ストレスの軽減や集中力アップにも効果があるといわれるマインドフルネス。近年では従業員のメンタルヘルスやウェルビーイングの向上を目的とした企業研修にも導入されるようになりました。
今回は、働く人にも取り組みやすいマインドフルネスのトレーニングから、自分のからだに意識を向けて「今、ここ」に立ち戻る方法を紹介します。
マインドフルネスとは?
過去への後悔や未来への不安のない人などいません。しかし、いつも雑念にとらわれ、今、目の前にある大切なことに手がつかなくなってしまうようなら、注意が必要。
過去や未来、起こってもいないことを空想することにエネルギーや時間を費やしてしまうなら、「今、ここ」に立ち戻るためのマインドフルネスのトレーニングが有効です。
「からだ」に注目する効果
人間は夜は寝てからだを休めますが、その間もからだの各部や臓器などは年中無休で働いています。
また、からだは頭や心が感じるより早く、不安や恐れ、怒りを感知して反応します。
思考の力で抑え込もうとしても、とても素直な心の声をからだは教えてくれます。
そんなからだの動きに注意を向けることで、暴走しがちな思考の力を和らげて「今、ここ」に意識を向け、「心の声」に耳を澄ますことができるようになるのです。
「今・ここ」に意識を集中するトレーニング~からだ編
今回はマインドフルネスのトレーニングの数々から、自分の「からだ」に意識を向けるトレーニングを紹介します。
トレーニングは期間を決めて継続することが大事です。紙やスマホのメモ帳など、よく見る場所に実践する内容を書いて貼っておくと、忘れずにすみます。
また、やってみてどんな気づきがあったか、どんな気持ちがしたか、しっかりふりかえりの時間を持ちましょう。
マインドフルネスの基本や効果、五感に意識を向ける方法も参考にしてください。
1. 手に感謝しよう
手の動きに注目、観察してみましょう。
手は、いちいち指示を出さなくても、非常に複雑な仕事を日々こなしてくれています。
右手と左手が協力して仕事をするときもあれば、それぞれが、一本一本の指が独立して、非常に細かな仕事をこなすこともあります。
私たちが寝ているときも、寒ければ毛布をひっぱりあげたり、目覚まし時計を消してくれたりします。
転びそうになるととっさに手をついて、からだを守ってくれます。
人を傷つけたりせず、手を繋いだり、誰かをなでたり、やさしさや愛情を表現してくれます。
そんな手に感謝の気持ちを込めて、休息の時間を設けてみましょう。1日10分でもよいので、手が普段してくれていることに思いを馳せ、感謝の気持ちを向けましょう。
[ポイント]
発展として、利き手でないほうを使う時間を設けてみましょう。手がいかに日々の暮らしを支えてくれているかに気づきやすくなります。
2. 足の裏を意識する
1日のうち、時間を決めて、できるだけ何度も足の裏を意識します。
タイマーを設定して、鳴ったタイミングで足の裏に注意を向けると効果的。地面や床に足の裏を押しつける感覚を捉えましょう。足に伝わるからだの重み、温かさや冷たさも感じましょう。
試してみると、普段の生活で足の裏を意識することがほとんどないことに気づかされます。足の裏にトゲが刺さりでもしないかぎり、注意を向けることはほとんどありません。それでも足の裏は全体重を支え、歩き回っています。
多くの人は、自分の存在は思考する脳にあると思っているため、脳から遠い足などは脳の下僕のように捉えがちです。
考えすぎる思考の力を少し抑えるためには、「思考」を「意識」に切り替えるのがポイント。足の裏で感じるかすかな知覚に意識を向け、ただ感じる時間を設けてみましょう。
[参考]
伝統的な方法では、靴の中に小さな石を入れるそうです。今回は痛くない方法にしました。
3. 体の中の水を意識する
人の体はその約70%が水分です。体内はさまざまな体液で満たされており、水分をとることは人間の生存に不可欠です。
1日のうち、静かに横たわれる時間と場所を確保して、からだの中の水を意識してみましょう。
からだが水袋になった状態をイメージして、7割の水の重みを感じてみます。からだを揺らしてたぷたぷと水袋を揺らしてみましょう。自宅で家族にやさしく揺すってもらうのもよいでしょう。
しっかりからだの中の水を意識できたら、体の外のいたる場所にもある水にも意識を向けてみましょう。
[参考]
普段は気づきにくいですが、生活しているとからだの各部分にかなり力を入れています。水袋の活動は、無意識に力を込めてこわばったからだを緩めてほぐす効果があります。
4. からだに現れるいらだちのサインを意識する
いらだちを感じても、頭や心はそれを認識するのに時間がかかります。「いらだったり不安になったりする自分は大人げない」などという思い込みが先行している場合、受け止めるのに時間がかかる人もいるでしょう。
それに比べ、からだはとても素直にいらだちのサインを発します。そんなときは、「いい・悪い」の判断をせず、思考の力で制したりしようとせず、ただ意識を向けてみましょう。
いらだちはどのようにからだに現れるでしょうか。無意識に眉をひそめる、小刻みに手で机をトントン叩く、貧乏ゆすりが出る、口をきゅっと閉じる、肩がこる、心臓の音が早くなるなど、サインは人それぞれです。普段から、自分のいらだちのサインをふりかえっておくと、意識しやすくなります。
いらだちのサインが現れたら、静かに意識を向けます。「早くしてくれよ」といった心の声にも注意を向けます。自分に「なぜ急いでいるの」「急ぐとどんないいことがあるの」というように、問いかけてみましょう。
[ポイント]
怒りをはじめ、ネガティブ感情は誰にでもあって当たり前のものです。この方法は怒りに振り回されない扱い方として有効です。ネガティブ感情が現れたときこそ、思考の力にちょっと休んでもらい、からだに意識を向けることで、いらだちがエスカレートするのを避けることができます。
アレンジとして、不安のサインも意識してみましょう。
5. 3回深呼吸する
考えすぎる思考や心のスイッチをオフにするのに効果的な方法です。
一日のうち、できるだけたくさん、3回深呼吸をします。不定期にアラームが鳴るよう設定しておくと、忘れずに行えます。
深呼吸をする間は、呼吸の動作に意識を向けて、「今、ここ」に立ち戻ります。絶えず流れる思考はいったん脇に置いて、黙っておいてもらいます。呼吸を終えたら、少しの間心を自由にして、また次の3回の呼吸に集中します。
[ポイント]
一日のうち何度かでも、「今、ここ」に立ち戻る時間を設けることで、思考の力を抑えることができるようになります。思考は自分で無理に抑え込もうとするとかえって暴走しがちなので、定期的にからだや呼吸に意識を向けて習慣化していくのが効果的です。
アレンジとして「電話が鳴ったら、すぐにとらずに、マインドフルネスな深呼吸を3回する」と決めておくのもよいでしょう。
まとめ
五感に続き、からだに意識を向けるマインドフルネスのトレーニング方法を紹介しました。
五感やからだを意識する方法はとりいれやすく、また心や思考にちょっと休息してもらい、「今、ここ」に立ち戻るのに効果的です。また実践してみることで、とても大きな気づきをもたらしてくれます。
記事を参考に、自分なりに実践しやすい方法をアレンジして、ぜひチャレンジしてみてください。
参考:ジャン・チョーズン・ベイズ著 『「今、ここ」に意識を集中する練習 心を強く、やわらかくする「マインドフルネス」入門』 日本実業出版社