仕事における幸福感とはどのようなことをいうのでしょうか。従業員満足度を高めるために、報酬や待遇、職場環境など、外的な要因についての改善だけでなく、近年では仕事そのものの充実感や幸福感を高める取り組みが進んでます。
今回は、ポジティブ心理学やウェルビーイングの取り組みでもよく引き合いに出される「エンゲージメント」や「フロー」という概念について紹介。
働く人1人ひとりが主体的に、没頭して仕事を楽しむために、フローな状態に入るための条件やコツについても解説します。
フローな状態とは?
フローとは?
夢中になって、時間も忘れて遊びや作業に没頭した経験はありませんか。
またスポーツや演奏をする人なら、いつもより研ぎすまされたような感覚で集中でき、高いパフォーマンスを達成できたといった経験はないでしょうか。
その時の気分や感覚を覚えていますか。きっと高揚感に包まれた、幸せな時間だったのではないでしょうか。
上の例のように、活動をしている人が充実した気分で、リラックスして集中している状態のことをフロー状態といいます。
フローとは、アメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイが1975年に提唱した概念で、スポーツなどの分野の他、ポジティブ心理学やウェルビーイングを高める取り組みの中でも注目を集めています。
「フロー」という命名の由来は、この状態についてチクセントミハイがインタビューした人々の多くが「川の流れ(フロー)に乗っているような感覚」と表現したことによるそうです。
フローに入ることのメリット
フロー状態で仕事や活動を行うと、集中力が高まり、生産性や創造性、パフォーマンスも上がりやすくなります。そのため達成感を感じられるとともに報酬アップにもつながりやすく、仕事の満足度も上がります。自分で物事の舵取りをしている感覚や自己有能感も高まります。
フローな状態に入る条件
フローな状態に入ることによって仕事の満足度や幸福度を持続的に高めていけそうですが、では具体的にはどのようにすればよいのでしょうか。
ミハイチクセントは、フローに入る条件を次のように整理しています。
1. 目標が明確である
何をどのように行うか、はっきりとわかっていると、フロー状態に入りやすくなります。
2. 物事がうまく進んでいるか確認できる(即座にフィードバックが得られる)
チャレンジしたことの結果が即座にわかるほうが達成感や自信を得られやすく、より高いレベルへのチャレンジや集中につながります。職場では互いにフィードバックしあえる仲間や上司を持ったり、自分からも報告や相談の機会を作ることが大切です。
3. 活動の難易度とスキルのバランスが適切
難易度が高いけれど自分のスキルが追いつかない仕事は「不安」が大きく、プレッシャーに押しつぶされてしまう可能性が高くなります。
難易度が低く、自分のスキルも低い仕事には「退屈さ」を感じます。
難易度が低く、自分のスキルは高い仕事は、「リラックス」した状態で取り組めますが、フローな状態にはなりにくいです。
自分のスキルも高く、手に負える範囲で難易度も高い仕事は、適度な緊張感を保ちながらも自分の力を試そうと集中力が高まり、フロー状態に入りやすくなります。
4. 自分はもっと大きな何かの一部であるという感覚
仕事は自分一人で完結するものではありません。同じミッションを持って取り組む人とのより大きなつながりの中で、自分が仕事や役割が目標に貢献していることを意識することが大切です。
5. その場をコントロールしている感覚、自己有能感を持っている
自分自身が舵を取り、主体的にコントロールしているという感覚は、エンゲージメントやフローの状態づくりにとって重要な要素です。ゲームをしている子どもの集中力の高さには目を見張りますが、それはコンテンツだけでなく、自分が操作して物事を進めることが楽しいからでもあるのです。
また、主体的に舵を取る中で「できた」という感覚を味わうことは、自信や自己有能感につながり、より物事を追求する持続的フロー状態を作りやすくしてくれます。
