ビジネスパーソンにとって、仕事をする上で重要な「自己効力感」。
ただ、「自己効力感って具体的にどういうものなの?」「自己肯定感となにが違うの?」そういった疑問を持っているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか?
そこで今回はそういった方へ向けて、ビジネスパーソンにとって重要な自己効力感について詳しく解説していきます。
自己効力感が決定される要因や、高めるための取り組みについても解説していますので、ビジネスパーソンの方はぜひ参考にしてみてください。
1.ビジネスの世界における自己効力感
「自己効力感」という言葉は何となく聞いたことがあっても、具体的に何?と聞かれると答えられない方が多いのではないかと思います。
ここではまず、自己効力感とは何のかという概要を説明します。また、ビジネスシーンにおける自己効力感についても、具体例を挙げながら紹介します。
そもそも自己効力感とは
自己効力感とは、乗り越えなければならないハードルが現れたときに、「自分は乗り越えられる」と認識することを指します。
英語ではセルフ・エフィカシー(self-efficacy)といい、これはカナダの心理学者バンデューラが提唱した言葉です。自己効力感という言葉の他に、心理学用語として「自己効力」や「自己可能感」などと訳されたりします。
ビジネスでいえば、「自分はこの仕事を成し遂げることができる!」と思える状態が、自己効力感の高い状態であるといえるでしょう。
自己効力感の提唱者 アルバート・バンデューラ
アルバート・バンデューラは1925年にカナダで生まれ、ブリティッシュコロンビア大学で心理学を学び、1952年にアメリカのアイオワ大学で臨床心理学の博士号を取得。その後はスタンフォード大学でキャリアを積み、1964年に心理学教授に就任。1974年にはアメリカ心理学会会長も務めた、20世紀を代表する心理学者です。
自身の経験を前提としていた従来の学習理論だけではなく、他の人や動物といった個体の行動を観察することでも成り立つ社会的学習理論(モデリングによる学習)を実証しました。
1990年代に提唱した自己効力感についての概念は、心理学にとどまらず教育や社会の分野にも大きな影響を及ぼしたと言われています。
自己効力感と自己肯定感の違い
もしかしたら、似た言葉として「自己肯定感」を知っているかもしれません。言葉の響きは似ていますが、それぞれの言葉が意味するところには、微妙な違いがあります。
- 自己効力感:自分の力を信じて、実行に移せる力
- 自己肯定感:自分の価値、自分の存在を肯定する力
自己効力感があるという場合には、「乗り越えられる」というところにフォーカスがあります。一方で、自己肯定感があるという場合には、目の前の課題をこなせなくても自分を肯定するという意味合いも含まれます。
どちらも大事な力ですが、ビジネスでとりわけ大事になるのは前者です。
自己効力感と社会的認知理論
自己効力感と社会的学習理論は、深い関係があります。社会的認知理論は、人の行動、認知、社会的環境は相互に影響するという行動科学理論のひとつです。
社会的認知理論では人間の行動の要因を3つに分類しています。
1.先行要因
行動を起こす前の「先行要因」とは、結果の予測です。「心身ともに調子がよく、やる気がある」、「これくらいなら自分はきっとできる」といった行動の先行要因となるものです。
2.結果要因
結果要因とは、行動の結果から学習したことです。自分の経験から学んだことに加えて、他人の経験を見聞きして学んだことも当てはまります。例えば、勉強したことで大きなメリットを得られた経験があったり、人から聞いたりした場合、次も勉強しようと思えるでしょう。
3.認知的要因
認知的要因とは、ある行動をどう認識しているかのことです。例えば、勉強を楽しいものだと思っている人と、苦しいものだと思っている人では勉強への取り組みが大きく変わります。
この3つの要因は互いに関連し合い、私たちの意思決定や行動決定に影響しています。
この先行要因のひとつである、行動の結果に対する予測をする「予期機能」は、さらに「効力予期」と「結果予期」に分類されます。「効力予期」は、「自分には大学に合格する実力がないだろう」など自分の能力への予測のことで、「結果予期」は「親が進学を許さないだろう」という外的な要因への予測のことです。バンデューラ氏は、特に「効力予期」に注目して研究を進めた結果、自己効力感の概念に至ったと言われています。社会的学習理論の3つの行動要因から、自己効力感が生まれました。
