。
失敗から学び、次に生かせる
たとえチャレンジして失敗したとしても、極端に落ち込み過ぎず、「次はどうすればうまくいくか」を考えることができます。失敗から何かを学び、次に生かすことはビジネスにおいて非常に重要な要素です。失敗してもすぐに立ち直り、前向きに次の業務に取り組んでいくうちに、ポジティブな発信が増え、新たなチャレンジや良い結果につなげる可能性が高くなるでしょう。
モチベーションの高い状態を維持できる
自己効力感が高ければ自分の考えや行動の軸をしっかり持っています。ビジネスでも何かトラブルが起きた時でも、あわてずに自分の頭で考え、柔軟に対応することができるでしょう。また自分に必要なものが何かを把握し、能力を向上させるための努力をし、モチベーションを高い状態で維持することができます。モチベーションの高い人は周囲への影響も大きく、会社にとって不可欠な人材として活躍できるでしょう。
【実践編】社員の自己効力感を向上させる5つの施策

1. 小さな成功体験を積ませる
自己効力感の最も強力な源泉は「達成経験」です。社員に達成可能な小さな目標を設定させ、それをクリアする経験を意図的に積ませましょう。
成功体験が積み重なることで「自分はできる」という自信を持てます。
- 大きなプロジェクトを、完了日や担当者を明確にした小さなタスクに分解する。
- 新入社員や異動者には、比較的難易度の低い業務から任せて成功の喜びを体験させる。
2.ポジティブなフィードバックを言語化する
「言語的説得」は、他者からの励ましや承認によって自己効力感を高める方法です。上司や先輩からのポジティブな言葉は、社員の自信を育む大きな力となります。
- 1on1ミーティングで成果だけでなく、そこに至るまでの努力やプロセスを具体的に褒める。
- チーム内でメンバー同士が感謝や称賛のメッセージを送り合う文化をつくる。
3.ロールモデルを明確にする
「代理経験」は、自分と似た他者の成功を観察することで「あの人にもできたのだから自分にもできるはず」という自信を得る経験です。
- 社内報や社内SNSで、成功した社員の取り組みやストーリーを共有する。
- 若手社員に、年齢や経歴の近い先輩社員をメンターとしてつける。
4.適切な目標設定を支援する
目標設定は高すぎると挫折感につながり、低すぎると成長が止まってしまいます。
社員が「達成可能だが少し頑張る必要がある」と感じるストレッチの効いた目標を一緒に設定しましょう。
- SMARTの法則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)を活用して、具体的で達成可能な目標設定を促す。
- 定期的な進捗確認やコーチングを通じて、目標に対する自信を維持・向上させる。
5.健全な心身を保つ環境を整える
心身のコンディションは、自己効力感に大きな影響を与えます。過度なストレスや疲労はネガティブな感情を引き起こし、「自分には無理だ」という感覚を強めてしまいます。
- 長時間労働の廃止や有給休暇の取得推奨など、ワークライフバランスを重視した働き方を推進する。
- メンタルヘルスチェックや相談窓口の設置を通じて、社員が安心して働ける環境を提供する。
自己効力感の課題を解決する「ラフールサーベイ」とは
目に見えない自己効力感の状態を把握せずに施策を進めても、効果を測定することは非常に困難です。
そこでおすすめなのが、社員のメンタルヘルスや組織状態を可視化する「ラフールサーベイ」です。
ラフールサーベイを活用することで、勘や経験に頼るのではなくデータに基づいた人事戦略を立てることができます。
社員の自己効力感という組織の根本的な課題を明確にし、効果的な施策を実行することで、社員のパフォーマンス向上と持続的な組織成長を実現することができるでしょう。
ラフールネス指数による可視化
組織・個人の「健康度合い」から算出したラフールネス指数により、企業が抱えているメンタルヘルスの課題を可視化します。
個人ラフールネス、職場ラフールネス、総合ラフールネスの3つの指数を、他社・時系列比較で把握できます。また、全国平均や各業界と比較することも可能です。
これによって自社が、どれくらい健康に経営が行えているのかを、客観的な視点で把握できます。
直感的に課題がわかる分析結果
上記の分析結果は、グラフや数値で確認できます。部署や男女別にデータをソートし、細分化された項目とのクロス分析も可能です。
一目で分かる見やすいデザインのインターフェースで、直感的に課題が見つかります。
課題解決の一助となる自動対策リコメンド
数値による分析結果から、自動でフィードバックコメントを表示する機能を搭載しています。良い点・悪い点が簡単に分かるので課題解決に大いに役立つでしょう。
重視したい項目もピックアップすることが可能です。
154項目の質問項目で多角的に調査
ラフールサーベイのストレスチェックには、154の項目が設けられています。154項目の構成は以下のとおりです。
- 厚生労働省推奨の57項目
- 独自の84項目
従来のストレスチェックでは把握できなかった「受験者の性格」「衛生要因(給与・福利厚生)」「エンゲージメント(エンプロイー・ワーク)」などを追加しています。多角的な調査により、より詳細な状況を把握することが可能です。
19の質問項目に絞り、組織の状態を定点チェック
19の質問項目に絞ったショートサーベイで、組織の状態を定点チェックすることも可能です。月次での変化を負いながら、課題への対策効果がどれぐらい上がったか可視化します。
こちらは月一回の実施を推奨しています。
適切な対策案を分析レポート化
細かい分析結果により、課題を把握し、リスクを見える化できます。
部署/男女/職種/テレワーク別に良い点や課題点を一望化
ラフールサーベイでは、部署や男女、職種別にデータ分析をすることが可能です。他部署・男女・職種での比較ができるだけでなく、危険ゾーンとなる箇所を直感的に一目で確認することができます。
また、「テレワーク属性」を追加したことで、テレワークを行っている社員を含めたデータ分析ができるようになりました。テレワークを行う社員の状況までも可視化できます。
まとめ
自己効力感は、個人のパフォーマンス向上だけでなく、チームの連携強化や組織全体の生産性向上に直結する重要な要素です。
社員の主体性を引き出し、持続的な成長を促すためには、日々の声かけから評価制度、研修プログラムに至るまで、多様な角度からアプローチすることが求められます。
ぜひ本記事を参考に、貴社の社員一人ひとりが「自分ならできる!」と自信を持って挑戦できるような環境を構築し、組織全体の力を最大限に引き出してください。