6. 日頃の現実から離れられる(自己、時間、周囲の状況を忘れられる)
日常の些末なことが頭から離れず、なかなか仕事に没頭できないという人もいるのではないでしょうか。
フローな状態では、時間や悩み、自分が集中していることすら忘れて没頭できます。仕事に没頭できている間は、生活の不安や人間関係も頭によぎらないので、メリハリがつき、生産性も高まるでしょう。
7. 活動に本質的な価値を見出しているため、活動が苦にならない
自分が価値を感じている仕事は苦にならず、フローな状態で夢中になって取り組みやすいものです。もし仕事や活動そのものが苦になっている場合は、今一度その仕事の意義や価値、どんな使命があるかを見直してみるのも大切です。
すべての条件がそろえばベストですが、難しい場合は少しずつでも意識的に条件を整えていくとよいでしょう。
フローな状態に入るコツ
7つの条件を見直したり整えたりするほかにも、日常で取り組めることを紹介します。
フロー体験をイメージする
自分の経験を思い起こした時、フローを体験したことはあるでしょうか。ある場合は、その時の感覚を思い出してみましょう。
その時の環境条件や心身の状態までくわしく思い出し、仕事の環境を整える際の参考にしましょう。自分はどんな環境、どんな条件があれば高い集中力を発揮できるか、書き出してみましょう。
適度な緊張感を保つ
スポーツや芸術表現などの分野では、フローな状態に入ることを「ゾーンに入る」と表現することがあります。ゾーンに入ってここぞというところでゴールを決めたり、人前でも高いレベルの演奏を行える人は、緊張でガチガチになったりはしていません。かといって完全にリラックスしているわけでもありません。
普段できることを試合や人前などプレッシャーのかかる場面でも行うためには、適度な緊張感を保つことがポイントです。ビジネスの場面でも同様のことがいえます。
自分で心身の緊張と弛緩をコントロールするときに最も簡単で最も役立つのが呼吸法です。深呼吸しながらそこに意識を向けて集中状態を作ったり、大きく息を吐いて高まりすぎた緊張感を緩めるときにも効果的です。
ほかにも、自分なりに緊張感とうまく付き合うコツを見つけておくと、さまざまな場面で役立ちます。
集中しやすい環境を整える
いったんフロー状態に入れば、周囲の刺激や雑念は気にならなくなりますが、それまでの段階、とくにエンジンがかかっていない段階ではさまざまな刺激や雑念が気になるものです。
集中を妨げそうなものは片付ける、デジタル通知は時間を決めてオフにするなどの対策も効果的です。
また、仕事に必要な道具などは取り出しやすいように整えておくと、集中しているときに道具を探す手間で集中がそがれることもなくなります。
無理や焦りは不要
方法はわかったけれどなかなかフローな状態に入れない、フロー体験はあるけれど再現できないということもあるでしょう。イメージ通りのフロー状態に入れなくてもやっきになったり、焦ったりする必要はありません。プロのアスリートや演奏家であっても、いつでもフローな状態に入れるわけではなく、常に努力を続けているものです。
フローな状態に入ることが第一の目的ではありません。最も大事なことは、今、自分が抱えている仕事の満足度や達成度、自信を高めること。そのために条件を整えることを続けた結果、フローな状態に到達しやすくなるのではないでしょうか。
フローを体験できなかったとしても、条件を整えるだけでも集中力や仕事の質は充分高まっているはずです。焦らず、仕事の充実度を高める取り組みを習慣化していきましょう。
まとめ
今回は、ポジティブ心理学の幸福の5つの要素:PERMAのうち、「E:エンゲージメント」に関わる「フロー」について、その意味や没入状態への入り方のコツを紹介しました。
一日の大半を占める働く時間。仕事に夢中に取り組め、高揚感や幸福感を味わえる時間になると素敵ですね。
また、フローな状態では生産性や創造性も高まります。気分の向上だけでなく、仕事の効率や報酬アップにもつながり、ウェルビーイングが目指す肉体的、精神的、社会的と総合的に満たされた状態を実現しやすくなるでしょう。