普段何かトラブルが起きた際、自分を必要以上に責めてしまうなど、自己に厳しくしてしまうことはありませんか?ビジネスシーンにおいても、少しのストレスで過度なダメージを受けてしまうようなことはありませんか?
今回は、「ありのままの自分」を肯定的に受け入れることでビジネスや人生に好循環をもたらす「セルフコンパッション」について解説します。
セルフコンパッションとは?
米国テキサス大学のクリスティン・ネフ准教授が提唱する「セルフコンパッション」とは、「self=自分自身」と「compassion=思いやり、慈悲」を合わせた言葉です。「愛する人に対する思いやりや、労りと同じ気持ちを自分自身にも向け、状況に関わらず自分を素直に受け入れること」と説明しています。つまり、自身の「強み」や「弱み」を認め、どんな状況下でも「ありのままの自分」を肯定的に受け入れることです。
セルフコンパッションは、フィジカルとメンタルの良好さ(ウェルビーイング)両方に影響を与えることが学術的にも証明されており、ストレスや不安に捉われず困難を乗り切る力として、ビジネスシーンでも重視されています。
セルフコンパッションの構成要素
セルフコンパッションは、3つの要素から構成されると考えられています。
- 自分の強みや長所を受け入れ、自らを慈しむ「自分への優しさ」
- 失敗や困難の経験は誰にでもある、という肯定的な認識をする「共通の人間性」
- 心を今に向け、慈悲と慈愛の気持ちを高める「マインドフルネス」
の3つです。
日本でも流行しているマインドフルネスは、セルフコンパッションと対をなす考え方です。
セルフコンパッションの例
例えば、自分が重要なプロジェクトのリーダーを任され、精一杯努力して業務を遂行しました。だが、結果が出せずに異動を命じられてしまいました。
このような出来事が起きた場合、まず、自分に対してどんな感情を抱くか、もしくはどんな言葉をかけるかを想像してみましょう。
次に、同様の出来事を、友人が相談事として話してきた場合、どんな感情を抱き、どんな言葉をかけるか、想像してみてください。
結果、自分と友人では、感情や言葉に差が出たのではないでしょうか?自分に対しては「努力不足だった」「自分はそんな器ではなかった」など否定的な気持ちを抱き、友人に対しては「経験を次に活かせる」「あなただけの責任じゃない」など肯定的な言葉をかけませんでしたか?
このように、自分と他人が同じ良くない状況に陥ったときに、自分自身にかける言葉と、他人にかける言葉で違いがあれば、セルフコンパッションに取り組むことに意義があるかもしれません。
セルフコンパッションの効用
セルフコンパッションを実践して得られる効用は大きく3つに分けられると、関西学院大学文学部総合心理学科の有光興記教授は解いています。
幸福感を高める
セルフコンパッションが高い人は、ポジティブな感情や楽観的な思考、感謝の念を備えています。人生に対し満足を感じやすいです。
ストレスを減少させる
ありのままの自分を受容するため、不安感やストレスが少ない傾向にあります。心の健康により体の健康も維持します。
レジリエンスが高まる
自分の身に起きた苦境や逆境に対し、粘り強く立ち向かうレジリエンス(精神的回復力)を育み、高められます。困難に直面し、精神的ダメージを受けたとしても、自分を肯定するエネルギーに意識を向けられます。
ビジネスにおけるセルフコンパッションの実践
ビジネスシーンにおいても、日々セルフコンパッションを実践していくと、本来の自分に基づいた行動が取れるようになり、心身も良好に保てるといったことがわかってきています。その結果、仕事のパフォーマンスを向上させ、組織風土を改善させるなどの効果が認められています。
また、組織のリーダー層に必要な能力の1つである「オーセンティシティ(あるがままの自分であること)」や、スポーツのパフォーマンス、健康維持などにもセルフコンパッションとの関連があると研究で示されつつあります。
セルフコンパッションを高める方法
セルフコンパッションは、習慣づけて日常に取り入れることで、誰でも高められます。ここではすぐに実践できる7つの習慣を紹介します。
