セルフケア

ストレスコーピング~ストレスをマネジメントするための視点を持とう

生きていくうえで誰もが避けて通ることのできないストレス。仕事でなんらかの強いストレスを感じているけれど、「仕事にストレスはつきもの」と考えて対処しなかったり、効果的な対策がわからず悩んでいる人も多いでしょう

今回紹介するストレスコーピングとは、ストレスの原因である「ストレッサー」や、自分自身の「ストレス反応」に対処し、ストレスの軽減を図る方法です。

まずはストレスに対する自分の認知パターンをふりかえり、対処のバリエーションを増やすことから始めてみましょう。

ストレスコーピングとは?

誰もが日常的に「ストレス」という言葉を使っていますが、昔から今のような意味合いで使われていたわけではありません。

そもそも「ストレス」とは「物体に圧力を加えたときに生じるゆがみ」を意味する物理学の用語でした。

この概念を人間のもつ課題に応用するようになったのは、1950年代にオーストリアの生理学者ハンス・セリエの「ストレス学説」が発表されてからです。

セリエ氏は人が厳しい環境に置かれたとき、これに適応しようとして身体的・生理学的にある一定の反応が起こり、徐々に耐えられなくなると病気に至るというプロセスに着目。厳しい環境を「ストレッサー」、適応しようとしている状態を「ストレス状態」と呼びました。

それを心理学の認知的評価の観点からストレスコーピング理論として提唱したのが、アメリカの心理学者リチャード・S・ラザルスです。

同じ状況に置かれても、ストレスを感じる人もいれば、そうでない人もいます。認知的評価、つまり人が環境をどう捉えるか、どのように関わるか、その決定によってストレス反応も変わります。人がこうした決定を行いながら、周囲からの要求や自分の情動を処理していく過程を「コーピング(対処)」と呼んでいます。

ストレス発生の3つのプロセス

ストレスコーピング理論によると、ストレスの発生プロセスは、次の3段階に分けられます。それぞれの段階を意識することで、自分が抱えるストレスの傾向やパターンが見えてきます。

1.ストレッサー

「ストレッサー」とは、ストレス反応が生じる原因のことで、外部からの圧力や刺激を指します。

ストレッサーは主に3つに分類されます。

生理的ストレッサー      :病気、飢え、睡眠不足など

物理的・科学的ストレッサー  :暑さ、寒さ、有害物質など

心理的・社会的ストレッサー  :家庭や職場における不安や緊張、怒り、恐怖など

中でも人間にとっては、心理的・社会的ストレッサーが大きく作用するとされています。

2.評価(認知)

「評価」とは、自分にとってのストレッサーの大きさや、ストレッサーへの対処能力が自分にあるかなどを認知したり判断したりする段階のことです。

たとえば、隣家の風鈴の音は同じ刺激であっても、主観的な認知や判断によって「心地よい」と感じる人もいれば「騒音」と捉える人もいます。

上司からの一言も、認知の仕方によっては「ありがたいサポート」になる場合もあれば、緊張や苦痛をもたらす「叱責」になる場合もあるでしょう。

評価は次の2段階があります。

一次評価:ストレッサーが自分にとって有害か無害かを判別するプロセス

二次評価:ストレッサーの大きさと自分の力を比較し、自分がストレッサーに打ち勝つ対処能力があるかないかを推測するプロセス

ストレスコーピングにおいて、この認知の段階はとても重要で、のちに述べる対処法の選択肢を増やすことにつながっていきます。

3.ストレス反応

「ストレス反応」とは、ストレッサーを評価した結果として生じる反応のことです。

ストレス反応は多様ですが、大きく次の3つに分類することができます。

身体的反応:頭痛、腹痛、動悸、不眠、湿疹など     

心理的反応:不安、苛立ち、気分の落ち込みなど  

行動反応 :暴飲暴食、アルコールなどへの依存、ひきこもり、暴力など 

たとえば「仕事のプレゼン前に緊張して眠れない日が続いた」というケースでは、心理的な不安感のほか、不眠といった身体的なストレス反応が生じていることになります。

  