2.ビジネスの現場でも重要な自己効力感
ここまで紹介したように、自己効力感が高まるとビジネスの現場で多くのメリットが得られます。上で紹介した以外に挙げられるメリットは、以下のとおりです。
- 目標を達成するために行動ができる
- 多少の失敗をしても前向きに捉えられる
- 職場の人間関係が上手くいく
- 社内で高い評価を得られる
自己効力感が高い状態では「自分はできる!」と感じて、実際に行動に移すことができます。周りから見れば、「仕事ができる人」に他なりません。
実際に仕事をこなす上でも、周りから評価される上でも大切な要因です。
3種類の自己効力感
自己効力感には3種類あって、それぞれがビジネスシーンで重要な力となります。
では、その3種類の自己効力感とは具体的にどういったものなのでしょうか?ここでは、ビジネスシーンでの具体例を挙げながら、それぞれの項目について解説します。
自己統制的自己効力感
自己統制的自己効力感とは、自分の行動・感情をコントロールし、肯定感を持つものです。簡単に言えば「自分ならできる」と思う気持ちのことです。ビジネスの場面では、自分の気持ちをコントロールし、前向きに業務に取り組むことが重要になります。
例えば、自分ならできるという強い自信があれば仕事で何らかのミスをして上司に迷惑をかけた場合でも、気持ちをうまくコントロールでき、次の機会に良い結果を得ることができるでしょう。また、大きな仕事を任された時でも強い自信があれば、やる気や忍耐力など言動にも大きく影響します。
自己統制的自己効力感は、気持ちの切り替えや自己成長に大きく関わっているといえるでしょう。
社会的自己効力感
社会的自己効力感とは、乳児期や児童期に最も発達すると言われている共感能力につながるものです。ビジネスは社内外問わず、多くの人と関わって成り立っているため、周囲とのコミュニケーションを円滑に行うことは非常に重要になります。
社会的自己効力感の高い人は他人の気持ちに寄り添い、共感することができ、気難しい人と接する場合でも「きちんと話せば仲良くなれる」と前向きに考えることができ、良い結果をもたらしてくれます。例えば、自分が会社から求められている、部下にとって無くてはならない存在だと感じることができれば、仕事のパフォーマンスも上がるでしょう。その結果、求められる以上の成果を出すこともできます。
社会的自己効力感は円滑な人間関係をつくり、気持ちよく働く上で重要だといえるでしょう。
学業的自己効力感
学業的自己効力感とは、これまで学校や塾などの学業で得た達成感から育まれるものです。学業的自己効力感が高い人は社会に出てからも高い学習意欲を保つことができるでしょう。ビジネスの場でも多くの学びの機会があるため、学習意欲の高い人ならさらなる成長を目指すことができます。
例えば、入社直後の研修や雑用などの仕事も、「学び」と捉えてこなすことができれば、前向きに業務にあたることができます。前向きに取り組むことで成長速度は速くなり、上司や同僚からの評価も高くなる可能性があります。次の業務のオファーやステップアップも早くなるでしょう。
学業的自己効力感は、自分を成長させる上で重要だといえるでしょう。
3.自己効力感が高い人・低い人
自己効力感が高い人・低い人は普段の言動を見るとすぐに見分けがつきます。
あなたは、自己効力感の高い人でしょうか?それとも低い人でしょうか?以下のポイントと普段のあなたの言動を比べてみてください。
自己効力感が高い人の特徴
自己効力感が高い人の特徴は、以下に挙げるとおりです。
自信にあふれている
自己効力感の高い人は、自信にあふれた行動を取ったり、言葉を使ったりします。
なぜなら、自分には乗り越えられない壁はないと信じているからです。現状で難しい課題があったとしても、経験を積んだり勉強をしたりすれば、必ず乗り越えられるはずだと思っています。
コミュニケーションが上手い
自己効力感の高い人は、コミュニケーションを取るのが上手い傾向にあります。
なぜなら、自分は周りから求められていると感じることができているからです。そういった人は逆に周りを信頼していたり、周りと対等に話をしたりするのでコミュニケーションを上手く取ることができます。
自己効力感が低い人の特徴
自己効力感が低い人の特徴は、以下に挙げるとおりです。
ネガティブな発言をする
自己効力感の低い人は、仕事や自分に対してネガティブな発言をしてしまいます。
なぜなら、自分には課題を乗り越えることができないと感じているからです。「自分にはどうせ無理だ」「また失敗する」といった思考から抜け出せず、結果として仕事でも後手後手に回ってしまいます。
