仕事で困難な状況に直面したとき心が折れやすい、マイナス感情を引きずってしまう、そんな悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。困難な状況を避けて通りたくても、ビジネスにも日常生活にも困難はつきもの。避けたり逃げたりしていては、かえってストレスをため込んでしまいます。
そこでこの記事では「弾力性」や「回復力」という意味を持ち、ビジネス分野の人材育成にも導入されている「レジリエンス」に注目。困難があっても素早く回復して前に進めるよう、レジリエンスを身につけるためのポイントも紹介します。
折れない・引きずらない人のメンタルー「レジリエンス」
折れないメンタル「レジリエンス」とは?
心理学の分野でレジリエンスが注目され始めたのは、ホロコーストを生き延びた孤児たちの研究においてでした。その後、児童教育の分野や、暴力を誘発せずに自分の気持ちを主張するアサーショントレーニングにおいてもその概念が取り入れられてきました。最近ではかつてない変化の速い時代の中で、困難や危機的状況に柔軟な対応を求められるビジネス分野でも注目されています。リーダーはもちろん、社会人になりたてで自信を喪失しがちな新人を対象としたレジリエンス研修が積極的に導入され、多くの人に認知されるようになりました。
ビジネスシーンでレジリエンスを身につけるメリット
レジリエンスは、つぶしてもすぐに元に戻るボールや、強風の中でも折れないしなやかな植物に例えられます。ビジネスパーソンがレジリエンスを身につけるメリットはたくさんあります。
・ありのままの自分を受け入れ、自己肯定感を高めることができる
・ストレスとうまく付き合えるようになる
・落ち込んでも復活が早いので、引きずらない
・ミスや失敗があっても前向きに乗り越え、自分や組織の成長につなげられる
・困難な状況にも柔軟に対応できる
・失敗をおそれず、チャレンジしていける
レジリエンスはトレーニングで、スキルとして鍛えることができる
多くの人は、心が折れる・引きずる原因は性格にあるので変えられないと考えがちです。それでは自己否定感を強めてしまうだけです。レジリエンスはトレーニングで、スキルとして鍛えられるということが重要です。
トレーニングのコツは、自分が変えられることにフォーカスすること。個性や自分らしさを大切にしながら、折れにくい・引きずらないメンタルを身につけていくことは、個人にとっても、多様性のある組織づくりにおいても重要なポイントです。
3STEPで今すぐ始められる、トレーニングのポイント
レジリエンスは知識理解にとどまらず、学びを生活や職場で繰り返し応用して、効力感を高めることが大事です。ここではトレーニングの3つのステップのうち現状分析を中心に紹介しますが、気づきを生活や職場でどんどん実践してみてください。
STEP1 現状分析
‐ここから始めよう!今の飾らない「わたし」についてふりかえる
心が折れやすいと悩む人の多くは、それを周りに悟られないよう虚勢を張ってみたり、反対に目立たないように引っ込んでしまったりすることもよくあります。その行為自体がありのままの自分を否定してしまう危険をはらんでいます。いいところも悪いところも含め、飾らない今の自分を俯瞰することからスタートしましょう。方法は簡単で、自分の長所や強みのリストを作ります。短所や弱みしか思い当たらない人は、リフレーミングという手法で短所を長所に言い換えてみましょう。「短気」なら「決断力が早い」、「優柔不断」なら「物事を吟味する」というように、ポジティブな言い方に変えるだけです。リストは保管しておき、トレーニングの最中や終了時に見直してみましょう。その時には「わたし」の新たな側面が加わることでしょう。
‐自分が陥りやすい思考パターンをふりかえる
心が折れやすい・引きずりやすい人のものの見方・考え方には、次のような傾向があると言われます。自分に当てはまりそうなものはないでしょうか。
・完璧主義
・まだまだ主義
・何事も自分のせいだと思い込む
・失敗を反芻する
・失敗が怖い
・失敗を致命的なものと捉える
例えば同じミスをしても、「まあ、いいか」「次は気を付けよう」とすぐに気持ちを切り替えられる人もいれば、「また叱られた」「私のせいだ」と引きずる人もいます。完璧に物事を進めたいという気持ちはすばらしいですが、それが仇となってストレスをため込んでしまうのなら見直しが必要です。
‐出来事の捉え方を変えてみる
心が折れそうな出来事が起こった時、マイナスの感情に囚われてしまうと、回復に時間がかかります。起こった出来事そのものは変えられませんが、それに対する捉え方や評価の捉え方や感じ方は変えられます。心理学者のエリスが提唱したABCD理論を使って、心が折れてしまった出来事を見直してみましょう。
A(Activating Event)=状況 出来事
B(Belief)=出来事の受け取り方 ものの見方
C(Consequence)=Bの結果として生じる感情、言動など
D(Dispute)=非合理なBに対する反論
書類のミスを上司から叱られ、落ち込んだとします。その時に「A:ミスを叱られた」ので「C:落ち込んだ」と考えがちです。その時に「B:ミスは致命的で低評価につながる」という思い込みのせいで、「落ち込み」や「自信喪失」という結果が生じたのかもしれません。Bで「ミスの指摘は改善や成長のチャンス」という見方ができれば、おのずとCも前向きに変わります。過去の心が折れた経験をリストにして、Bで非合理な思い込みが見つかった場合は、Dで解釈を変えていくことが大事です。
STEP2 レジリエンスを味方につけた、なりたい自分や組織をイメージする
現状分析での気づきをもとに改善案を考え、しなやかなメンタルを身につけた自分や組織の未来をイメージしてみましょう。そのイメージを目指して、実践にとりかかりましょう。
STEP3 よいパターンを習慣化する
分析で見えてきたよりよい思考や行動のパターンを職場に応用してみましょう。長年繰り返してきた思考や行動のパターンは、無意識的・反射的に出てしまうものです。焦らず、じっくり、小さな変化を楽しみながら進めましょう。実践中に役立つポイントも紹介します。
‐記録をつけて、気持ちや行動の変化をモニタリングしてみる
一つひとつ前向きな変化を実感しながら進めていくと、自信につながります。日記や記録をつけると小さな成果も見逃さず、よりよい修正案を考えることにも役立ちます。先に紹介したADCD理論の枠組みに「E(Effect)=Dによる効果」をプラスし、非合理な思い込みを変えてみた結果、どんな変化があったかまでチェックするのもおすすめです。
‐物事を引きずらないためのルールを決めておく
気持ちを切り替えるのが苦手な人は、マイナス感情を引きずらないためのマイルールを決めておくのもおすすめです。以下は一例です。
・どんな時でもご飯は食べる
・瞑想の時間を設ける
・気持ちの切り替えに役立つアイテムを使ってみる
・気持ちの切り替えに役立つBGMを心の中で流す
・不安が強い時は、周りの人に話して助けてもらう
周りの人と不安について話せる環境作りは、自分にとってもチームにとっても有効です。マイルールとして定着したら、チームルールに昇格させましょう。
まとめ:レジリエンスを身につけて、しなやかな自分や組織を目指しましょう
今回紹介したレジリエンスは、企業の研修でも導入実績が増えていますが、自分でもできるよう、概要とセルフでもできるトレーニングのポイントを紹介しました。自分自身がレジリエンスを身につけ、実践していくことで、チームや組織にもよい影響を及ぼすことができるでしょう。しなやかメンタルな自分やチーム作りの参考にしてください。