働く人にも取り組みやすいマインドフルネスのトレーニング第四弾は、自分をとりまく「環境」に意識を向ける方法を紹介。時間がないという人にこそ試してほしい方法を厳選しました。
第一弾のマインドフルネスの概要と「五感編」、第二弾の「からだ編」、第三弾の「関係性編」もぜひチェックしてください。
「環境」を意識化する効果と実践上の注意点
環境には、自然環境や社会的な環境、より身近なところでは職場や働いている場所の環境などがあります。私たちはその環境の中に身を置き、支えられていますが、思考で頭をいっぱいにしていると、それらに目を向ける余裕もなくなってしまいます。
今回紹介する手法だけでなく、①~③までで紹介した方法の多くは、子ども向けの環境教育の活動にも取り入れられています。環境教育は知識を詰め込むことでもなく、身近な環境を「今、ここ」に感じ、ありのままを受け入れることから始まります。
身近な環境を意識化することは、「心ここにあらず」の状態から脱却するマインドフルネスのヒントがたくさん詰まっているのです。
「今・ここ」に意識を集中するトレーニング~環境編
身近な環境から社会環境や地球環境までに目を向けることで、「今、ここ」に意識を取り戻すマインドフルネスの手法を紹介します。
トレーニングは継続的に行うことが大事。紙やスマホのメモ帳など、よく見る場所に実践する内容を書いて貼っておき、いつでも気づけるようにしておきましょう。
1.痕跡を残さないように暮らしてみる
1ヶ所場所を決めて、そこを使った痕跡を残さないようにします。たとえばキッチンなら、料理をした後は食べ物や食器だけでなく、匂いも残しません。完全にきれいにして、痕跡を一切残さずにその場を離れるようにします。
一仕事終えたら机の上は一度クリアにする、食べたらすぐに片付けることを習慣化している人もたくさんいます。一方で、気持ちはあるけれど、調理中や食事中、入浴中も次にやるべきことで頭がいっぱいで、原状復帰の余裕がないという人もいるでしょう。
このトレーニングでは今自分が身を置く環境に意識が向くとともに、「今すべきこと」から目を背け、「思考が一歩先の未来に行ってしまって」いることに気づかされます。また、そのためにのちの自分が過去にやり残したことの片付けからスタートせねばならないことに苛立ちを感じていることに気づく人もいるでしょう。
自分の怠け心を非難することが目的ではありません。よほどの人でない限り、なんらかの汚れや痕跡は残りますし、1人で抱え込まずに誰かの力を借りて身の回りをきれいにするのも生きていくための知恵です。
まずは砂浜を移動するときに、尻尾で地面を掃いて足跡を消していく亀のように、淡々と実践してみて、そこで得られる気づきや心境の変化に注意を向けましょう。
最初は意志の力が必要ですが、1ヶ所で続けて練習しているうちに、シャワーから出てすぐに排水溝の髪の毛を捨てるようになったり、起きてすぐにベッドを整えられるようになったりする人もいます。どんな心境の変化がその人たちを変えていったのでしょうか。
[ポイント]
慣れてきたら発展編として、「今よりもよりよくして立ち去る」に進んでみましょう。
2.木々に目をとめる
自宅やマンションの敷地に何本、どんな木があるか、すぐに言える人はどのくらいいるでしょうか。通勤や買い物の途中で木に目をとめることはあるでしょうか。
木々は生物の暮らしにとってとても重要な役割を果たして支えてくれているのに、多くの人にとっては当たり前すぎて風景の一部になってしまっています。たとえ網膜に映っていたとしても、本当の意味では見ていないのです。
ニュースで梅や桜の開花予想を聞いて季節の変わり目を知ることができますが、身の回りにある木々もつぼみをつけたり、葉の色を変えたりして、季節の移り変わりを教えてくれます。
また、どれも同じに見えるようで、一本一本の木にはそれぞれ特有の表情があります。樹種によって葉の形、枝の分かれ方、樹皮の手触りなどが違いますし、人間と同じで個体差もあります。
通勤途中で気になる木があれば、マインドフルネスを毎日実践するチャンスです。名前を付けて毎日挨拶するのもおすすめです。日々の変化に目をとめたり、この木がどんな旅をしてここに植えられたのか、ストーリーに思いを馳せてみましょう。
木の周りにいる虫や鳥など、人間以外の生物の存在に気づくこともあるでしょう。
[ポイント]
田舎であれ都会であれ、人間を含む生物にとって木は欠かせない存在です。自分につながる命と、今、同じ時間や場所を共有していることに目を向けることで、時には孤独な気持ちも癒してくれます。
また、身の回りのものや人としっかり向き合うトレーニングとしても有効です。
3.青い色を探す