1)リマインド・ペーパーを貼る
セルフコンパッションの考え方を知っていても、いざ辛い状況になると自己否定の感情が優先されてしまい、セルフコンパッションを思い出せない心理状態になりえます。そこで、いつでも思い出せるように、「セルフコンパッション」と紙に書き、家の中や職場のデスクなど、1日で長く過ごす場所や目立つ場所に貼って視界に入れるようにします。そうすれば目に入る度にリマインドされ、心理状態に関わらず実践しやすくなります。
2)慈悲と慈愛の瞑想
科学的にも効果が証明されています。リラックスできる姿勢で瞑想を行い、心を落ち着かせ、自らの中にあるパワーを呼び出します。ひと呼吸ごとに以下のワンフレーズを思い浮かべ、心に沸き起こる感情や思考を捉えます。
私は幸せでありますように
私の悩み苦しみが無くなりますように
私の願いごとが叶えられますように
私の親しい人々が幸せでありますように
私の親しい人々の悩み苦しみが無くなりますように
生きとし生けるものが幸せでありますように
生きとし生けるものの悩み苦しみが無くなりますように
私の嫌いな生命も幸せでありますように
私の嫌いな生命にも悟りの光が現れますように
3)簡単に取り外せるアクセサリーを身につける
ブレスレットや時計、指輪、髪ゴムなど、手元に付けられるものさえあればできる、手軽な方法です。
ストレスを感じたり、不安な気持ちが芽生えたら、付けていた手から反対の手に付け替えます。アクセサリーを付け替える動作に合わせて、自分を客観視できる状態へとスイッチできます。
4)コンフォートカードを持ち歩く
自分に批判的になるような状況があれば、茶色など暗い色のカードにその内容を書き出します。それに対して自分を慰めるメッセージや励ましの言葉を思い浮かべ、カラフルなカードに書き出します。後者のカード(コンフォートカード)を常に持ち歩き、再度同じような状況に陥ったとき、カードを見るようにします。
過去の傷を薬となる言葉で上書きしていくことでトラウマやしがらみから解放されるため、本来の自分を取り戻すのに効果的です。3週間ほど持ち歩くのが目安です。
5)セルフコンパッションフレーズを唱える
セルフコンパッションの3つの要素、「自分への優しさ」「共通の人間性」「マインドフルネス」それぞれにオリジナルのフレーズを作ります。
自分への優しさ
→例「私は自分に優しくできる」
共通の人間性
→例「生きていれば、時には困難なこともあるもの」
マインドフルネス
→例「ストレスに対して、今自分は不安や苛立ちを感じている」
困難な状況の時、こうしたことを唱えることで、セルフコンパッションが自然と身につきます。スマートフォンのメモアプリなど、見たい時にすぐ見られるように記録しておきます。
6)コンフォートジェスチャーを決める
苦境に置かれた時に、リラックスできるジェスチャーを決めておきます。例えば、胸に手を当ててゆっくりと大きく深呼吸をしたり、手で肩をもみほぐしたりするなど、心と体の緊張をほぐす動作が良いでしょう。副交感神経を活性化させ、気持ちが落ち着きます。
7)コンパッション日記をつける
1日を振り返り、ネガティブな思考になった理由やきっかけとなった事象、セルフコンパッションに基づいて行動できたこと、行動できず改善したいことなど、日記に書いておきます。こうすることで、自分への思いやりのある思考や行動がうまくできるようになっていきます。、そして、日記を振り返った時に、成長過程を実感できるきっかけになるでしょう。
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まとめ
セルフコンパッションとは、自分に対し温かい感情や優しい言葉をかけることで、「ありのままの自分」を肯定的に受け入れられる心理状態のことです。困難な状況にあっても、自分で自分を持ち直せれば個人からチーム、組織へと良い効果をもたらします。セルフコンパッションを研修などに取り入れると、個の意識を変えるきっかけにもなるのではないでしょうか。