他人に対して攻撃的である
自己効力感の低い人は、他人に対して攻撃的になる傾向があります。
例えば、部下に対して感情に任せて怒ってしまう上司などが典型的な例です。部下に対して怒りをぶつけてしまうのは、自分に自信がない裏返しだといえます。攻撃的になっている人は注意が必要です。
4.自己効力感を高めることによるメリット
チャレンジ精神が育まれる
自己効力感が高まれば、失敗を恐れずに「チャレンジしてみよう!」という気持ちが生まれやすくなります。ビジネスでは、今まで誰もやったことがない仕事や前例のない仕事、あるいは成功するかどうかわからない新規事業を任されることもあるかもしれません。誰もが不安になるシーンでも「自分ならできる」と強い自信を持っていれば積極的に取り組むことができるでしょう。
失敗から学び、次に生かせる
たとえチャレンジして失敗したとしても、極端に落ち込み過ぎず、「次はどうすればうまくいくか」を考えることができます。失敗から何かを学び、次に生かすことはビジネスにおいて非常に重要な要素です。失敗してもすぐに立ち直り、前向きに次の業務に取り組んでいくうちに、ポジティブな発信が増え、新たなチャレンジや良い結果につなげる可能性が高くなるでしょう。
モチベーションの高い状態を維持できる
自己効力感が高ければ自分の考えや行動の軸をしっかり持っています。ビジネスでも何かトラブルが起きた時でも、あわてずに自分の頭で考え、柔軟に対応することができるでしょう。また自分に必要なものが何かを把握し、能力を向上させるための努力をし、モチベーションを高い状態で維持することができます。モチベーションの高い人は周囲への影響も大きく、会社にとって不可欠な人材として活躍できるでしょう。
5.自己効力感の要素とは
結果予期
「結果予期」とは過去の経験や知識をもとに、特定の行動の結果を予測し、推測することです。
ビジネスでの一例をあげてみましょう。たとえば新規事業に取り組んでいる部下が仕事に悩んでいる時、上司として次のように対応したとします。
- 部下の抱えている問題についてじっくり話を聞く
- 自分の言葉で説明させることで問題を整理できるように促す
- 自分で解決策に気づけるようにヒントを与える
こうした行動は、それまでの自分の経験を踏まえた「結果予期」になります。
効力予期
「結果予期」に対して「効力予期」とは、ある結果を導き出すために必要な行動ができると確信を持つことです。さきほどのビジネス上で悩む部下に対する行動として、
- 部下が抱えている問題を言葉にして整理させることができる
- 整理した内容にアドバイスを加えれば、部下はさらに意欲的に業務に取り組めるようになる
- 自分は部下の抱えている問題の本質を引き出すことができる
という確信を持って対応することができるでしょう。
6.自己効力感が決定される要因
自己効力感の高い・低いは、5つの要因によって決定されるといわれています。
では、具体的に自己効力感を決定する5つの要因とは何なのでしょうか?以下では、ビジネスシーンでの具体例を挙げながら、5つの要因について説明します。
達成経験
達成体験とは、自身が過去に達成したり、成功した経験のことを指します。例えば、初めて営業をかけたときに契約を取れた経験があると、「今回の営業も上手くいくだろう」と思えるでしょう。
代理経験
代理経験とは、自分ではない他人の達成経験や成功経験のことを指します。
例えば、同僚のAさんがプレゼンで上司に褒められたのを見ると、「Aさんにできるなら私にもできるかもしれない」と思えるでしょう。
言語的説得
言語的説得とは、自分自身に能力があることを言葉で説明することを指します。
例えば、資料の作成の締め切りが迫っていたとしても、「今日は何時間作業に充てられる、明日は何時間作業に当てられる」と自分の言葉で説明できると、締切にしっかり間に合うと確信できるでしょう。
生理的情緒的高揚
生理的情緒的高揚とは、自分自身の体調や精神状態のことを指します。
例えば、彼女から振られたばかりのときには、直接仕事には関係がないにもかかわらず「たぶん、仕事も上手くいかないんだろうな」と思ってしまうでしょう。
想像的経験
想像的経験とは、自分あるいは他者の成功や失敗を想像することを指します。
例えば、来週に商談を控えていて「商談が上手くいくイメージ」が想像できると、商談が上手くいくような気がしてくるでしょう。
7.ビジネスパーソンが自己効力感を高めるための取り組み
では、具体的にどのようにして自己効力感を高めれば良いのでしょうか?