ストレスコーピングの種類

では、私たちはそのストレッサーやストレス反応に対して、どのようなコーピングを行っているでしょうか。

5つのストレスコーピングを紹介します。普段行っている自分の対処法と照らし合わせてみてください。

問題焦点型コーピング

自分が直面している問題(ストレッサー)そのものに何らかの形で働きかけ、解決しようとする方法です。

解決に向けてストレッサーに接近する場合だけでなく、あきらめて回避する場合も問題焦点型に分類されます。

たとえば上司との関係性がストレッサーである場合は、上司に近づかないようにしたり、部署を変わったりすることも問題焦点型コーピングと言えます。

社会的支援探索型コーピング

ストレッサーに直面したときに、周囲に相談・支援を求め解決する方法です。

仕事量の多さがストレッサーである場合は、同僚に手伝ってもらうようお願いしたり、上司に相談したりすることを指します。

自分の力ではどうにもならないことでも、誰かのアドバイスやサポートを受けることで解決が見え、ストレス軽減につながることもあります。

認知的再評価型コーピング

ストレッサーに対する評価(認知)を変えることで、ストレス反応を軽減させる方法です。

物事を違った角度から受け止めたり、ネガティブな捉え方をポジティブに転換してみるなどの方法があります。

前述の仕事量の多さがストレッサーの場合、ゲームを攻略する感覚で取り組んでみたり、自分の成長のためのステップだと前向きに捉えたりすることもこの認知的再評価型にあたります。

また、人間関係では苦手な同僚や上司のよい面を探すことも、相手に対する認知を変えてストレスを軽減する方法の1つです。

情動焦点型コーピング

ストレッサーによって生じた感情を人に話すことで発散したり整理したりする方法です。

多くの人が日常的に取り組んでるコーピングの1つだと言えるでしょう。

気のおけない友人や同僚への愚痴から、信頼のおける上司やカウンセラーなどへの相談まで、ストレス反応の大きさや程度によってさまざまなレベルがあります。

気晴らし型コーピング

趣味や好きなことをして気分転換を行うことで、蓄積したストレス反応を解消する方法です。いわゆる「ストレス発散・解消」にあたります。

音楽、カラオケ、映画、飲み会、旅行などなど、ほとんどの人が、何かしら自分なりの気晴らし型コーピングを持っているのではないでしょうか。

「私」のストレスコーピングをふりかえってみよう

私たちは日常的に何かしらストレスを感じ、それに対処しています。ストレスの原因や捉え方、反応や対処法は人それぞれ。

しかし、ストレスコーピングの全体像を知ることで、ストレッサーへの捉え方を変えたり、今まで思いつかなかった効果的なコーピングに出会える可能性も高まります。

「私」自身がストレスを感じる場面をリストにし、それぞれについて具体的に

・ストレッサー

・評価(認知)

・ストレス反応

・今行っている対処法

を書き出してみましょう。

書き出してみてどんなことに気づくでしょうか。「人間関係のストレスが多いな」、「1人で気晴らしして対処してきたけれど、一度、同僚や上司に状況や気持ちを聞いてもらおうか」などなど、気づいたこと・感じたことを受け止めることから始めましょう。

まとめ:ストレスコーピングを学んで、対処法の選択肢を広げよう

今回は、ストレスコーピングについて解説しました。

ざっくりと「ストレス」と認識しているうちは「自分の手に負えないもの」と思い込んでしまいがちです。しかし、ストレスコーピングの理論では、ストレスかどうかは自分の見方や決定によるところが大きいという点が重要。ストレスコーピングの概要を知って自分のストレスについて分析を深めたり、対処法のバリエーションを知ると、自分にできる選択肢を広げることが可能になります。

ストレスを感じたらすぐに取り組める「コーピングリスト」をつくるのもおすすめです。

ストレスを軽減して心身ともに快適な時間を増やすために、ぜひ参考にしてください。

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