ポジティブな感情を感じる時間が増えれば、1人ひとりのウェルビーイングや幸福度が高まりそうですね。一方で誰でもネガティブな感情を持っているため、不安や怒り、悲しみに引きずられてしまうことも当然あるでしょう。
今回は、さまざまな感情のうち、主にネガティブで扱いにくいとされている怒りに焦点を当て、扱い方のポイントや怒りを問題解決につなげるコツ、怒りを適切に扱う効果についても紹介します。
ポジティブ感情とネガティブ感情
ポジティブ感情とは?
幸福の5つの要素の重要な概念であり、ウェルビーイングでも重視されているポジティブ感情。具体的には明るさや快感、愛、ぬくもり、希望、自信、感謝といった感情のことです。
フレドリクソン教授は、ポジティブ感情を喜び、感謝、やすらぎ、興味、希望、誇り、愉快、鼓舞、畏敬、愛の10種類に分類・整理しています。日常的・持続的にこれらの感情を感じることがウェルビーイングの高まりにつながっていくことは、容易に想像できます。
ネガティブ感情とは?
ネガティブ感情とは、具体的には怒り、恐れ、不安、悲しみ、失望、羞恥心、罪悪感があります。ネガティブ感情は、生存のために闘うか逃げるかの準備を整えるためにも有効だと言われますが、多く感じるとストレスを感じたり、行動の選択肢の幅を狭めてしまうこともあります。
ネガティブ感情はできるだけ感じずにすませたいと思う人も多いでしょう。しかし、怒りや悲しみをなかったことのように扱っても、消えてくれるわけではありません。ほとんどの人はネガティブ感情を心の中に閉じ込めようとしたけれど、結果としてネガティブ感情に振り回されたという経験があるのではないでしょうか。
ポジティブ感情を増やすとともに、ネガティブ感情も適切に扱う
幸福度を測定できるとするポジティブ心理学では、ポジティブ感情とネガティブ感情が3:1になるのが理想とする学説もあれば、1:1を目指すとする説もあります。
ネガティブ感情の比率が多いと感じる人は少しずつでも減らしていくことが大事です。しかし不安や悲しみ、恐れや怒りの感情は減らしたいと願っても、消え去ってくれるものではありません。日常でも仕事やビジネスでも、ネガティブ感情に振り回されないよう、適切な扱い方を学ぶことも大切なのです。
怒りの扱い方
今回は、ネガティブ感情の代表格、怒りの感情を扱うポイントを紹介します。
自分の怒りの気持ちをよくよく観察してみると、怒りの原因は認めてもらえない悲しみだったり、不安や恐れが怒りの形をとって現れることもあります。
怒りの感情を切り口として、自分の内面やコミュニケーションの課題を見つめてみましょう。
怒りの経験をリストアップ
まずは自分が経験した怒りの場面を思い起こし、リスト化してみましょう。小さいものから大きいものまで、思いつくまま書いてみます。
「状況」と「その時の自分の感情」、「相手の感情」もメモしておきます。
それぞれの経験について、自己分析をしていきます。この時、あまりに怒りが大きくて、自分の手には負えないと感じているようなものは後回しにしましょう。最初から難題に取り組むと、挫折してしまう可能性があります。セルフケアやトレーニングでは、まずコツをつかみ、自分にもできるという自信を持つことが大事です。
自分の怒りのパターンをつかむ
リストにあげたそれぞれの怒りのケースについて、次の5つのポイントでふりかえってみましょう。
自己分析を繰り返すと、自分の怒りのパターンが見えてきます。パターンがわかれば、対処法も見えてきます。
ポイント1 あなたの怒りは外向き?内向き?その怒りをどのように扱ってきたか?
たとえば、忙しい時期に限ってシフトを急に変わって欲しいと言ってくる同僚がいたとします。その時、あなたは自分が感じた怒りにどう対応していますか。
相手や周囲に対して怒りを表現する場合は外向きタイプ、怒っていても相手や周囲に対して表現しない場合は内向きタイプです。
怒りを我慢しても、表情や態度にでることはあります。
ポイント2 怒りの大きさはどれくらい?
その時の怒りは大きいですか、小さいですか。10段階で表すとどれくらいですか。
ポイント3 怒りが生じて大きくなるときのスピードは?
怒りが生じるスピードにも注目。「カッとなる」という言葉があるように、瞬間的に大きくなりましたか。それとも自分では気がつかないうちにゆっくりと大きくなってしまいましたか。
ポイント4 怒りの引き金は?
怒りのきっかけを思い出してみましょう。何が引き金(トリガー)となって、怒りが湧き起こりましたか。
同僚がシフトの交代を頼むときはいつも腹立たしいのでしょうか。それとも、今回は何か気に触る言動があったからでしょうか。
ポイント5 どんな信念や価値観があなたの怒りを駆り立てているか?
あなたの中に「自分のことは自分でやるのが当然」という価値観があり、そうしない同僚に対して怒りが湧いたのでしょうか。または「人は尊重されるべき」であり、尊重されていないと感じたから怒りが湧いたのでしょうか。
怒りを大きくしないためのコツ
生じた怒りは、そのままにしておくとどんどん大きくなってしまいます。
怒りが生じた時の「イラッ」とした程度なら落ち着いて大人の対応をとることが可能。
しかし、急速に怒りが大きくなり「爆発」レベルまで達してしまうと、後で後悔するような対応になってしまうこともあるでしょう。
または、気づかないうちに内在化が進み、我慢が苛立ちに変わり、次第に無気力になってしまうケースもあります。
早い段階で怒りに気づくことができれば、適切な対応で解消する可能性が開けます。
ここでは、怒りにすばやく気づくためのコツを紹介します。
怒りのサインを見過ごさない
ネガティブな感情はできれば感じたくないと誰もが思います。しかし、見ないふりに慣れてしまうと、自分の感情に気づきにくくなります。
怒りのサインは、頭や心で気づくより早く、体に現れます。サインは手やひざが震える、鼓動が早くなる、無口になる、舌打ちをするなど、人によってさまざまです。
普段から意識しておくと、ふいに怒りのサインが生じた時もさっと気づいて対応することができるようになります。
落ち着くための方法を持っておく
ふいに生じた怒りに気づいたら、それ以上大きくしないことが大事です。自分なりの落ち着き方を事前に考えておくと、いざというときに有効です。
落ち着く目的は、怒りを失くすことではありません。怒りの感情が大きく膨らみ、後で後悔するような暴言を吐いてしまったり、物や相手にあたってしまう危険を避け、適切な対応や問題解決につなげるためです。
落ち着き方にはいろいろあります。深呼吸やセルフトーク、カウントダウンなどは、どんな場面でもすぐにできます。他にも気持ちを切り替えられる音楽を頭の中で流すなど、自分に合う方法を用意しておきましょう。
すぐに扱うのが難しい問題なら、いったんその場から離れたり、時間を置くのも有効です。
まとめ
ネガティブ感情をマネジメントできるようになると、些末なモヤモヤから解放され、仕事にも没頭しやすくなる、職場での人間関係の改善など、ウェルビーイングにつながるメリットがたくさんあります。怒りや恐れに振り回されないためには、自分の怒りのパターンや扱い方を押さえて、マネジメントすることが大切です。さらに、アサーショントレーニング(自分の意見を、相手も自分も尊重しながら伝えるトレーニング)につなげていくと効果的です。