自己効力感が高ければ仕事は上手くいくと分かっていても、なかなか気持ちは変えられないものです。ぜひ以下の取り組みを実施して、自己効力感を育てていきましょう。
小さな成功体験を積む
スポーツを対象にしたある研究によると、ポジティブな経験が選手のパフォーマンスを高めるという結果が報告されています。これは、スポーツだけでなくビジネスなどのあらゆることにも共通することです。
具体的には、どんな小さなことでも良いので宣言して達成するという方法が挙げられます。「今から30分で仕事を終わらせる」「今日は休憩に3回しか行かない」など、何でも良いのです。「達成した」という事実が積み重なるほど、大きな目標にも向かっていけるようになります。
ネガティブな感情を意識的にポジティブに変換してみる
人間の脳は、他人からの言葉と自分自身の言葉を区別できないといわれています。すなわち、自分自身にかける言葉をポジティブにすることで、褒められているのと同じように脳は認識してくれるのです。
具体的には、仕事で失敗したときの自分への言葉がけを気を付けます。「失敗してしまった」→「今失敗しといてよかった」。「もうダメかもしれない」→「次は失敗を活かそう」。ネガティブな感情になったときこそ、ポジティブに言えないか考えてみましょう。
身近な成功者をよく観察してみる
自分自身の実体験がなくても、身近にいる上司や先輩などをロールモデルにする「代理経験」とも言われる方法もあります。
身近にいる人の中から、自分が身につけたいと思っているスキルでうまくいっている人を見つけます。自分自身と近しい人のため、類似性を感じやすく想像しやすいからです。次に、「どうやってそのスキルを身につけて成功したのか」「どんな困難があって、どう乗り越えたのか」といった成功のプロセスを聞きます。それを自分の体験に当てはめて「自分にもできそう」というイメージを作り出すことができます。
健康体を目指す
健康体であることは、自己効力感に大きな影響を与えます。実際、筋トレをすることで自分に自信が付くという研究結果も出ています。これは身体の健康だけでなく、精神的な健康にもいえることです。
具体的には、マインドフルネスを取り入れてみると良いでしょう。簡単にいえば瞑想なのですが、気持ちを落ち着かせて健全な精神状態を作ることができます。マインドフルネスについては様々な書籍で紹介されているので、興味のある方は調べてみてください。
自分が成功しているイメージを常に持つ
自分が成功しているイメージを持つことは、現実に成功することに繋がります。これはプラシーボ効果とも呼ばれているもので、想像しているうちに実際に成功するような気になってしまうのです。
具体的には、夜寝る前と朝起きたときに自分が成功する姿をイメージしてみてください。夜寝る前に良いイメージを持っておくと気持ちよく眠りにつけますし、朝良いイメージをしておくと前向きに仕事に取り組むことができます。イメージをしているうちに実際の行動にも良い影響が出てくるでしょう。
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9. まとめ
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