ポストコロナ時代において、市場はじつに目まぐるしく変化を続けています。現代の非常に変化が速い市場では、それに合わせた迅速な意思決定や柔軟性が必要です。そこで組織としての一体感の向上や意思決定の最適化が行えることから近年注目されているのが理念経営です。本稿では、この理念経営の基礎知識と実際の企業事例について詳しく紹介します。
理念経営とは
理念経営とは、企業理念や経営理念を軸とした経営手法のことです。理念を重視した上で経営を行うことで、意思決定や議論において主軸がはっきりすることから、社員全体が同じ方向を向いてブレずに業務を行えるだけでなく、業務の優先順位なども付けやすくなると言った利点があります。
パーパス経営との関連
理念経営によく似た概念としてパーパス経営が知られています。どちらも、企業の経営における指針となる考え方のことで、理念経営は、企業の価値観や経営方針を明文化し、定めた存在意義に沿って経営を行う事です。一方で、パーパス経営は、企業の存在意義や社会における役割を明確にし、社会貢献を重視する経営スタイルのことです。実際には、理念とパーパスを一緒くたに扱う企業がほとんどです。そのため、焦点の違いはあるという事だけ押さえておくとよいでしょう。

理念経営のメリット
理念経営を行う事には沢山のメリットがあります。その中でも、特筆すべきメリットとして以下の4点を紹介します。
判断や行動の基準ができる
経営者などが判断を下した際に、企業理念・経営理念を通してその意思決定や判断の意図、またその背景を伝えやすくなります。これにより社員側の納得が得られやすくなるだけでなく、決断速度の向上などがメリットとして挙げられます。
一体感・安心感が生まれる
企業理念・経営理念を基盤に、大切にするべきものや価値観がまとまることで、組織としての一体感が生まれる事や、基準に沿った経営がされることで安心感が生まれると言ったメリットがあります。
帰属意識の向上
企業理念・経営理念を軸とした理念経営が行われることで企業が社会へ提供する価値を社員が理解しやすくなることで、モチベーションと共に帰属意識の向上も見込めます。
顧客の共感性の向上
企業理念・経営理念に沿って「ブレずに」社会や顧客に価値を提供することで、顧客からの安心と信頼を獲得することができます。とくに、理念経営により指針がゆるぎないという事は、ブランドの価値の向上にもつながります。
理念経営の浸透方法
さて、理念経営を行う際には、企業理念・経営理念が浸透していることが重要です。ここでは、実際に理念経営、企業理念・経営理念の浸透方法について紹介します。
1.理念の策定
まずは理念の策定を行いましょう。企業理念・経営理念は市場によって変化することから社会のニーズや会社の価値について検討しながら策定を行いましょう。
2.行動指針の策定
次に、理念経営に沿った行動とはどのようなものかを明確にし、社員の行動指針について明示しましょう。
3.コミュニケーションの改善
企業が掲げた理念が現場に浸透しない原因として上司と部下間でのコミュニケーションの不足が挙げられます。そこで、上司や管理職の人材に対して、理念経営の重要性を認識するだけでなく、部下など社員とのコミュニケーションのなかで、理念経営について共有、教育するように指導、研修を行いましょう。
4.社内制度の見直し
次に、企業が掲げた企業理念・経営理念、理念経営に基づいた行動ができている社員に対して、それを評価する制度や、インセンティブを用意するといった制度を作りましょう。ほかにも社内で理念経営に基づいた行動ができた社員を表彰するなど、理念経営を意識できる環境作りが重要です。
5.フォローアップ
最後に、理念経営に関する研修やゲームやワークショップを活用して定期的に、企業理念・経営理念を浸透させるためのフォローアップを行いましょう。
さらに詳しくはこちら:理念浸透のメソッド|理念を浸透させる方法を成功事例と共に詳しく紹介
このように、理念経営を行うだけでなく組織全体に浸透させることで、風土の醸成され、最初に紹介したメリットも発揮されやすくなります。
理念経営の企業事例

では、最後に理念経営の企業事例について紹介します。
京セラ株式会社
京セラの経営理念は、「京セラフィロソフィ」=「全従業員の物心両面の幸福を追求しながら、人類・社会の進歩発展に貢献すること」であり、社会・世界・自然との共生という考絵を根底に、「共に生きる(LIVING TOGETHER)」という姿勢をすべての企業活動の中心に据えています。
また、社員が、自ら積極的に京セラフィロソフィを理解し、企業人として高い良識のある行動を実践していけるように、全社員に「京セラフィロソフィ手帳」「京セラ行動指針手帳」を配付して、社員がさまざまな機会でことあるごとに、この手帳を活用し京セラフィロソフィを学び実践することに努めています。
このように、経営理念として従業員の幸福、人類・社会の進歩への貢献を設定するだけでなく、普段からそれを意識できるよう手帳の配布を行うといった工夫により、一体感のある経営が行えているのです。
詳しくはこちら:社是・経営理念、経営哲学|京セラドキュメントソリューションズ
日本航空株式会社
JALグループは2010年に経営破綻しましたが、京セラ創業者の稲盛和夫氏の指導のもと、見事に再建を果たしました。その再建に大きな役割を果たしたのが、JALの企業理念と「JALフィロソフィー」です。このフィロソフィーには、社員が持つべき意識や価値観が記されており、例えば「一人ひとりがJAL」や「最高のバトンタッチ」など40項目が挙げられています。社員はこのフィロソフィーに基づいて行動し、全員が一体感を感じながら誇りを持って働いています。また、実際には朝礼や秋冷の時間でフィロソフィーを読み合わせたり、年に4回の研修を受けJALの一員としての意識が醸成されるように工夫されています。
このように、JALフィロソフィーといった理念経営を浸透させることで、再建が果たされました。
詳しくはこちら:理念・ビジョン|JAL企業サイト
「新たな経営理念」の浸透・血肉化によってJAL再建は実現した!
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社では経営理念として、「情報革命で人々を幸せにする」を掲げています。創業以来、情報技術を通じて人類と社会に貢献することを使命としてきました。
人々の幸せとは何か、それは「感動すること」と同義であるとソフトバンクは考えています。現在は、この経営理念のもと持続可能な社会の実現に貢献することを重要な経営課題と捉え、取り組むべき6つのマテリアリティ(重要課題)を特定しています。このマテリアリティは経営理念と成長戦略である「Beyond Carrier」をつなぐものとし、「すべてのモノ・情報・心がつながる世の中を」をコンセプトに、マテリアリティの解決を通じてグループ全体の事業成長に取り組むことで持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指しています。
このように、ソフトバンクでは、経営理念を軸としながら現在の社会的課題を結び付けて、それに合わせた経営戦略を行うことで、持続可能な社会に貢献することができています。
詳しくはこちら:トップメッセージ|企業・IR|ソフトバンク
まとめ
理念経営とは、企業理念・経営理念といった理念を軸として経営を行う方針のことです。企業・組織の一体感のある経営や企業の立て直し、また現代社会の問題への取り組みにおいても理念経営は有効であると言えるでしょう。また、理念経営においては企業理念・経営理念が浸透していることも重要です。理念経営が組織に浸透することで初めてその効果があると言えるでしょう。