青といえば空の色。たとえ今日が曇でも、雲の上には晴れ渡る青空が続いています。
「青い色を探す」というこのトレーニングは、職場や家庭などで狭い空間に長時間いても、そのことを思い出させてくれます。
やり方は簡単で、思考で頭がいっぱいになりそうな場所や場面で、目にとまるように「青い色を探す」というメモを貼っておきます。そして、メモに気づいたら身の回りにある青い色を探してください。空のような青だけでなく、ビビッドな青や微妙な色合いの青、他の色の中にも青みを感じ取ることもありでしょう。
このトレーニングは、職場でパソコンの画面に没入して仕事をしており、脳を休ませたくても頭の中がパソコン画面やそこで繰り広げられるさまざまな問題から離れられないときなどに効果的です。場所を変えてリラックスしたくてもできない状況でも、マインドフルネスを実践できます。
[ポイント]
仕事や生活では問題解決しないとならないことがたくさんあります。しかし、いつも心配で心がいっぱいになってしまうと感じているなら、パソコンの画面をいったん閉じて、青い空を見上げて心を解放するという選択肢があることも忘れないようにしましょう。気持ちの切り替えが苦手な人は、青色探しで心を問題思考から切り離して自由な気持ちを取り戻しましょう。
4.足もとに地球を意識する
②のからだ編では「足の裏を意識する」というトレーニングを紹介し、足の裏で感じる感覚に注意を向けてみました。
今回は、足の裏で踏みしめている「地球」の存在に意識を向けてみましょう。地球と書いたメモやイラストをいろんな場所に貼り、機会あるごとに地球を意識します。
私たちは1日中、地球の上を歩き回ったり車や電車で移動したりしていますが、どこに行ってもその足もとにあり生活の土台となっている地球の存在に目を向けることはありません。また、私たちの歩みとこの球体を結び付けている重力についてもまったく意識しません。
思考で頭がいっぱいにして日々を過ごしていると、心身のバランスは簡単に揺るぎます。足の裏の下には床があり、その下には表面上で何が起きても私たちを支え続けてくれる大地があることをしっかり意識しましょう。
地球は自らの表面で争いが起きても、楽しいお祭り騒ぎが行われても、動じることはありません。足の裏から根っこが伸び、動じない地球とつながっている状態をイメージしてみましょう。
[ポイント]
機会あるごとに足もとに地球を感じることで、よいことにも悪いことにも動じにくい心をつくるトレーニングです。さまざまな出来事や問題に感情が揺さぶられやすいと感じる人におすすめです。
5.食べものの背景や経路に思いをはせる
①五感編では「一口ずつ味わって食べてみる」トレーニングを紹介しました。環境編では食べものが私たちの食卓に届くまでの背景や経路に注目してみます。
何かを食べるときに、その食べものや飲みものがどこから来たのか、どれだけの人がどのように関わっているのか、想像力を働かせてさかのぼってみます。食事のたびに思い出せるように、食事をする場所にメモを貼っておきましょう。
コンビニやデリで買ってきた彩のよい惣菜の素材一つひとつが「今、ここ」に届くまで、調理した人、小売店のレジ係や商品管理の人、運送会社の運転手、包装する人、農家の人など実に多くの人の手を経て、たくさんのエネルギーをかけて作られていることに気づかされます。はるばる海を越えてきた食材もたくさん入っていることでしょう。牛や豚、鶏や魚は捌かれ加工される前にたくさんの命を食べて成長しています。
このトレーニングを実践すると、自分が数えきれないほど多くの命や人、エネルギーに依存していることに気づかされます。肉や魚を食べることを通して、人間はたくさんの命のエネルギーを取り込んでいることにも気づかされます。
[ポイント]
感謝の気持ちは礼儀作法として教えられるより、マインドフルネスに食べものと向き合うことで湧きやすくなります。目の前にはない人やシステムに支えられていることに気づくことで、自分にどんな心境の変化が生まれるか、ふりかえってみましょう。
まとめ
「心ここにあらず」な状態では、身近な環境に目が向かないものです。しかし、身の回りの環境に意識を向けることで、過去や未来にワープしてしまいがちな心を「今、ここ」に連れ戻すことが可能です。
マインドフルネスは即効性のある薬ではありませんが、日常的に取り入れることで、たくさんの気づきと効果を実感できるようになります。
自分や身の回りとのつきあいは一生続くもの。焦らず、じっくり続けていきましょう。
参考:ジャン・チョーズン・ベイズ著 『「今、ここ」に意識を集中する練習 心を強く、やわらかくする「マインドフルネス」入門』 日本実業出版社